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魔術仁術  作者: 龍岡
第1章:始まり
8/19

第八話

次の日、私は前日の疲れからか、起きたのが10時頃だった。

またまた学校は休みなのだが、どうしようかと手持無沙汰になることはなかった。


シシリーが復帰したのだ。遠慮がちに上目遣いでごめんなさいと謝る様子はまるで小動物のようであった。

私たちは昼過ぎに学校の中庭で集まり、状況の整理と、今後のことについて話していた。

まず、ネズミたちの病気が快方に向かっていると聞いて、シシリーは飛び上がって喜んでいた。ただそれでも念のために、薬はこれからしばらくもえさに混ぜ続けることにした。後、無理のない範囲でシシリーが魔法を使っていくことになった。彼女は快諾してくれた。


そこで私はシシリーに聞いてみた。生命力を増強させる魔法とはいったい何なのかを。

どのようなイメージをしているのか。

彼女は少し困った顔をした。


「私たちエルフ族は、生気を感じ取ることができるの。私たちはもともと、森の深くで狩りをして生きていたから。でも、私たち以外はその感覚を知らないから、イメージを伝えるのは難しいかも。」


「そうか...」


やっぱり何かのスピリチュアルパワーなのか...

やはり回復術そのものは私には適さないのかもしれない。

そう思っていると、エドワードが口を開いた。


「レピアは、かいぼうとか、いうやつをやって、ネズミの、病気が、わかったん、だろ?多分、君は、僕なんかより、ずっと、生き物の体について、詳しい。なら、生命力の、イメージに、こだわらなくても、いいんじゃないかな。」


「どういうことだい?」


彼はしばらく考え込んだ後、


「つまり、シシリーは、感覚的だけど、レピアは、理屈っぽいんだ。だから、理屈で、行ってみたら、どうだろう?この前の、小鳥も、傷が、どうやって、治っていくのが、もし、わかってる、なら、なんとか、なるかも、しれない。」


なるほど、生命力というアバウトな概念は感覚的でわからない。なら、個々の事象において生命力がどんなものかを分けて考えていけばよいのか。

そうすると、例えばネズミであれば生命力とは免疫の活性化。つまり、サイトカインなどによる免疫の誘導。小鳥のひなであれば創傷治癒の過程を想起し、それを促進していけばよいのか。


「エドワード、あの小鳥は今どこに?」


「あのひななら、少し外に、出そうと、思って、連れてきてる。」


そう言うと彼は小箱を取り出した。

開くと小鳥のひなが入っていた。


「魔法を、使って、みるのかい?」


「ああ。もしかしたらできるかもしれない。」


私は優しく羽に巻かれた包帯を取った。

表面には血餅、つまりかさぶたができていた。

私は医学部生だ。獣医学部生ではなかった。だから鳥も人と同じかどうかが分らなかった。それでも私は試してみたいと思った。自分の魔法を。

いま、この鳥は創傷治癒の過程で言うと肉芽形成期だろう。

簡単に言うと、コラーゲンなどの線維によって傷の部位が補強され、それを足掛かりに皮膚の下の毛細血管が再生されていく。毛細血管が伸びることで傷の部位に養分が行き届き、さらに強固にコラーゲンによって傷が補強されていく。こんな状況だ。

ならば、コラーゲンを増生させていこう。線維芽細胞の中で、転写酵素に各種RNA、リボソーム、ゴルジ体にシャペロン、全てを動かすイメージだ。血管も延長していく。

私は集中した。私に適性のある魔法ではない。でも、適性がなくても回復術を使えたやつは確かにいた。私だってできるはずだ。


「すごい!」


10分ほどたったころだろうか。エドワードの声がした。

私はゆっくりと目を開けた。

鳥の羽から、かさぶたがぽろぽろ剥げていっていた。

そして、表皮が現れた。羽はまだ生えてきていないし、瘢痕化が起こって黒くなっている。しかし傷は無くなり、表皮も十分な強度を持っていた。

私は創傷治癒の第二段階、肉芽形成期。これを魔法で早めたのだ。


「これはどうやって?レピア君、すごいよ!」


うれしかった。ついに私も回復術の片鱗に触れたのだ。

高まる気分とは裏腹に、強力な倦怠感が体を襲った。

何が起こったのか私はわからなかった。ゆっくりと私は目を閉じた。



気が付くと私は自分の寮の部屋で横になっていた。


「全く、シシリーの次はレピアか。なんでこうみんな魔法を倒れるまで使うんだ。まだ大した魔力も持っていないのに。」


見るとルサス先生がベッドの横で座っていた。


「あの、私はどうしてここに?」


「どうしても何もお前は適性もないのに回復術を使った。それも性質としては再生魔法に近いものだ。生体物質の生成をお前は無意識化で行った。それで魔力が付いていかなくなってぶっ倒れたんだ。」


再生魔法を私が使ったというのか?


「再生魔法?私がですか?先生。」


「いや、正確には違う。お前は鳥に対して生命力強化の魔法を使った。まあ、それだけでもお前にしてはすごいのだが、あの傷の治り方は再生魔法に近い。無意識のうちに別の魔法も使ったのだろう。複合魔術は本来2年の分野だ。全く、そんなことをふいにやってのけるとは。私の師匠にそっくりだ。」


「ルサス先生の師匠ですか?誰なんです?」


ルサス先生はすっと立ち上がった。


「さて、驚くなよ、お前は実は数日間眠っていた。だから、ネズミたちの判定を行うのはもう明日だ。どうなったかはあえて誰からも聞いておらん。明日を楽しみにしているぞ。」


ルサス先生は部屋から出ていった。


そうか、私はそんなに眠っていたのか。

頭がボーっとしていた。

思考が鈍って頭がものすごくスローモーションになっている。

明日が結果発表か。そうか。ネズミたちはちゃんと元気でやってるのかな。

私は開けたばかりの瞼を再び閉じた。



「お坊ちゃま、お坊ちゃま。お疲れのところ申し訳ございませんが、朝でございます。起きてください。」


身体がゆすられている。

起きるとあの時計の精とやらがいた。


「まことに僭越ながら、アラームをセットされてはいませんが、私の判断で起こさせていただきました。今日は何やら大切な日のご様子。もう朝の6時ですのでしっかりと準備をして授業に臨んでいただくべきかと。」


時計を見ると6時を少し過ぎていた。


「そうか、ありがとう。気が利くな。」


「いえいえ、これが私めの役割でございますので。それでは今日も良き1日を。」


そう言うと老紳士は霞となって消えていった。

私は髭を剃り、着替え、髪型を整えると、食堂に向かった。

その日の朝食はグリンカムビのオムレツだった。

食堂に行くとクラテがいた。


「全く、君は次から次へと。今度は君が倒れたんだって?」


「あはは、面目ない。」


私は苦笑いしながら向かいの席に座った。


「で、どうなの?レピア君のところのネズミは生き残ったの?」


「わからないや。さっきまで寝込んでしまっていてどうなったか把握できてないんだ。」


「そっかー。私のところはもう5日目に全滅しちゃって、アヴィ君もしょんぼりしてたよ。」


へらへら笑いながらクラテが言った。


食事を終えると、1週間ぶりの回復術師のクラスに向かった。

教室にはケージが布を被っておかれていた。

なんでも以前同じ課題を出した際に、流体操作魔法を使ってネズミの死体を動かし、生きてるように見せかけた生徒がいるそうで、そう言ったことを防止するために魔法を妨害する布切れがケージにかけられていた。

私はクラテと別れ、シシリーとエドワードのところに行った。

どうなったのか話を聞こうとしたとき、


ドン...


久しぶりに扉が騒々しく開く音が聞こえた。


「今日はネズミがどうなったのかの確認を行う!各自最大限の努力をしたものと思うが、必ずしも報われなかっただろう。そうだ。お前たちはまだまだひよっこだ!だからここで折れるな!ここから学べ!貪欲に吸収しろ!これから一流の回復術師まで駆け上がっていけ!」


ルサス先生が声を張り上げた。


「さて、では早速結果を見ようではないか。各班、布を取れ!」


どの班も一人立ち上がって、ケージにかかった布を取り去った。

シシリーとエドワードは私を見て頷いた。

私はゆっくり立ち上がり、布に手をかけた。

自分の心臓の鼓動が聞こえた。まるで肋骨や胸骨が一緒になって震えているようだ。


私は思いっきり布切れを引っ張り上げた。

地味なベージュの布切れが宙を舞う。

そしてケージの中にはうごめく黒い塊が3つあった。

カサカサと音を立てて走り回っているそれは、ネズミであった。


「おー!すっげー!生きてんじゃん。マジかよ!」


別のグループのやつが叫んだ。

それにつられるように教室にどよめきが広がった。

私はゆっくりと見まわした。

他のどのケージも空であった。


「まさか本当に生き残らせる奴が、いや、これは病を治したというのか!」


ルサス先生は鼻を膨らませて驚いていた。

シシリーとエドワードが駆け寄ってきた。私たちは抱き合った。

私たちは成し遂げたのだ!誰も成し遂げなかったことを!

アヴィとクラテが歩み寄ってきた。


「レピア君。本当にすごいや!いや、負けたよ。怒らないでほしいんだけど、あの時君のことを可哀そうだと思ってしまったんだ。やりたいことと適性は必ずしも一致しない。そんな残酷なことを目の前で見て、君のことを可哀そうだと思ってしまったんだ。それでも君は、僕なんかよりも素晴らしい結果をのこした。本当に僕の完敗だ。」


そう言うと、彼は手を差し出した。


「これからも絶対負けないからな。」


私は彼の手を力強く握りしめた。

クラテが私に向かってウィンクした。

あの、えーと、わ、私ですか?

お、『教えて!レピア君』です!

今回は私、シシリーが担当します。

私はエルフ族ですが、実は純血ではないのです。

私はもともとオデュッセイアではない国で生まれ育った、人間とエルフのハーフなのです。

そうすると私には人の血が半分ほど流れているということですね。

ただ私の父と母は戦争で亡くなり、すでにこの世にはいません。


少し湿っぽくなってしまいましたが、今はとても楽しいです。

陽気なクラテさんやおかしなエドワード君、アヴィ君も見た目と中身のギャップが面白いです。それに優しいレピア君。レピア君は何か特別なものを感じます。


え?悩み、ですか?

そうですね。やっぱり、その、エルフ族の性なんでしょうけど、胸がもう少し大きくなりたいです。

その方があの人も...

な、なんでもありません。

はい!もうおしまいです!おしまいですって!

『教えて!レピア君』おしまい!


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