……先生
あの日、ベッドの上でボロボロになっていた先生を見て、血が逆流したかと思った。先生のか弱い腕が俺の腕に絡んでようやく理性を取り戻した。
怖かった。
先生を失いそうで。
あんなにも優しくてお人好しで温かい人が俺のせいで汚れるかと思うと震えが止まらなかった。
俺は今まで弱みなんてなかった、必死で守るべきは自分の組ぐらいで、女に執着もしなかったので守るべき存在というものに縁がなかった。
先生と出会うまでは──。
あれから俺は先生に触れる時に少し迷いが出るようになった。
俺なんかが、触れてもいいのだろうか。
俺のそばにいて、また何かあったら……。
そんな気弱な性格をしているとは自分でも思わなかった。強く、無理やりでも引き止め、いつか自分のものにすることしかなかったし、自信もあった。
迷いが一度出ると戻せない。
先生は一般市民として生きていけば幸せか?
俺があの院に閉じ込めているだけで、本当は自由に生きた方がいいんじゃないか。
先生は優しいから何も言わない。
言えば、俺は断る自信がない。
俺はヤクザだから、組を、みんなを捨てて先生の元にはいけない。
先生の瞳には恋情の色が見える気がしていた。
俺と同じ気持ちだと……そう思っていた。
気づかなきゃよかった……先生の気持ちが少しでも俺にあると思ってしまうと手放す時に辛くなる。
今日も俺は笑顔で不安な気持ちを隠し、先生の元へ向かう。




