ケンカ
「宅配便でーす」
平日の朝、小さな小包ほどのダンボールが届く。組長が受け取ると宛名を見る。
万代武雄 様
「またか……?」
品物名に目をやる。一体何を取り寄せたんだ……あの絶倫モンスターは。
段ボールには生活用品としか書かれていない。
「嫌な予感しかしねぇな……」
組長は爺のいる中庭へと向かった。
「もう帰ってくれ! 顔も見たくない!」
「待ってくれ! タケちゃん──」
「えぇい! もう知らん!!」
いい年した爺さん達が中庭で大声を上げている。二人の足元には爺が大切にしている盆栽の鉢が砕け散っている。
二人の間に何があったのか……まさか、またケンカか?
頑固な二人が喧嘩すると長い……前回のケンカで何十年も仲違いした二人だ。
こじれる前にどうにか仲裁しなければ……。
「おいおい、どうした……」
組長が二人の間に入ろうとする。高齢ヤクザが組長に睨みを利かす。
「ええい、なんじゃ! 青二才が!」
「下の毛の生えそろっていない若造に用はない!」
「……いや、三十路を超えたヤクザに向かって何言ってんだ。永遠の思春期扱いやめろ!」
こうしている間にも二人は今にも襟元を掴み合いそうだ。熟したヤクザの睨み合いは冷や汗が出る。
「いやいや、爺、ちょっと待て……あんなに仲が良かったじゃねぇか……一体何が──」
「裏切りじゃ……ジュンちゃんはわしを裏切った……兄弟だと思っていたのに」
裏切り……。
その言葉に会長が鋭い視線を組長に送る。
ヤクザは人情の世界だ……裏切りという言葉に組長は一気に空気を張り詰める。
「ほう……若いのにいい覇気を持っているな……」
会長はパンチパーマの頭を横から撫で付ける。その仕草に組長は奥歯を噛みしめる。
「この業界で裏切りは許されない……一体どういうつもりですか……」
「ふ……色々と繋がりを持った方が便利だと思ってな。週に数回だが、こちらの都合がいいように話を持っていきやすくなった。タケちゃんに黙っていたことは、謝る……でも仕方なかった──」
どうやら明徳会は龍晶会に内密でどこかの組織と繋がりを持っていたらしい……。友情よりも金を選んだのか?
会長の言葉に爺の体が怒りで震えている。
こんな爺を見るのは初めてだ。
「一声、かけてくれたら……いいじゃろう……兄弟なのに……」
爺の低い声が響く。会長は切なそうに笑うと爺の方へ歩み寄る。
「すまない。タケちゃんは言葉より背中で語るタイプだからって、変な気を回してしまったようだ……タケちゃんは俺の兄貴だ……永遠にな」
「ジュンちゃん……」
「抜け駆けじゃない……いつだって俺たちは一緒だ」
爺は噛みしめるように何度も頷いた。
「I'm sorry……」
ん?
「You're welcome」
んん?
突然二人の言語が変わった。よく分からない状況に二人を見つめる。
「ソフィアちゃんのマンツーマンを誤解して悪かった……でも英会話ならわしも……」
「いや、タケちゃんは言葉で口説くより体で口説くタイプだろう? これから多国籍パブにも行くなら英語はマストだと思ったんだ……俺が交渉する」
「ほ、ほぅ……マスト……かっちょいいのぅ。ジュンちゃんばっかりモテそうなのは嫌なんじゃが──仕方ないのう」
爺は会長から出たカッコいい英単語に感銘しているようだ。
どうやら二人の最近のお気に入りのアメリカから来たソフィアちゃんと会長が週に何回も会っていることを知った爺が激怒した。
会長はこれから世界のいい女を抱くために英会話をソフィアちゃんから習っていた。
英会話が上達した会長のことを爺が嫉妬した──らしい。
なんなんだ? このクソみたいな話は……。内容も何もない。ただ性欲のために情熱の全てをかける絶倫ジジイの愛憎劇だ。
よくよく思い出してみると数十年仲違いしたのも、どっちがくるみちゃんを抱き潰して田舎に返したか──だったか。うん、くだらない。
無駄な時間だったな……。
組長は持っていた小包を手に中庭を後にした。最後に見た二人は拳を天に築き上げて叫んでいた。
「「WHOOOO!」」
世界の女性達に危険が迫っているようだ。部屋に着くと組長は小包を開けてみた。
包装用紙の星条旗が見えた瞬間……組長は迷わずそれをゴミ箱へと放り投げた。




