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02話-知らない人に付いていってしまいました

「ねぇ、理恵! 今度はあれ乗ろう!」


「えー……やだよー並んでるじゃんー」


「でも三十分待ちなんて奇跡だよ! やっぱり平日は空いていていいなぁ!」


「あっ、まって! ゴミ飛んじゃった!」


 ………………


 …………


 ……


 ――――――――――――――――――――


「ふぁぁぁ……久しぶりに夢を見ました」


 翌朝。

 いつも通りの時間に起きた私は、いつものように水浴びをしてロイさんに朝の挨拶をします。


 そしてロイさんに頂いたパンを口へと運びます。


(私が生まれて15年……しばらく昔の夢なんて見なかったのに……)


 徐々に記憶が薄くなっていますが、昔はもっと知識もあったし人とうまく喋れていたと思います。

 記憶力も話し方も知識もこんなにたどたどしくは無かったです。

 やはり身体が小さいから脳も小さいのでしょうか。

 それとも鼠の獣人だからでしょうか?


「そういやリエちゃん」

「はい、なんでしょうか」


「今朝早くローデンブルグ通りにある酒場のアーストさんがこれを渡してくれって」


 ロイさんがお金の入った革袋を机の上に置きます。

 昨日のゴミ掃除の代金でしょう。


「これはロイさんがもらってください。家賃です」


「いや、流石に多いって。うちのひと月の稼ぎ分より多いんだぞ」



 このやりとりは何度かありましたが、ロイさんはいつも受け取ってくれません。

 だから私もいつもの返事をします。



「じゃあ半分こしませんか? 私はそれでも多いぐらいですので」


「……はぁ……わかったわかった。リエちゃんならこんな狭っ苦しい店じゃなくても一人だけ住めるほど稼げるってのに」


「いえ、私はまだ皆さんに、この街に恩返しができてませんから」


 頂いた半分の報償金は毎回そのまま孤児院へと持っていきます。


 少しだけ……いざという時の食費分だけ頂戴して。


「では今日も行ってきますね。ごちそうさまでした」


 毎日毎日、雨の日も雪が降る日も繰り返されるルーチン。

 退屈だけど、平和な証拠。


 私はいつものように籠と袋、それに箒を持って裏口から家を出ました。


 ――――――――――――――――――――


「失礼、リエさんでしょうか?」


「…………?」


 私がいつもの公園の隅っこでお昼のパンを頬張っていると、見知らぬ男に声をかけられました。


 モグモグと口を動かしていたのを男もわかっていたのか、じっと私が喋れるようになるまで待ってくれているようです。


「んっ……えっ、と、リエは私です」


「失礼しました。私は王立審議会のものです」

「…………? ――っ!?」


 王立審議会……それはこの街にあるようは裁判所のようなものだと記憶しています。


 なぜ、審議会の人が私のようなゴミ掃除人に声をかけてくるのでしょうか。

 もしかして昨日のゴミ掃除の分別を間違ってしまったのでしょうか。


 なにも悪いことをした覚えはありませんが足がガタガタと震え、尻尾がくるんっと丸まってしまいます。


「怖がらせてしまって申し訳ありません。そういう話ではありません」




 胸元に天秤を示す金でできたバッジをつけた短髪と男の人。

 私と同じで笑顔が苦手そうな雰囲気の人が必死に作り笑いを浮かべ、手をバタバタと振っています。


「そっ、それでどのような御用でしょうか」

「……失礼いたしました。私の上司がリエさんのお話を伺いたいと申し出まして」


「私の……ですか?」

「えぇ、昨日ローデンブルグの酒場でのことはリエさんですよね?」




「……酒場に行けるような歳ではないのでー」


 私は嘘はつかず、しれっと話を流そうとします。

 何しろ罪人を裁く権限が与えられている人です。

 声をかけられた時点でロクなことにはなってない気もしますが、嘘をつくとろくなことになりません。




「では、改めて言い直しましょう。王立審議会特別審議官のナザックです。リエさん王立審議所へと出頭願います。出頭命令書はこちらに」


「――っ!?」


 この男、無害そうな顔をしてるのに既に懐にとんでもないものを隠していました。


 出頭命令書には逆らえません。

 親が死んだ時と子供が生まれる時以外、これを無視すれば問答無用で牢獄行きなのです。


「あわっ……わ、わ、私なにも悪いことなんて……」


 その真っ赤な紙を見た途端、自分が罪人になったような気がして目から涙がこぼれ落ちます。


 足はガタガタと震えたままで、立ち上がれそうにもありません。


「うっ、すっ、すいません、ごめんなさい! これ審議官的な軽い冗談なんです! ほらさっきも言ったように、話を聞きたいだけなんです!」


 そんな冗談、一般人に使うなよと心の中で呪いながら、よろよろと立ち上がった私は男の人に連れられて街の中心部へと向かうことになりました。



 ――――――――――――――――――――


「こちらが王立審議会の建物です。どうぞ」


「あの……」

「はい?」


「これどうしたら……」


 王立審議会とやらの建物がどこにあるのか知らずについてきましたが、事もあろうにお城の隣でした。


 この男は、ゴミ掃除用の籠と袋に箒を持ったままの格好でこんなところに立たされている私の気持ちを考えたことがあるのでしょうか。


 大理石のような立派な石造りの建物。

 見上げるほどの建築物は何階建なのかよくわかりませんが、上から落ちたら死ぬことだけは確かな高さです。


 ナザックさんと同じような物々しい格好をした人たちがチラチラと私の方を見ながら通り過ぎて行きます。


「リエさん、そのままの格好で大丈夫ですよ」

「…………わかりました」


 建物の正面入り口を通り、ナザックさんが入り口の衛兵になにやら伝えるとそのまま奥へと通されます。


 外観と同じく見上げるほど高いロビーの天井。

 私には一生縁のない豪華な建物です。


「こちらです」


 真っ赤な絨毯が敷かれた階段をおっかなびっくり歩き、二階へと向かうと、ナザックさんが一番奥にある両開きの扉をノックしました。


 この扉を外して地面に置くだけで私の寝床になるようなサイズです。


「どうぞ」


 扉の中から女性の声がして、ナザックさんは躊躇わず扉を開き中へと入っていきました。


 私といえば、縮こまった尻尾をカゴで隠しながら箒を両手で持ち、なるべく絨毯を汚さないようにおっかなびっくりナザックさんの後ろをついていくことしかできませんでした。



次は20時ぐらいには更新します!


気に入って頂ければ↓のブクマ登録を頂ければリエが喜びます!

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