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魔術仁術  作者: 龍岡
第1章:始まり
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第二話

学園につくと、私はどの職業クラスに行くかを決めることになっていた。

掲示板には様々な職業が書いてあった。

魔導士にクラフター、農家、商人、料理人、戦士などがあり、他にも様々な職業があった。だが、中でも私が一番気になったのは回復術師だ。やはり私は人を救う仕事に就きたいとこっちの世界でも思ってしまうようだ。


さて、皆さんは魔法の適性に応じてクラスが決まるのではないのかと思うことだろう。

なのでここで適性検査の結果とクラスの関係について話をしよう。

適性検査はあくまで魔法適性の検査であり、魔法自体の適性が仮に異なっていても、最初の年は好きなクラスを取ることができる。そして、総合的に成績見てその職業に適していれば、そのクラスに残留することができる。しかし、総合的に1年の成績を見て不適という判断が下れば、強制的に別の職業のクラスに移動させられるシステムである。

とは言え、魔法の適性が職業とあっていれば不適という判断が下ることはまずなく、大体は魔法適性と職業が一致していない場合が多い。そのため通常、移動の場合は自分の魔法適性と合った職業のクラスへの移動となる。


私はまだ自分の魔法適性を知らないが、きっと回復魔法に優れているはずだ。私はそう信じていた。


教室につくと、既に何人か将来のクラスメートがいた。


「やあ、君はさっきの。君も回復術師のクラスなのかい?」


私に話しかけてくる奴がいた。みるとさっきのオオカミの獣人だ。

おなじアポロニアの新入生だったのか。

にしても結構ごつい見た目なんだから戦士とかそういう肉体系だろ!

内心私はそう思った。


「ああ、さっきはありがとう。僕はレピア。君は?」


もちろんこの名前はさっき流れ込んできた記憶の中にあった、この世界の私の名前である。


「僕はアヴィ。見てのとおり獣人だけど、これからもよろしくね。」


アヴィか。見た目は怖いが優しそうなやつだ。

そのあと私たちはしばらく話していた。

どうやらアヴィの家系は代々傭兵をやっているのだが、彼は臆病で傭兵としては使い物にならないということで学校に入り、一から自分の職業を考えようと思ってここに来たらしい。見てくれからするとびくびくした奴というよりは、びくびくさせる方だとは思うが...


ドン...


ふいに教室のとびらがけたたましく開いた。

見ると2メートルはあろうかというオークが扉をくぐって入ってきた。


「さあ、席に着け!俺は今日から回復術師のクラスを担当するルサスだ。今年の回復術師クラスの新入生は12人か!全員新顔だな!お前らはクラスメートだ。仲良くしろよ!」


どうやらこのクラスの担任のようだ。

なんでこんな脳筋豚ヤロウみたいなのが回復術師の教師なのかははなはだ疑問である。


「よし、じゃあまずは魔法適性の検査をする。順番にこの水晶に手をかざしてもらおう。」


いよいよだ。これで自分の将来の大部分が決まると言っても過言ではない。

どうか神様、私に回復術師の適性を!


私はアヴィの次だった。

続々とみんな適性が明らかになっていく。

一番初めのやつは生命力に関する魔法適性だった。つまり魔導士のような呪いを扱う職業にも回復術師のような回復魔法を扱う魔法のどちらにも適性がある。

次のやつは強化魔法の適性。戦士系に向いているが、回復術師から完全に外れているわけでもない。

その後も続々と適性が明らかになっていく。落ち込むもの、微妙なもの、歓喜するもの。皆それぞれだった。

アヴィの番だ。アヴィが手をかざすと水晶は微かに白く光った。


「ふむ、アヴィ、貴様は再生魔法の適性か。かなりの逸材だな。この適性はなかなか珍しい。」


教室がどよめいた。再生魔法は、扱えるものが少ないが、かなり強力で、順調に力をつけていければ手や足の欠損の治療もできる。まさに、回復術師の中でも稀有な才能だ。

アヴィは照れくさそうに顔を赤くして喜んでいた。


さて、ついに私の番だ。いい適性が来てくれよ!

私は勇んで水晶に手をかざした。


水晶は力強く茶色く輝いた。


「こ、これは!」


ルサス先生は驚いた。

これはいい適性なのか?私は期待した。


「ふむ、レピア、貴様は創造魔法の適性があるな。クラフター向きだな。だが、この光の強さ、クラフターだとしたらかなりの才能がありそうだな。」


私は唖然とした。

クラフター?そんな職業にはかけらも興味がなかった。

何ということだ。出だしから完全にアウトだ。


「レピア君、大丈夫だよ。一緒に頑張っていこう。」


私が落ち込んでいると、アヴィが心配そうに声をかけてきた。

そんな優しい言葉に対して、私はついアヴィをにらんでいた。


「...ごめんよ。」


アヴィはしょんぼりしながら言うと私から遠ざかっていった。

自分が情けなかった。

彼は別に悪くない。そんなことはわかっていた。なのに彼が心底うらやましくて嫉妬してしまった。

いや、違うかもしれない。自分にアヴィが気を使っている。そんな状況に私は劣等感を覚えたのだ。

クソ、チクショウ!なんなんだよ!



一通り適性検査が終わると、次は学校の説明が始まった。

今年1年は好きなクラスに所属できるし、夏休みに入る前は希望があれば別の職業のクラスの授業に部分的に参加することもできる。授業への出席や小テストなどは特になく、評価は1年の最後の試験のみで行う。その評価で赤点を取ったものはもう一度1年生を別のクラスで受けることになる。なお、夏休みまでに申請を出せば、別のクラスへの転入をすることができる。

概ねこんな感じだった。

その後、明日からの全クラスの授業日程が渡され、その日の学校は終わりとなった。


さてどうしたものか。この様子だとクラフタークラスの授業をのぞいてみたりするべきなのだろうか。どうせ回復術師だと留年するかもしれないんだ。だったら最悪クラフタークラスに転入して一発で通ったほうがいいかもな...

なんだかどんどんみじめな発想に流れていった。


「ねえ君。えーと、レピア君だっけ?」


振り返ると茶髪に碧眼のハーピィの女の子がいた。

たしか名前は...


「私はクラテ。君は適性が創造魔法だったんでしょ?」


そうだクラテだ。

適性は確か視覚系で、透視したり、他人と視覚の共有をしたりとかそんな少し変わった魔法の適性だ。

警察官や諜報員向きの魔法だ。回復術師向きではない。


「やあ、クラテさん。そうだね。僕はクラフターの適性みたいだ。」


私は自嘲気味に苦笑いをした。


「そうね。でもまだ無理と決まったわけではないんだし。一緒に回復術師を目指して頑張ろう!」


ありきたりな言葉だった。頑張れば何でもうまくいくわけじゃない。報われない努力なんてはいて捨てるほど世界にはありふれている。それは前の世界でも見てきた。


グー...


彼女の腹の虫が鳴いた。


「あはは、そういえばもうすぐお昼だし、一緒に食堂行かない?お腹すいちゃって。」


彼女は少し恥ずかしそうに言った。


私とクラテは学校内にある食堂に行った。

食堂にはいろんなメニューがあった。また、人間以外にも獣人用のものやハーピィ、ゴブリンやエルフといった様々な種族のメニューがあった。

私はダゴンの肉のラグーソースパスタを、クラテさんはアルラウネのラぺをそれぞれ注文した。

パスタはとてもおいしかった。前の世界で、教授に連れて行ってもらったイタリアンのレストランで出てきたものといい勝負だった。

しっかりとした肉の噛み応えと、力強く広がる肉のうまみが体中から活力を湧きあがらせる。そこに添えられたハーブのスパイシーで爽やかな香りが風味に絶妙なアクセントを与え、食べ飽きることのない美味しさを生み出していた。

クラテもおいしそうにラぺを食べていた。どんな味がするのか気になったが、クラテに聞くと、笑いながら人間には猛毒で、食べたら死んでしまうと言っていた。笑顔でさらっと怖いことをいう人だ。


「そういえば...」


クラテが切り出してきた。


「アヴィ君ってお友達なの?朝は仲良く話していたみたいだけど。」


「うん、まあ。でもさっきひどいことしちゃったんだ。」


「ひどいこと?」


「うん、あいつの適性って回復術師にぴったりというか、なんだか選ばれし者って感じだったから、つい妬んでしまったんだ。それで彼が気を使って声をかけてきたのをにらみ返してしまって...」


「ふーん」


「自分でもアヴィに怒りを向けてもしょうがないってわかってるんだ。それでも自分の才覚のなさが情けなくってどうしようもなかったんだ。」


「それで...」


クラテが静かに言った。

先ほどまでとは打って変わってシリアスな雰囲気をまとっている。眼光も鋭くなっていた。


「それで、君はどうするんだい?アヴィ君に謝るのかい?どうせ謝ったって君は心のどこかで嫉妬を抱えているじゃないか。君は劣等感を抱えたままだ。なら君はどうするんだい?」


たしかに僕は謝ろうと思っていた。それが良いことだと思っていた。

しかし、たしかに謝るなんて行為は安直だ。表面的な解決にしかならない。ならどうすればいいんだろう。

私はしばらく考えた。


「僕は...そうだな...。僕は見返してやりたいんだ。絶対にいい成績を取って、同じ回復術師を目指すものとしてアヴィと対等になってやるんだ。もうあいつが僕に気なんて使わないように。それどころかあいつが焦るくらい僕は優れた回復術師になってやるんだ。」


クラテの表情がほころんだ。


「そうさ、その意気さ。だからこれからも一緒に回復術師を目指そうな。わが同士よ!」


彼女は少しおどけた感じで言った。

私もクラテも笑っていた。



学校に併設されている寮の自室に行くと、私は早速今年の授業日程に目を通した。

どうやら回復術師のクラスの授業自体は一日に3時間ほどで、それ以外の時間に一般教養の授業や他のクラスの授業を受けに行くことができるようだ。もちろん、回復術師の授業自体もさぼって別の授業を受けることもできる。まあ、さすがに初日は行った方が良いだろうが...。


私はベッドの上に横たわり、頭の中で明日以降の授業を何度もイメージした。

どうせ前の世界で死んだのだ。この拾った命、精一杯に足搔いて足搔いて、足搔き続けて、絶対に回復術師になってみせる。

私はゆっくりと目を閉じた。

そしてこの世界での最初の1日が終わった。

さて、始まりました。『教えて!レピア君』

記念すべき第1回は、私たちの名前についてみていきましょう!

まず私の名前、レピア、ですが、これはギリシャ神話の名医、アスクレピアスからとっています。

我ながら名医なんて恥ずかしー。


次にアヴィ君、彼はイスラム圏の大知識人で、第二のアリストテレスとも言われるイブン・スィーナーの英語名、アヴィセンナからとっています。


そしてクラテさん。カワイイハーピィの女の子ですが、こちらは古代ギリシャの医学大成者、ヒポクラテスから名前を取っています。女の子なのに名前はおじさんです。


他の登場人物も偉人や神話から名前を取ってきています。

それぞれのキャラクターの名前の由来が誰なのか、ぜひ探してみてねー。

それではまた次回お会いしましょう。

以上、『教えて!レピア君』でした。

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