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虚弱なヤクザの駆け込み寺  作者: 菅井群青
第一部
3/102

常連さんいらっしゃい

「先生、今からいけるか?」


「いけるも何も……今までも今もそしてこれからも大丈夫です」


 軟禁してやがるくせに何をほざいてやがる。


 組長が最近毎日やって来る。おかげさまでこの男以外の患者は来ないのでいつでもウェルカムな状況だ。嫌味のように言う組長にも随分と慣れた。


「今日は首も頼む」


 慣れた様子で上半身を脱ぐとベッドへとうつ伏せになる。組長の首に触れると随分と固い。聞くと以前むち打ちをした事があるようだ。


「もう随分と昔に車に追われて中央分離帯で弾かれちまってな……。その後の報復が──」


「アーソウナンデスネ」


 幸は棒読みで相槌を打つ。さりげなく過去の犯罪を暴露している。明らかに法をいくつも破りまくっているが本人はなんとも思っていないようだ。


 背中の青龍に触れて、筋肉の硬い部分を指で探る。強く押さえるより撫でるように触れるとより分かる。


「この青龍に触れたやつはお前だけだ……」


「テメェの女みたいな言い方やめてくださいます?」


 最初こそビクついたが毎日のように強面とばかり接していると感覚が麻痺してくる。毎日適当に町田さんが食材を買ってきてくれているので意外に通販で注文しているような気持ちになった。スキンヘッドの町田も見た目と違い随分と家庭的で特売の品があるとわざわざ頼んでいないのに買ってきてくれていたりする。まずい、居心地が良くなってきた……。


 さすがに毎日鍼治療をしているので随分と腰の筋肉が柔らかくなってきた。股関節や太腿にも鍼をしていかねば……。


「んー、下も脱いでください」


「それはいいが、昼間から大丈夫か?俺は歩く凶器──」


「うだうだ言わずに脱げ、色ボケ」


 組長は色ボケと言われて楽しそうに笑っている。どこがツボったか分からないが見て見ぬふりをして鍼の準備をする。下着に手をかけてお尻から股関節にかけてしっかり深めに刺すと少し曇った声がする。さすがに慣れていたとはいえキツかったかもしれない。


「大丈夫……ですか?」


「クッ……最後のやつが奥で響いてるな……抜いてくれ──あぁ……それじゃない一本前のやつだ」


「キツイかも、ですね」


 まだ早かったかもしれない。だけど股関節を緩めたほうがきっと腰が楽になるだろう。


「前のやつを角度変えて奥に入れましょう」


「あぁ、頼む」


 幸が新しい鍼を追加しようとカーテンを開くと、待受のソファーで仲良く並んで座っていた町田とキツネがこちらを見てギョッとした表情になる。キツネは幸を見るなり真っ赤な顔をより真っ赤にしている。町田は慌てて手元にあった新聞を見るが上下逆のまま「だから日本はダメなんだよなぁ」と言っている。何を一体慌てているのだろうか。


「ちょっと待っててくださいね、もう終わりますから」


 幸がふわりと笑うと二人は「お構いなく……」と言うが顔が引きつっている。幸は気にもとめずカーテンの中に戻っていった。


「最後のが効いたな、また頼む」


 その後の股関節の硬さがとれすっきりとした歩みで組長は帰っていった。




「組長の体が開発されたことは──」


「言わないです!言われへんに決まってるでしょ!」


 聞こえぬよう小声でコソコソと話す舎弟たちの勘違いを当の二人は知る由もない──。

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