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14話-人って簡単に飛ぶ

 お城の隣にある審議所という建物。

 ここは国の重罪人の裁判や未解決事件の捜査も行っています。


 私はフレイアさんをお連れして審議所の二階フロアの奥にある部屋に来ました。

 そして到着しての三十分は二人でお茶を飲みました。


 そして今……。




「あの……陛下?」

「……なに?」


 ナザックさんが執務机の前に正座させられています。

 フレイアさんは審議所に到着するなりナザックさんを呼ぶように職員さんに伝えました。

 そして三十分後、部屋に来たナザックさんを正座させるとそのまま黙ってしまわれました。


 私はと言えば、座っているのも申し訳なくナザックさんの隣に正座をしたらフレイアさんに直ぐ止められました。




「どうしてリエがそこに座るのよっっ!!」


 ――怖かったです。


 私は仕方なく、壁に張り付くように立っていることにしました。




「…………陛下、そろそろ事情をお聞かせ願えますか? どうして私は正座をさせられているのでしょうか」

「……そ、それは……そのっ……」


 しかしフレイアさんは何かを言いかけ飲み込むばかりです。

 ナザックさんから悲しげな視線を向けられますが、私もなぜこうなっているのか分からないのでプイッと目を逸らします。



 ゴミ同士の喧嘩ならいざ知らず、王女陛下です。私なんかに助けを求められてもどうしようも無いので、知らないフリを決め込みます。



「〜〜っ! リエ、ごめん少し一階へ行って図書室からこの本を借りてきてくれる?」

「は、はい、かしこまりました」


 私はフレイアさんからメモを受け取りました。

 この本はナザックさんの太ももの上に積んでいくのでしょうか?


 それなら急がなくてはなりません。



 私は深々と頭を下げて部屋を出ました。

 扉を閉めてからもう一度頭を下げます。


 そしてふかふかの絨毯が敷かれた廊下をパタパタと走り、階段を降りて一階へ向かいます。


 何人かの男の人が私を見て変な顔をします。

 変な顔というか「ギョッ」とした顔をします。


 今日の私は寝る前と同じ……ではなく、赤色の膝丈ワンピースに白い前髪留め、膝までの白いリボンがあしらわれたグラディエーターサンダルのようなものを履いています。

 そして胸元に天秤をあしらったバッジをつけてあります。


 私は背が低いので、この組み合わせは似合わないと思ったのですが、城を出る前にフレイアさんに着せ替え人形のように色々と着せられた結果決まった服でした。


 なんとフレイアさんのお下がりというワンピース。

 丈はちょうど良かったのに胸元がスカスカです。

 屈むと色々見えてしまいそうになります。


 世の中はなんと理不尽なのでしょうと自分の体を恨みましたが、それもあと数年の辛抱だと自分に言い聞かせます。




 ……数日前の私が、今私がこんな事を考えてしまったと聞くとどう思うでしょうか。


 バッジを落とすと私の首も落ちるのでポケットか下着の中に隠しておきたかったのですが、胸元につけておくのが規則だと言われました。





「失礼します……」


 図書室がどこか分からず、一階にある扉の開いた部屋へと入ってみます。


「はい……ん? お嬢さんどうしましたか?」


 ナザックさんとよく似た服……ではなく、ブレザー制服のような服を着たお兄さんがカウンターから声をかけてきました。


「あの……図書室……ですか?」


 なんとか聞くことができました。

 ちらりと部屋の奥を見ると本がたくさん並んでいるのでここが正解だと思います。




「図書室ですが、すいません一般の方は入れないのです。審議会への申請は正面の扉から受付にお入りください」


 困りました。

 図書室は見つけたのに入れません。

 一般の市民……以下の私ではフレイアさんのお使いを達成できません。



 どうすればいいでしょうか。

 あぁ、そうです。メモをそのままお渡しすれば探してくれるはずです。


「あ、あの……これ……を……」


 私は追い出される前にせめてもの抵抗をしようと、フレイアさんに渡されたメモを差し出します。




「なんですか? メモ? んー確かにこの本はあるけれど、職員でも閲覧禁止の禁書なんだけど……どうしてこの本の存在を知っているんですか?」


「えっ、そのっ、お使いで……その本を……太ももの上に……」



「太もも……? とにかくちょっと話を聞かせてもらいます。来てください」

「え、ちょっ、あのっ、あのっ……っ!」


 私は男の人に腕を捕まれ、ロビーの方へと連れて行かれます。

 あの時、裏路地に連れ込まれそうになった記憶が脳を過り、身体が固まってしまったように硬直してしまいました。




「あら、リエ様、何をされているのですか?」

「……? こっ、これはシンシア様」


 ちょうど正面入り口に差し掛かったあたりで、入り口からシンシアさんの声が聞こえました。

 よかったです。

 これでフレイアさんのお使いを失敗せずにすみます。

 ナザックさん、すぐに持っていきます。




「あなた、そちらの女性をどうするつもりですか?」

「あっ、この人が禁書の存在をしってまして、今から取り調べをですね」


 私に話しかけたはずのシンシアさんは、私ではなく腕を引いている男の人をギロリと睨みつけました。


「……バッジ」

「バッジ?」



「その御方のバッジが目に入らなかったのですか? その方は特別審議官のリエ様です」

「――っ!! そっ、そん……」


 図書室の人が私の胸元を見下ろしてきます。

 ナザックさんほど背は高く有りませんが、頭一つ分以上は高い男の人です。

 私は腕を掴まれて引っ張られているため前かがみで、隠すことも出来ず――。


「あっ……あぁっ……ひぅ……」



「この不埒者っっっ!!」


 シンシアさんの怒声がロビーに響き、直後私の腕を掴んでいた男の人の姿が消えました。

 何処へ行ったのでしょうか。


 シンシアさんのほうをちらりと見ると、片足を上げて見事なI字バランス状態となっていました。

 ふわっと膨らんだ紺色のスカートは鉄壁でした。


 私はシンシアさんの足の先に視線を向け、そのまま天井を仰ぎ見ます。

 そこには先ほどまで私の隣りにいたはずの男の人が天井に描かれた綺麗な絵画に突き刺さっていました。



 ……人ってあんなに飛ぶんですね。


 すごいです。




「ふぅ……リエ様、どうしてこんなことに……?」


 私は慌てて刺さった男の人を無視してシンシアさんにフレイアさんからのメモを見せました。

 メモをじっと長め、「えぇ?」と短い声をだしたシンシアさんは少しの間メモとにらめっこをしています。



「……この本をリエ様にとってこいと?」

「はい……」


「ふむ……リエ様、少々お待ち下さい」




 シンシアさんが二階へ体重を感じさせないような足さばきで登ってきました。

 私は言われたとおり、ロビーの端でちょこんと立って待ちます。


 天井からアレが落ちてこないかドキドキします。



「……どうも」

「お疲れさまです……」


 通りすがる人が皆、私をチラリと見て、それから二度見したあとに頭をペコリと下げて通っていきます。


 これがこのバッジパワーなのでしょうか。

 他の方の胸元を見ると私と同じデザインの――色が銀色のバッジをつけていまいた。


 審議官が金色で職員さんが銀色なのでしょうか?

 審議官はとても少ないと聞きましたが、確かに少ないようです。


(あ……ブロンズ?)


 よく見ると銅色のバッジをつけた人もいました。

 私と同じ金色のバッジをつけた人がいません。


 よく考えればもうお昼前です。

 皆さんお仕事に出かけられているのでしょう。


 それなのに私はフレイアさんの命令とはいえ昼間っから会社に残って入り口に突っ立っているだけです。

 サボっているように見られても仕方ありません。






「リエ様、お待たせいたしました。陛下は絞っておきましたので」

「しぼ……?」


「こほん、とにかくお部屋にお戻りください」

「あ、あの……アレは……」



 私は今にも落ちてきそうな天井のアレを指差します。

 ゆっくり揺れており、落ちそうで落ちない十五分でした。


「……そうですね。ここに三人しか居ない金バッジのリエ様に気づかないような人です。もう少しあそこでいいでしょう」

「三人……?」


 確かにフレイアさんと、膝に本を乗せられているであろうナザックさん、それと私。

 他の人はお仕事中で、フレイアさんは王女陛下ですのでノーカウント。

 ナザックさんもある意味王女陛下とお話をされているようなものですし、問題有りません。


 となると、やはりこんな時間から建物に居る仕事もしていないのは私だけでした。



「リエ様……? あー……どちらでしょうか。私もまだ修行不足ですね……その、三人しか居ないというのは、他の人が皆さん出払っているという意味ではありませんよ?」


「…………?」


「そのキョトンとした目で見上げられると、破壊力ぱないですね。えっと、現在金のバッジを与えられている特別審議官はフレイア陛下、ナザック様、リエ様の三人だけです。銀バッジは通常の審議官。銅バッジは一般職員です」


 いまシンシアさんは何と言ったのでしょうか。

 私の聞き間違いだと思い何度もシンシアさんのセリフを頭の中で繰り返します。




 ……『ぱない』というのは『半端ない』の若者的な言葉と同じ意味でしょうか?


 もしかしたら『破壊力パナイ』という『気持ち悪い』とかそういう方言の可能性もあります。

 シンシアさんはフレイアさんのお付きのメイドさんで、フレイアさんの命令で私をお風呂に入れてくれたり食事を出していただいたりしています。



 思い返せば、全て陛下の命令でお仕事で対応してもらっているのです。

 それなのに私ときたら、少し慣れたからといって当たり前のように話しかけていました。


 フレイアさんに告げ口をされてしまうのでしょうか。

 その場合……いえ、さすがの私も勉強してきました。

 このようなことで命が取られたりすることは無いと信じます。


 フレイアさんはそんなことをする為政者ではありません。

 ですが、側近のシンシアさんに言われたらさすがのフレイアさんでも……。





「ごくり…………」

「……リエ様、私は悪魔か何かですか? いじめっ子でも無ければ、悪役メイドでもございません」


 完全に脳内を読まれていると思います。

 もはやシンシアさんの前で考え事は無意味のようです。




「ねーねー、シンシア、私教えてほしいんだけど」


 気がつけばシンシアさんの後ろにマーガレットさんがいました。

 お城でお会いしたときと同じようにニコニコと笑顔を浮かべたシンシアさんとおそろいのメイド服です。

 手に大きな本を一冊持っていました。

 ナザックさんへの追加分でしょうか?




「なんですか? マーガレット」

「『一般職員です』からどうして『いじめっ子』のくだりになったの? リエ様、喉をゴクリって鳴らしただけだったけど」



「……私の言葉の何かが引っかかって、私はそのことを陛下に告げ口をしたら死刑にされるとか思われているような気がしまして」


「シンシア疲れてるの? お休みしたほうがいいんじゃない?」


 マーガレットさんが、シンシアさんのおでこに手を当てて熱を測っているようです。

 でも、シンシアさんすごいです。ぱないです。




「リエ様、後学のために教えて下さい。どれぐらい正解でした?」

「え……えぇと……方言じゃないなら完璧です」


 シンシアさんはもしかして私の通訳になってくれようとしているのでしょうか。

 でも「どれぐらい正解でした」という意味をはっきり捉えて直ぐに返事した私もがんばりました。


 ちょっとだけ自分を褒めてあげたい気分です。



「方言というのが何のことか解らな……あっ……えっ?」

「ほら、せんぱーい、時間ないですよー!」


 シンシアさんは急ぎの用事があったのか、マーガレットさんに腕を引っ張られて階段を登っていきました。



「あっ、まってっ、リエ様も同席してくださぃっ……」


 そう言いながらシンシアさんとマーガレットさんは階段を上り角を曲がって行きました。

 同席を命じられたからには、私も遅れるわけには行きません。


 私は履き慣れていないスカートの裾を摘み、なるべくヒラヒラしないように階段を上ると一番奥にあるフレイアさんの部屋へと向かいました。



次話は明日8時頃公開予定ですっ


お気に召していただけましたらブクマとか評価よろしくお願いしますっ!

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