21話-朝飯前
「お魚、美味しいです……」
「そ、そうか……良かったよ」
宿屋の一階にある食堂で少し遅い目の朝ごはんを頂く。
木製テーブルに並べられた魚定食はこの宿の名物らしい。
向かいに座っているリエは初めて見るような満足げな顔で魚を食べている。
俺は二度目だが、リエは使ったことがあるのか箸という食器を器用に使って魚を開いているのを眺めてみる。
昨日背中で寝てしまったリエを布団に寝かしたときは、朝からまた大泣きするだろうと思っていたが、意外にもぐっと我慢し何かを決意したような表情をしていた。
「なぁ、リエ」
「…………?」
「朝飯前って言ったけどさ、昨日出来なかった偵察の話だと思ったんだが、どこでおかしくなったんだ?」
「……(ごくん) えっと……?」
心底不思議そうな表情を向けてくるリエ。
箸の先だけ唇にあてたままコテンと頭を傾げる姿は、まだ15歳のくせに妙に色っぽい。
昨日、リエが寝てから一人で下調べをした結果暗殺対象の男爵やその手下の傭兵くずれどもは全員屋敷に居る事がわかった。
俺はあえてリエにそのことを伝えず、リエの偵察に付き合って危なくなったら助けられるし、最悪情報を俺から共有すればいいと思い二人で男爵邸へと向かったのが二時間前。
そして今「すべてが終わって」ここで朝飯を食べている。
「仕事、終らせるって言った」
リエは男爵邸に到着するなり俺におぶさってきて塀を乗り越えるとそのままズカズカと中へと入っていき、出会った人物全員に『分別』を使い始めた。
30分も経過するころには全員が宙にふよふよと浮かばされた状態で玄関ホールへと集められたのだ。
あとはあの日、酒場で見たのと同じ光景が繰り返されただけだった。
「まぁ……いいか……ほんとどういう思考構造をしているのかはじっくりとシンシアさんに教えてもらおう……」
俺はと言えば、玄関ホールで待機してリエが連れてくる家人や使用人に『審判』を使い続けるだけだった。
あとはリエが『黒』と『赤』を纏めて処分。
哀れ、ただの証拠品としての素材に変えられてしまった。
残りの『黄』と『青』もリエによって記憶が洗浄され、数日間の記憶を失うこととなった。
「しかし、リエと居ると飽きないわ」
「……?」
魚を頬張り、ご飯を流し込む姿を見ながらコーヒーを一口飲む。
この宿、食事はうまかったのにコーヒーはイマイチだ。
「とりあえず帰ったら陛下へ報告だな」
「ん……そうだった。ナザックに触られたり同じ部屋で寝たりしたこと報告……しなきゃ」
まるで悪びれていない様子でそんな恐ろしいことを言い始めるリエ。
「いや、ちょっ、その件は関係ないって昨日言ってたよね? それは報告しちゃダメだからね?」
全くやましい気持ちはないのだが、リエが陛下やシンシア様に言うとろくなことにならないのが目に見えている。
リエが陛下に言う前に俺が全て報告しなければ、色々と大変なことになりそうなので王都に戻ったらまずリエには居候先へ報告に戻らせようと心に誓ったのだった。




