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虚弱なヤクザの駆け込み寺  作者: 菅井群青
第一部
4/102

あだ名

「先生、今日の分です」


 いつも通り町田がスーパーで買って来てくれた袋を幸に手渡す。新鮮そうな白菜が大特価だった。代金を手渡すと町田は胸ポケットからメッシュの袋を取り出してお金を入れる。見た目と違いとても几帳面でしっかりしている。なぜヤクザに?と思ったりする。


「いつもごめんね、まっちゃん」


 奥の冷蔵庫に食材を入れて戻ってくるとなぜか町田がまた宇宙人化していた。その横で組長が手を拭いている。町田が悲しみの目でこちらを見つめる。この短時間に何があったのだろう……。壁際でキツネが滝に打たれる修行を受けているように固まっている。


「キツネちゃん何があったの──?」


 幸の言葉にキツネがガバッと顔を上げるとブルブルと横に顔を振る。今流行りの顔ヨガか?

ふと振り返ると組長が暗黒のオーラを出しながら早速服を脱ぎ始めている。ゴゴゴゴゴという擬音を背中に背負っている。


 なんで治療する気満々?ってかなんでダークサイド系?


「先生。よろしく……」


 いつも通り上半身裸で寝ると幸はいつもの通り腰の背骨の凹みを確認していく。組長は昔分離症といわれたことがあるらしい、そういう場合大人になるにつれて神経痛が酷くなることがある。ゆっくり指でなぞるとくすぐったいのか背中の筋肉がピクリと反応する。


「先生──俺の名前、知ってるか?」


「組長」


「そりゃ肩書きだろう」


 そう言われてみて、組長の名前を知らないことに気がつく。運ばれてきたときにもバタバタして氏名欄に組長としか書かなかった。


「司……だ」


 おぉ?なんだ。けっこうイケメンな名前じゃないか。ってか、なんで急にこんな話になった?


「そうなんですねー……あ、私は幸っていう名前なんですよ」


「幸……いい名だな」


 あんたもなんでヤクザなの?声優になんなさいよ。町田も組長も勿体ない。


「……先生、俺を……名前で呼んで──」


 ガッシャーンッ


「チッ──」


 突然カーテンの外で何かが割れる音がする。カーテンから顔を出すと待合の二人が真っ青な顔をして濡れた床を拭いている。どうやら、水が入ったコップを落としたらしい。

 慌ててベランダから雑巾を取りに行き戻ってくると町田の頭がまた進化していた。頭の楕円形の跡がとうとう内出血になり、一気に人造人間的なホラー感が増した。キツネはなぜか髪の毛が逆立って野生的な臭いがする。一気にキタギツネ感が出た。


 幸は二人のイメチェンに気付いたがこれは触れてはいけないかもしれないと無視を決め込みベッドに戻る。


「すみません、お待たせしました。今さっき何て仰りました?」


「何もない」


 ベッドに横たわったままの組長はそのままダークサイドから帰って来なかった。


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