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虚弱なヤクザの駆け込み寺  作者: 菅井群青
第三部
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幸の看病


 朝からバタバタと廊下を走る音が聞こえる。部屋を開けると町田が枕元で叫ぶ。


「く、組長大変ですっ! 起きてください!」


「……朝一番に唾液のシャワーを浴びせるほどの事件なんだろうな?」


 組長は怠そうに寝返りを打ち町田に背中を向ける。どうせ爺からの呼び出しだろう。エロ動画チャンネルの件ならどうでもいい。


「先生が──高熱でダウンしました」


「……は?」


 組長は飛び起きた。町田の頭を掴むと手前に引き寄せる。


「遅い──頭を砂時計の形にしたら早くなれるか?」


「いや、あの……俺も朝の【腎虚】のお勤めがあって……あぁ! すんません!」


 町田の頭が軋み出した。だがここで超大作を作っている場合ではない。


「町田、先生は病院はどこへ行くと言ってたんだ?」


「いや、それが……」


 中途半端に茄子のような頭の形をした町田が真面目な顔をして先ほどの会話を思い出す──。


『町田さん、ちょっと熱が出て四十度近いから院を閉めるね』


『先生、それはちょっとじゃないですよ! 病院に行かないと……』


『あ、いいの、肉をたくさん食べて寝れば治るから。ちょうど鶏肉骨付きがあるし』


『急に野生児感出してきましたね……いや死にますよ?』


 話を聞くと今までこれで治してきたらしい。

 要件が済むと話すのが辛かったのか電話を切ってしまった。


「とりあえず、分かった……今日は事務所には行かない。光田に伝えておけ」



 昨日会った時は何ともないようだったが……。


 組長が朝食を食べていると爺が慎重な面持ちでやってきた。例の箱を手にしている。紫まむし極楽一発ドリンクだ。


「先生がヤリ過ぎでダウンしたと聞いたぞ……これを持っていけ。このご時世で四十八手を目指すとはな──」


「いや待て、その誤った情報どこから持ってきたんだ? 四十度の熱だよ! 八を足すな!」


 四十というキリ番からどうやって八が追加されたのか知りたい。どんな聞き間違いをしたらそうなるんだ。どうやら脳の海馬すらも絶倫という病にやられてしまったらしい。


「ジュンちゃんから連絡が来たんじゃ。とりあえず、ジュンちゃんとわしからのお見舞いの品じゃ、持って行け」


 お見舞いの品と言われれば届けなくては行けないだろう……組長は黙って頷いた。


 院に到着し、インターホンを押してみるがやはり反応がない。ドアノブを捻っても鍵がかかっている。


 クソ、合鍵作っとくんだった……こんな時どうすりゃいいんだ……。


「……開けましょうか?」


「……仕方ない、頼む」


 町田がポケットから特殊な棒を数本取り出した。はにかむように微笑むとハゲた頭を撫でる鍵穴に入れてものの数十秒程で鍵が開いた。


 ゆっくりと院のドアを開けるとそこは真っ暗だった……。普段蛍光灯の灯りがついているのもあるが、寂しく感じるのは出迎えてくれる先生の笑顔と笑い声がないからかもしれない


「先生?」


 爺から預かったドリンクと途中町田が買ったリンゴをテーブルに置くと奥の部屋の前に立つ。一瞬躊躇うものの組長はドアをノックした。返事がなかったが、倒れている可能性があるのでそのままドアノブを回した──。


 奥の部屋の小さなベッドに膨らみがある。幸が毛布に包まりながら深い眠りについていた。高熱で寒気がするようでこの季節にもかかわらずしっかり毛布を頭から被っている。


「うー……」


 苦しそうな声が聞こえてきた。そっと毛布の中を覗いてみると苦しそうな表情で眠っていた。額に手を当てるとひどく熱い……。


「クソ──めちゃくちゃ熱い……氷……」


「組長、俺薬買ってきます」


 町田が慌てて院を出て行った。

 組長は上着を脱ぎシャツの袖を捲るとタオルを氷で冷やして額に置いてやる。


確か……こうするんだったか? いや、氷枕か──。


 今までの人生で人を看病したことなどない。やり方が分からないが試行錯誤でやり始めた。幸の服は汗で湿っている。


風邪引くんじゃないか? 汗を拭いてやる方がいい気がする。


 幸が着ていた服のボタンを外す……。白のレースのブラジャーが見えて組長は思わず手を止める。


「おいおい……思春期じゃねぇぞ」


 そのままタオルで体を拭いてやる。胸のまわりから臍の周りの汗も拭き取る。


「ん……、寒い」


 幸が目が覚ましたようだ。意識が朦朧としているのでうまく焦点が合わない。


「組、長……?」


「あぁ……俺だ。邪魔してるぞ──大丈夫か?」


 幸はゆっくりと頷いた。そのまま再び瞼を閉じると寒さで震え出した。


「あ、服を着ないとな──」


 組長が立ち上がろうとすると幸が無意識に体温を求めて組長の腕に触れた。


「先生?」


「……めて」


「え?」


「あったかくして──そばにいて。離れないで」


「…………」


 組長はそのまま布団に入ると小さな幸を横向きに抱きしめた。幸は嬉しそうに組長の腕枕に頰を擦り付けると息を吸う。


「いい匂い──」


 熱のせいで思った事がすらすらと口から出ているようだ。さっきから甘えるような言葉が飛ぶ。普段の先生ならあり得ない。


 そうだよな、弱ってる時は誰かそばにいて欲しいよな……。


 組長も経験がある。

 組長の場合は町田が介抱をしてくれた。


 幸はそのまま眠りについた。その安らかな寝顔にキスをして頬を撫でる。


「先生、院に一人は寂しいだろう? 一緒に住めば……いつだって看病してやれるし寂しい思いをさせないのにな、そうだろ? 先生……」


 幸の体を抱きしめると組長は幸の背中を撫で続けた。


 ん? あ、俺、寝てたか?


 いつのまにか組長も眠ってしまっていたようだ。胸の中にいる幸の額に触れると随分熱が引いた。ベッドの枕元に薬の箱と水のペットボトルが置いてあった。町田のメモ書きが添えられていた……。



 先に帰ります。

 薬を飲ませてあげてください。

 冷蔵庫に剥いたリンゴがあります。食欲がありそうならどうぞ 町田


 冷蔵庫を開けてみると可愛いうさぎの形をしたリンゴが数匹皿の上に置かれていた。


「……昔からこれは変わんないな」


 組長は思わず微笑んだ。

 組長はそれから幸に替えの服を着せ、薬を飲ませた。その日の晩には幸は平熱に戻っていた。幸はうさぎのリンゴを嬉しそうに食べた。


「組長、ありがとう。町田さんにもお礼を伝えてね」


「今度からは連絡しろ。看病に来るから……下着も見れるし汗に濡れる谷間がエロ──」


「──この色ボケがぁ!」


 元気になった幸の怒りの拳が組長の腹にきれいに入った。痛みに悶える組長の口元は笑っていた。

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