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12話-逮捕

 私は最後一つの粗大ゴミに手をかざします。


「『焼――「待って!」」


 最後のゴミを掃除しようとしたところでフレイアさんから待てと言われました。

 私は命令された忠犬のように、すんでのところで魔法を止めました。



「拘束して取り調べてください」


「「はっ」」


 フレイアさんが部屋に入ってきた騎士二人に命令を出しました。

 どうやら拘束されるようです。




「申し訳有りませんでした……でもフレイアが無事で良かったです」


 私は今になってズキズキと痛みだした足を引きずって、騎士さんの手を煩わせないように騎士さんに向かって両手を差し出しました。

 そう言えばガラスを割って入ったので、腕もスパッと切れて血が出ていました。




「えっ!?、いやっ、いやいやいや! リエじゃないから! どうしてそうなるのよっっ!!」


「……勝手にフレイアさんの部屋に勝手に入ってしまいました。しかもお城の外壁を登ってきたのです」


「いやだからそれはアイツラを見かけて追っかけてきたのでしょう?」

「はい……」



「じゃぁどうして、捕まりに行こうとするのよ」

「勝手にフレイアさんの部屋に――「リエ様?」――入っ……はい」


 私がもう一度同じ説明をしようとしたらシンシアさんに止められてしまいました。



「話の前に怪我の治療をいたしましょう」

「――っ! リエ、足……手も血だらけじゃない!」


「マーガレット、お願いします」

「はーい。リエ様、ちょっと失礼しますね。『治癒(ヒール)』!」


 マーガレットさんが魔法を唱えると手と足の剥がれた爪がみるみるうちに治りました。

 すごいです。


 マーガレットさんはメイドさんなのに回復魔法を使えるようなエリートでした。

 回復魔法は教会で厳しい修行を何年もしないと使えない貴重な魔法だと聞きました。




「これでよしっと。リエ様、他に痛いところは?」

「え……っと……ありません。ありがとうございました」


 死刑になる前に完全に傷を治されてしまいました。

 もしかして、私は今から治して瀕死にされるを繰り返されてしまうのでしょうか。

 流石にちょっと怖いです……。



 何度も何度も死にそうな痛みを味わうのに死ねないなんて地獄です。

 考えただけで足が震えてきます。

 唇が乾いて呼吸がままならなくなりそうです。



 ですが、それが私の罪です。

 悪いことをした社会のゴミは掃除されます。

 当たり前なのです。




「リエ……そんなに震えて……怖かったのですね……ありがとうございます」


 フレイアさんが布団から出ました。

 いよいよ終わりです。

 でも最後にフレイアさんの無事な姿が見れてよかったです。


「陛下、一つよろしいでしょうか」

「どうしたのシンシア」


 今度はシンシアさんが私の方へ向き直り片膝を付きました。




「リエ様? 貴方が罪に問われることは無いのですよ? 今から陛下が死刑にするようなことなんてありませんからね?」


「え……シンシア何言ってるの? 何処をどうとったらそんな考えになる人がいるの」


「……ほ、ほんどうでずがぁ……」


 安心したせいか涙がブワッと堰を切ったように流れてきました。

 鼻も詰まってうまく話せません。




「ほら、陛下。ここにいました」


「……えぇ……ど、どうして……どこをどう捻ったらそんな考えになるの……リエ、貴方が死刑になるならナザックなんて数百回死刑になってるわよ……マーガレットなんてすでに塵も残っていないわよ」



「えぇぇっっ……姫様……それはあんまりじゃ……」


「ぐすっ……えぐっ……えぐっ……」


「いくらなんでも……リエ……あなた……はぁ……シンシアありがとうね」

「いえ、私もやっと慣れた頃です。申し訳有りません」


 両手で涙をぐしぐしと拭っていると、不意に身体がふわっと浮かびました。

 持ち上げられたと気づいたのはベッドに降ろされてからでした。


 しかもあろうことかフレイアさんの膝の上に座らされました。



「リエ? あなた不器用にも程があるわ」


 怒られたのでしょうか。

 褒められたのでしょうか。


 頭の中がぐちゃぐちゃでよくわかりません。


 フレイアさんは私のキョトンとした顔を見ると、「それより靴とかどうしたの?」と聞かれたので場所を伝えました。




「マーガレットお願い」

「はい行ってきます!」


 フレイアさんは何も用件を言っていないのに、マーガレットさんが部屋を飛び出していきました。

 これが人の上に立つお方の能力でしょうか。




「リエ、ほら、ぎゅー」

「……」


 なぜかフレイアさんに抱きしめられました。

 嗅いだこともないいい匂いがして、ふわふわの寝間着と、柔らかい感触が全身に伝わってきます。


 このままサバ折りされてしまうのでしょうか。




「落ち着いた?」

「……大丈夫です。私小さいので、簡単に折れますので……一気にお願いします」


「…………」

「…………えいっ」

「わぷっ!?」


 目をぎゅっとつむっていると、ベッドにごろんと転がされました。

 なぜかフレイアさんも隣に寝転んでいます。




「いやぁ……すごいわこの子。面白いし頼もしいし可愛いし」

「リエ様、私から質問よろしいでしょうか?」


「は、はい……」

「どうしてこのような時間にお城へ?」


 シンシアさんに不思議なことを尋ねられました。

 昨日フレイアさんに言われた時シンシアさんも居た気がしますが、居なかったような気もします。



「フレイアさんに朝迎えに来るように仰せつかりました」

「朝」

「はい……時間を聞いていなかったので……深夜を過ぎてから家を出ました」


「……それで城に来たのですか?」

「街のゴミ掃除をしながら来ました」


「こんな深夜に……ゴミ掃除……」




「で、お城についてからは?」

「お城の扉がしまっていたのでぐるっと壁に沿って入り口を探しました」


 これは取り調べです。

 本当のことを言っても嘘を言ってもダメなやつです。

 嘘をついたほうがひどい目に会うので、私は正直に答えることにします。



「そこで彼奴等を見つけたのですか?」

「微かに人の気配がして、呼吸とか歩く音とか衣擦れの音が全身に布を巻いた男だったので、こっそりと辺りを探しました」



「で、暗殺者を見つけたと?」

「最初は夜の壁のぼり訓練をしている兵士さんかと思っていました」

「壁のぼり訓練……」




「えぇっと……それから?」

「粗大ゴミがそこのテラスの下のほうから壁を登り始めたので、追いかけました」


「リエ様は素手で登ってきたんですか?」

「はい。壁のぼりは得意でしたので」


「ここ4階ですよ? 落ちたら死にますよ?」

「でも放って置いたらフレイアさんが死ぬと思ったので」



「……ふむ……なるほど、陛下、やはりリエさんとの会話はこれが一番早いで……ってえぇぇ……陛下……」


 シンシアさんの声に釣られて隣を見ると、フレイアさんがぼたぼたと涙を流して泣いておられました。




「ぐすっ、うぇっ、ひぅ……リエ……あなたって子はぁっ……あなた……ねぇっ……不器用すぎるわよぉ……そんな小さな身体でぇ……そんなボロボロになって……ふえぇぇぇぇっっ」



 どうしたらいいのでしょうか。

 王女陛下を泣かせてしまいました。



「リエさん、そのまま陛下をギュッとしてください」


 シンシアさんがトンデモナイことを命令してきました。

 私が?

 王女陛下を?

 抱きしめる?

 なんで?

 最後の思い出?


 ……いつもならそんな考えで頭がぐるぐるとしてしまいそうでしたが、このときはシンシアさんに言われる前に自然と手が動いていました。


 フレイアさんの絹のような髪に振れ、頭をぎゅっと自分の方へ抱き寄せました。



「ぐすっ……ぐすっ……」


 孤児院で幼年組の子供たちが寝る前に泣いた時、いつもこうやって寝かしつけていたことを思い出しました。




「リエ様、まだ夜も開けませんし、そこで陛下と二人で寝てください。いいですね? 陛下が起きるまで一緒に寝るのがリエ様のお仕事です」

「え……あ、はい……」


「私はここにおりますので、安心してください。ではおやすみなさい」


 このような汚れた服で……しかも平民が王族の寝所に居るだけでもありえないのです。

 それなのに私は今、あろうことかベッドの上に寝転んで王女陛下の頭を撫でています。


 なぜこんなことになっているのでしょうか。


 私、毎日ゴミ掃除をしている鼠獣人ですよ。

 家もないし親もいない孤児ですよ。


 それなのに私に抱きついたままの王女陛下ーーフレイアさんは動く気配がありません。

 その頭を撫でる手を止めるタイミングがわかりません。


 ですが、何故かここで寝ることになりました。

 陛下が起きるまで一緒に眠るのが仕事……。


 私は覚悟を決めました。

 少し眠いですので、この仕事なら今の私ならできそうです。




 朝、無事に生きて目を覚ませることができるかどうかは半信半疑でしたが、もうどうしようも有りません。

 私はフレイアさんの頭を撫でながらそんな事を考えていたのですが、初めて味わう気持ちのいい布団に贖えず眠りに落ちてしまいました。

次話は明日8時頃公開予定ですっ


お気に召していただけましたらブクマとか評価よろしくお願いしますっ!

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