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咎人知らず ~魂喰の魔~  作者: 空世 創銀
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6.延長上のプロローグ

 この物語は、以前投稿した「咎人知らず ~異端神~」の続編です。完全に独立した物語ではありませんので、前作を先に読むことをおすすめします。

 投稿は一章ごとにまとめて行います。気長にお待ちくださいませ。

 ――誰かの、声が聞こえる。

「これで、成功したのかしら」

 視界は明るく、ぼやけている。まるで水中にいるような感覚が、全身を覆っていた。手足は繋がれているのか、上手く動かない。

「さあね、それはその時になってみないと。とにかく我々は手を尽くしたさ」

 口を開いたが、声は出てこなかった。視界の端に何やら赤いものが映ったが、それが周囲にいるであろう誰かのものなのか自分の一部なのかは分からない。

 視界が暗くなっていく。声が遠ざかる。

 意識は徐々に深淵へ落ちて、深い眠りの渦へ――


 次に気付いた時、俺を取り巻く風景はがらりと変わっていた。牧歌的でのどかな町の風景。見たこともない知人が俺に笑顔で声をかける。俺も、笑顔で言葉を返す。

 パンでも買おうかとどこにあるのか分からないパン屋へ迷わずに来てみると、パン屋は焼け跡になっていた。何故だろう、と首を傾げ……じゃあ、雑貨屋へ大根でも買いに行くか。

 不思議なことに、雑貨屋も焼け落ちていた。店の前に、先客が佇んでいる。

「いやぁ、見事に燃えてますねぇ」

 そう声を掛けると、先客は前を向いたまま「違うよ」と答えた。

「燃えたんじゃないよ。僕が――」

 先客が、言いかけて振り返る。

 その顔には目も、鼻も、口も無かった。あったのは、太い、角が三本……。

「――灼イタノダ」

 視界を、殺戮の奔流が覆う。


「……っぬあああああああああ!」

 跳ね起きた。どうやら夢だったらしい。

 現在地を確認する。小さな部屋の、大きくて古いベッド。その脇には、愛用の大鎌。

 ……よし、大丈夫。ここは住処の一室だ。

「ああ……ちくしょう、寝た気がしねぇよ……」

 ぼやきながら隣の部屋へ。先に起きていたらしい、バツの悪そうな顔をした堕天使がパイプ椅子で小さくなっていた。

「また、例の悪夢かい?」

「まぁな。ここ最近、見なくなってきたと思ってたんだけどなぁ……」

「私の……せい、なのだろうね」

「そりゃまあ、そうだけど。いやでも、おまえを恨んでる訳じゃないんだぜ」

「たとえ君が恨んでいなくとも、トラウマは勝手気ままに精神を蝕むものだよ」


 この前の騒動から、約二週間の月日が経過した。俺の悪夢の根源であり騒動の一端でもある堕天使ことルミエルの処遇は、一悶着あった後にこの住処に同居、という形になり。

 もともとの同居人であった闇の古代神、もといブイオは、確認したいことがあるとか探したいものがあるとかで一週間前から出かけていた。三日前にかかってきた電話によると、ガオナと一緒に今は南アメリカの辺りにいるとか。日本に帰ってくるのは、少なく見積もっても数週間先になることだろう。

 そして俺はというと、信じられないかもしれないが休暇中だ。

 さすがの魔王様も愛する孫の頼みは無下にできなかったらしい。ブイオの嘘くさい嘆願を受けて、この一連の事件が解決するまでカガリはそっちに集中しろと正式に指示が下った。全く、何から何まで奴には頭が上がらない。

「なあルミエル。結局、おまえら天使ってのは日曜朝のテレビでやってるスーパーヒーローとシステム的には同じなんだよな?」

 机の上、無造作に置かれた紺色の角笛のような物体を見詰めながら、俺は言った。

 角笛、というか角そのものと言った方がいいのかもしれない。ルミエルは俺に気を遣って実演してくれないが、この角が仮面ライダーの変身ベルトの役割を担っているのだそうだ。

 曰く、持ち主が額にこれをくっつけると、あのおぞましい姿に変身するのだそう。本当かよ。

「ヒーロー、とは言い難いが……戦闘時の姿の仕組みについて言っているのならば、そうだね」

 何か腑に落ちない、という表情で首を傾げながらルミエルが首肯した。その白くて大きな右手が、角を押さえて転がす。ゴロゴロと不透明で重たい音がした。

「ああでも、敵の一味が主人公に敗北したことをきっかけに味方につく、という展開もあるのだったか。そういう意味では私もヒーローかな?」

「何言ってんだ、手負いで俺に圧勝したくせに」

「君こそその大鎌を持っていなかった」

「だとしてもせいぜいがハンデなしだよ。あーあ、やだねぇこの力量差」

 わざとらしく左腕を伸ばして天を仰ぎ、俺は空いている椅子にどっかりと腰を掛ける。

 軽口のように言ってはみたが、実際馬鹿にならない話だった。ルミエルは、いわゆる最強の敵ではない。敵の親玉である「カミサマ」の、手下である無数の天使達の、更にその中の一体。しかも片翼は失われている、つまり不完全。

 そんな相手に、俺は完敗した。確かに大鎌は持っていなかったけれど、戦闘中にそれが振るえるだけの距離まで近付けたことは一度もない。結局それは、大鎌があろうとなかろうと戦闘結果に差異はないであろうことを証明するだけの事実な訳であって。

 ……それでも俺は、「カミサマ」に挑まなければならない。抵抗しなければならない。現段階では僅か三人だけの、満足に対抗し得る存在として、放棄することは許されない。


 痛い位に絶望的な現実だった。


「……どうか、そんなに悲しい表情をしないでくれ、カガリ」

 ルミエルが優しい声で俺の名を呼んだ。俺は、いつの間にか机の一点をぼんやりと見詰めていた視線をゆっくりと上げる。

「だって……おまえには分かんないだろ。俺は、俺達は……この星の生命は、おまえのボスに負けたらそれで跡形もなく滅ぼされちまうんだぜ。おまえにすら太刀打ちできなかったのに、どうやって」

「過去の遺跡にそれらしい痕跡があった、とブイオは言っていたね。……私が、それを直接見たわけではないが……きっと、それは真実だ。現に今、そういう行為を天使は行っている。無論、過去の私も」

「っ……いいよな、おまえは。堕天使だろうと何だろうと、この星とは何の関わりもないんだから。失敗したって、残念だったで終わりなんだろ」

 咎めるように、ルミエルをまっすぐ睨む。過去のそれを反省しているのは、悔いているのは、今までの態度からも分かっていたことだった。

 けれど。自分が弱いだけなのは、明白なのだけれど。

 拭えない不安を矢尻に塗り付け、弓を引き絞る。射貫くべき相手は目の前にはいないと頭では理解していても、この不安を誰かに押し付けたくてたまらない。

「……いくら悔い改めたところで、事実としての罪が消えることはない。例えそれが、無知の異常識だったとしても」俺の意思を汲み取ったかのようにルミエルが言った。静かな眼光を湛えた瞳が、じっと俺を見据える。「しかし一つだけ、訂正させてもらおうか。たとえ失敗しても、残念だったで済むことはない。私には私の、この星を守りたい理由がある」

 一呼吸おいて、ルミエルは更に言葉を続けようとした。しかし、少し待っても開いた口から何かが飛び出してくる気配はない。

 ……完全に、静止してしまっている。

「ん、あれ? ……おーい、ルミエル? どうしたんだよ、いきなり黙っちゃって」

 突然の事に苛立ちも忘れた俺は、慌ててルミエルの目の前で手を振った。すると表情は固まったまま、ルミエルの右手がゆっくりと持ち上がって俺の背後を指さす。よく見ると、俺の目を見ていたはずの視線もわずかにずれているようだった。確か、俺の背後には外へ繋がる入口のドアがあったはずだけど。

 でも、さっき俺が起きてから今まで扉の開く音は一切しなかった。ただでさえ錆びて立て付けが悪くなっている扉、動けば誰だって気付くほど大きな音が出る。だから、外から誰かが入ってきたなんてことは無いはずだ。

 まあでも、百聞は一見に如かず、ってな。俺は椅子の背もたれに腕をかけて上半身ごと振り返る。さて、音もなく一体どんなものが……。


「…………おっと」



 半透明の少年が、そこに佇んでいた。


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