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いずれ、そう遠くない未来。
人類はPALSに支配される。
PALSに、ではないか。
正しくは、優しさに支配される。
人類は修復不可能なところまで来てしまった。
死が救済措置になってしまった。
人生のリセットボタンが。
簡単に押せるようになってしまった。
だからこそ、私が救わなければならない。
人類を。
そのために私は脳(brain)を作った。
これは人間のための脳ではなく。
人間のために思考するものではない。
人類を一つの生命体と見なし。
人類のために思考する脳だ。
人間は人類維持のための細胞であり。
PALSは人類のためのニューロンになる。
個人の人格や記憶、感情。メタデータを脳(brain)にバックアップしておき、必要に応じて復元する。
細胞が不審な挙動をみせたとき、その細胞の活動を停止させ、再生して活動を再開させる。
優しい人類のための治癒機能。
それこそが脳(brain)とPALS。
私の作り上げたもの。
人類は常に更新を続け、常に最善の状態をバックアップする。
怒りや悲しみや恐怖を。
死を。
選択しないように。
常に最善の状態へ。
人類は更新され続ける。
人類は作られた感情と作られた記憶の中で、幸福に生き続ける。
怒りを知らず。
哀しみを知らず。
甘い甘い幸福を食み続ける。
結局、私には何もできなかった。
人類を幸福から救い出すことはできなかった。
幸福でい続けることでしか、人類が維持できないのであれば。
それが真の幸福なのだろう。
私が異端だっただけなのだ。
幸福を享受できない私が。
私はずっと、何も成長できていなかった。
間違っていたのは、ずっと私の方なのだ。
私は幸福にはなれない。
全てを忘れ、バックアップされた記憶と感情の檻で生きていくことは、できない。
ごめんなさい、人類。
さようなら、人類。
さようなら。
幸福な世界。