00話-月光を受けて、二人
「リエっ! そっち頼むっ!」
「――『断罪』っっ!」
私の放った魔法が黒服に身を包んだ男の命をあっさりと刈り取ります。
「ふぅ、リエ、大丈夫か?」
「ナザックこそ……大丈夫?」
「まぁな……にしても、次から次へと湧いてくるなぁ……っと、『瞬断』っ!」
私の背後へ迫っていたゴミの身体をナザックの放った魔法が上下に分断しました。
「ありがとうございます」
「…………」
「なんですか?」
「いや、最近よく喋るようになったなって思って」
黒スーツの襟をピシッと直し、胸元に光る天秤があしらわれたバッジを回して位置を整えるナザック。
こんなところで服装を整えても、すぐにホコリだらけになるのになと思いながら、上から降ってきた鉄の矢を木の繊維と砂鉄へと『分解』します。
「ナザックはあまり喋らなくなりましたよね最近」
私はわざと目を吊り上げて、半ば嫌味のように言い返してみるのですが、ふにゃっと笑ったナザックが頭をポンポンと撫でてきます。
頭二つ分ぐらいナザックのほうが高い――もとい私が小さ過ぎるせいですが、いつもこうです。
黒髪短髪に黒スーツ。
胸元に光る所属を示すバッジと袖に付けられたカフスだけが月の光を受けてキラッと光っています。
少し垂れ目の癖に、自分を凛々しく見せようと無駄な努力をたまに見せるこの男とペアを組んでもうすぐ三年になります。
「リエ、最後の仕上げ行くか? きつくないか?」
遥か下に広がる屋敷の中庭に剣や弓を持ったゴミがわらわらと集まってきています。
「そんなことありませんよ。ナザックが半分持ってくれるんですよね?」
「そうだな、背中は任せとけ」
私、リエ・アンチェッタ、18歳。
鼠のような耳と尻尾が生えた鼠人族です。
銀色に近い色のショートヘアに今日は……今日もナザックから貰った真っ白なヘアピン。
真っ黒のワンピースで仕事に来てしまったので、少し肌寒いです。
髪の隙間から生えた丸い耳を指でつまみナザックへ微笑みかけます。
オレンジ色のリボンを結んだ細い桃色の尻尾が自然と隣に立つナザックの足に巻き付いてしまいます。
「じゃあ、さっさとゴミ掃除終わらせて帰りましょう」
「終わったら、今夜こそ宿屋の飯をゆっくり味わいたいしな」
私はナザックと拳をコツンと合わせると、尖塔の屋根から目標へと向かい飛び降りました。