表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

15話-脱いでから調べましょう

「なるほどね……ありがとうシンシア、マーガレット」

「いえ、遅くなりまして申し訳有りませんでした」


 フレイアさんの執務室へ三人で戻った私でしたが、部屋の中の様子は出る前とあまり変わっていませんでした。


 ナザックさんもソファーへ座っていました。

 私が本を持ってこれなかったせいでしょうか。


 ナザックさんからしてみれば助かったのでしょう。

 私からしてみればお遣いを無事に終わらせることができませんでした。


 そう考えると涙がぽろりと溢れてしまいます。

 しかしフレイアさんが既にハンカチを用意していて私の頬を拭ってくれました。


 しかも謝られました。


 その後のことは少し割愛します。




 それからシンシアさんとマーガレットさんが持ってきたという情報を私も聞きました。

 昨日の夜――今朝早くですが、フレイアさんの寝所に忍び込んだ粗大ゴミの調査結果の話でした。




「では、ナザック……徹底的に潰してきても構いません」


「承知いたしました。対象は?」

「関わりのない使用人は一旦逮捕。ほかは任せます」


 フレイアさんからの命を受けたナザックさんが絵に描いたような敬礼をしました。




「一週間ぐらいで終わらせてきます」

「わかりました。必要なものはありますか?」


「私は特にありません」

「では、リエは? 何か必要なものはありますか?」


 突然こちらに話が回ってきました。

 必要なもの?

 なんでしょうか。


 私に必要なもの?

 私は今のところなに不自由なく過ごせています。

 三度の食事に屋根のある寝床。

 お仕事だってあります。


 これ以上必要なものと聞かれても思い浮かびません。


 強いて言えば、下着がそろそろきつくなってきたぐらいでしょうか。

 しかしこれもボロ布でもあれば問題ありません。



「必要な……もの……ありません」

「リエ様?」

「はっ、はい」


 シンシアさんに突然呼びかけられるとビクッとしてしまいます。


「……着替え用の服はお持ちですか?」

「夜のうちに洗濯してるので……いつものと、フレイアさんに頂いた紺色のワンピースがあります」


「…………下着は?」

「履いてます」

  

 履いてますよ?

 もしかしてノーパンとでも思われていたのでしょうか。



「汚れた時の着替え用です。何枚お持ちですか?」

「……なんまい……? えっと一枚だけ予備があります」


「そう……ですか。カバンなどはありますか?」


 カバンなんて何に使うのでしょうか?

 ゴミ掃除には籠しか使いませんし、荷物運びのお仕事とかするのでしょうか。


「……あぁ、これはいけません。陛下少々お待ち下さいね」

「……わ、わかったわ」




「リエ様こちらへ」


 シンシアさんに手を引かれ、部屋の隅へと連れて行かれます。

 チラッとナザックさんの方を見たシンシアさんが、私の頭についているネズ耳に顔を寄せてきました。


 少しこそばゆいです。


「上の下着は何枚お持ちですか?」

「ショーツは?」

「いざという時の衛生用品は?」

「靴下は?」

「石鹸や裁縫道具は?」

「ズボンや上着は?」

「旅行用の鞄は?」

「お化粧品は?」


 矢継ぎ早に小声で尋問のように質問され、頭が混乱してしまいそうです。

 一つ聞かれるごとに一つ答え、そのたびにシンシアさんは「ですよね」と相槌を打ちます。


 流石に下着のサイズや服のサイズとか聞かれても正式な数字は分からないです。

 ちっちゃいことは確かです。


 すると今度はシンシアさんがメジャーを取り出しました。




「リエ様……あ、ナザック様? 少し廊下に出てください」

「……あ、はい」


 シンシアさんにひと睨みされたナザックさんは逆らうこともせず扉から出て行きました。

 廊下に立たされるようです。


 何が起こるのでしょうか。

 違いますね。

 私これから何をされるのでしょうか。


 あの手にしたメジャー。

 首輪を締めるには細すぎると思います。



「リエ様、私も手伝いますね〜」


 気付いたらマーガレットさんが背後にいました。

 尻尾がビクンと跳ね上がります。



「さ、脱いでください。それとも脱がせましょうか?」


 どうやら、これから裸にさせられるようです。

 フレイアさんが窓のカーテンを閉めました。


 あぁ……。




「私とした事が……今からリエ様の体のサイズを調べるだけです……あっ、すいません、泣かないでください。背の高さとか色々調べるだけですからっ」


「そうですよ〜着替えの服を用意するだけですから〜」


 シンシアさんのワタワタとした顔は初めて見ました。

 涙で潤んではっきり見えなかったのが残念です。


 私は一瞬で下着一枚にさせられ、足のサイズからお尻のサイズ、胸も背丈も全て測られました。


 マーガレットさんに言われていなかったら、棺桶を作るためだと勘違いするところでした。




 ヨロヨロと服を着て背中のチャックをマーガレットさんがあげてくれました。


「はい、終わりました。マーガレット、お着替えお願いします。陛下、私はカバンなどの日用品の手配して参ります」

「……お願いね。リエの普段が気になるわ……どうやって今まで生活してきたのよ」


 フレイアさんが頭を抱えてしまいました。

 これはお答えするべきでしょうか。


「あ、そうだ、リエ」

「は、はいっ!」


「いい? ナザックに何かされたら直ぐに私に言ってね? 大丈夫だとは思うけれど……」

「何か……というのは」


「そ、その、身体を触られたり……」

「身体……ですか」


「そ、そう。だからその時は私に言いなさい?」

「わかりました」


 よくわかりませんが、身体を触られたらフレイアさんに言えばいいということは理解しました。



――コンコン



『そろそろ入っていいでしょうかーっ』


 扉の外からナザックさんの声が聞こえました。


「いいわよ」

「失礼します」


「ナザック、あんたリエを泣かしちゃダメですからね? アサヒナに切り刻ませますよ?」


 部屋に入るなりナザックさんが最後通告を受けていました。

 これは私が泣いてしまうとナザックさんがゴミにされると言うことでしょうか。


 アサヒナと言うのがどんな人かは分かりませんが、きっと首を跳ねる様な恐ろしい武器を持った巨漢の処刑人なのでしょう。

 そんな人が目の前に現れたら、私なら泣きながら漏らしてしまいそうです。




「大丈夫です。リエちゃんのことは私が守りますので。今夜出発で良いですか?」


 ナザックさんはどうやら今夜から何処かに行く様です。

 先程表に出た時の空模様や空気の匂いからして土砂降りになりそうな感じでしたが、お仕事はなので仕方ないですね。


 せめて風邪をひかないように祈るぐらいしか私にはできません。



「リエちゃん?」

「…………? はい、なんでしょうか?」


「だから今夜から出発でいい?」

「…………雨が降ると思うので風邪をひかないようにお気をつけくださいね」


「…………?」

「…………」

「………………」


 部屋の中がシーンとしてしまいました。

 言い方を間違えてしまったのでしょうか。



「あー、なるほど、これは私でもわかったわ。リエ? いい? 今回のお仕事はナザックとリエの二人で行ってきて頂戴」


「え?」

「……えぇ……リエちゃん……」


「やっぱり……ふふっ、ナザック頑張ってね」

「が、がんばります」


 フレイアさんが何かを言いました。

 私とナザックさんの二人でゴミ掃除?


 話の流れから考えると、私がナザックさんのお手伝いをすると言うことでしょうか?

 今日はまだ街中のゴミ掃除が出来ていませんが……仕方ありません。


 王女陛下からの命令は私の様な下の方の市民にとっては絶対なのです。

 神様の声に等しいのです。




「……リエ? ナザックと一週間ぐらい二人だけど、何かされたらそのバッジで直ぐに帰ってきなさい」


 仕事というのは先程フレイアさんが伝えていたゴミ掃除のことですね。


 フレイアさんを殺そうとした社会のゴミ……いえ、この国のゴミです。

 その発生源が分かったと言う話でした。


 あのゴミの発生源。


 フレイアさんを殺そうとしたゴミ共。

 それを片付けに行く。


 望むところです。

 どれだけの量があるのかわかりませんが、二人がかりなら直ぐに終わるでしょう。


 分別した素材を持って帰る方法を考えなくてはいけませんが、ナザックさんがいればなんとかなるかもしれません。



 男の人がどれくらいの力持ちかあまり知りませんが、ロイさんは小麦の袋をすごくたくさん抱えていました。


 大人数十人分ぐらいの皮ならナザックさんと私で手分けすれば問題ないでしょう。





「…………陛下、リエちゃんが」

「……えぇ……ちょっと怖いんだけど……シンシアも連れて行かせた方がいいかしら」


「だ、大丈夫だと……思います。責任を持って遂行いたします」

「…………あ、すいませんお話の最中に」


 私の話をされていると気づいて一瞬で我に帰りました。



「そ、その、行き先ってどこでしたでしょうか……覚えていなくて……」


「だろうね。行き先はここから北に向かった街、シンドリという街だよ」


 聞いたことしかありませんが、確か大きな港があってとても寒いところだと記憶しています。




「あっ…………ね、ねぇ、リエ念のために聞くけれどあなた猫は平気?」

「猫?」


「そう、シンドリの街は街中に猫がいっぱいいるんだけど……流石に平気よね?」

「猫……猫がいっぱい…………」


 猫。

 あのにゃーという恐ろしい声ですり寄ってくる生物。


 無害そうな顔をして、隙を見せると鋭い爪と牙で襲いかかってくる悪魔の使い。


 あれの厄介なところは、普段一匹狼を気取っているくせに、デカい獲物を見つけると集団で襲いかかってくるのです。

 首を狙って飛びかかってきます。

 暗殺者なのでしょうか。



 あの爪が皮膚にめり込むと一生消えることのない傷が刻まれてしまいます。


 音もなく忍び寄り、人のご飯を盗み、それを防ぐと猫撫で声で身体をすりすりしてきます。

 そのくせ少し分けてやると、もっと寄越せと大群で攻めてくるのです。


 猫……害獣指定されていないので手は出せません。

 ですが、許可さえ降りれば喜んで絶滅させます。


 猫の毛皮は楽器も作れますし、服も作れます。




「…………ダメなやつねこれは。ナザック頼んだわよ。リエ、猫のことは忘れて仕事のことだけ考えて。怪我しないで帰ってくること。いい? これが一番大事な命令だからね」 


 フレイアさんに肩をポンポンと叩かれました。

 怪我なく帰ってくること。

 それが一番大事な命令……。


 わかりました。


 初めてはっきりと命令と言われました。

 これは失敗するといよいよダメなやつです。

 指の傷すら気をつけなければなりません。



「陛下は相変わらず甘いですね」

「な、なによ、良いじゃない。私だって心配なのよ。ナザック、あなた本当にリエに怪我させたらダメだからね?」



「分かってますって。それに彼女の方が私より強いですから、私の心配をしてほしいところです」

「ふむ……ナザック、仕事が無事に終わったら良いものをあげましょう」



「おっ、それは気合が入りますね。では街の北門で三時間後ぐらいに待ち合わせで良いですか?」

「は、はい、猫狩りの武器……何か探しておきます」



「違うから! 猫じゃなくて犯罪組織の壊滅。全部掃除して綺麗にしに行くんだよ」

「……そうでした」


「では、リエ、また後で」


 そう言ってナザックさんは一例して部屋から出て行きました。

 私は閉まった扉をジッと見つめます。




「……リエどうしたの?」

「そ、その……なんでもありません」


「えー気になるから教えてよ」


「…………呼び捨てにされました」

「――っ!」


 少し気になった程度です。


 男の人に呼び捨てにされたのは孤児院の小さい男の子ぐらいです。


 なんだか、胸がチクリとしました。

 呪いでもかけられたのでしょうか?


 ナザックさんならストーカー用の魔法かもしれません。

 じわじわと時間をかけて衰弱させていく魔法があると聞いたことがあります。


 フレイアさんからの命令を達成できない様に身体の見えないところに傷をつけられたのかもしれません。

 それならそれで大変なことです。

 帰ってきてフレイア様に怪我を指摘されてしまうとアウトです。



「……脱いでいいですか?」

「あ、へっ? えっ? な、なにっ? ちょっとリエ!? いやっ、どうしていきなりスカートあげてるのっ! シンシアっ! シンシアーーっ!!」



 私は念のため服を脱いで調べようと思いましたが、フレイアさんに力ずくで止められてしまいました。


次話は明日8時頃公開予定ですっ


お気に召していただけましたらブクマとか評価よろしくお願いしますっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ