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虚弱なヤクザの駆け込み寺  作者: 菅井群青
第一部
16/102

人生の先輩



「そこに座れ……」


「お、おう……」


 突然夜に爺から呼び出しがあった。時計をちらりとみると二十二時前だ……。いつもなら爺は布団で寝ているはずだ。生活のサイクルを狂わしてでも俺に大切な話があるということだ。


(まさか……なんか病気があるんじゃ──)


 爺も四捨五入すれば八十歳だ……今は元気だが何があってもおかしくはない。組長は覚悟を決めて畳の上に置かれた座布団に座る。


「お前に話がある……」


 爺の顔はどこか決意に満ちた顔をしている。年齢を重ね体力こそ衰えたものの眼光はまだまだ鋭い。


「司──今日病院に行ったんじゃが……」

「ま、まさか──」


 癌、いやそれとも……クソ! なんで早く気づいてやらなかったんだ……あんなに頻繁に腰を痛めるなんてやっぱりおかしかったのに。


「──性欲がひどいのは元からだと言われた。いくらヤッてもヤッても満たされんのはしょうがないとな。だから──」


「えーなんの話ですかお爺様」


 頭が痛くなりそうだ。何が悲しくて自分の爺さんの性欲なんかの心配をしないといけないんだ。


「だから、お前もその可能性があるから言っとるんじゃ!」


「絶倫は遺伝しねぇよっ!」


 爺は興奮を抑えるため湯飲みに入った茶を一口含む。こんなぐらいで興奮しすぎるんだったらヤッてるときに死んじまうんじゃないかと思う。

 万が一……腹上死したら俺はその事実を全力で闇に葬る覚悟だ。


「先生を抱き潰してないだろうな……先生は名医だぞ。手足が動かなくなったらお前が困るぞ」


「いや、どんな抱き方したらそこまでの障害残せるんだ」


 こんな男の血が自分に入っていることに怖くなる。とりあえず健康的でよかったと思うことにしよう。


 まだまだ話し足りない爺を置いて組長は部屋を出て行こうとする。


「もし先生に必要なら取り寄せた紫まむし極楽一発ドリンクを──」


「いらねぇよ!」


 組長は部屋に戻る廊下で、爺が隠し持っている精力剤を全部燃やす計画を立てた。




 あくる日、満面の笑みで院のドアの前に立つ爺がいた。手には角ばった黒色の紙袋がある。嫌な予感しかしない……


「あら、万代さん。お久しぶりですね」


 爺を中へと招き入れる幸は腰が心配なようで「足元に気をつけて」と声をかける。目の前のジジイが絶倫で、腰痛の原因もそれだとは夢にも思わないだろう。


 さりげなく先生の手を握るあたりは確信犯だろう。手を借りる必要もないのに「すまないね」なんて老人特権の悪用だ。

 イライラして爺を見るとしてやったりの顔をしている。


「先生、今日はワシからプレゼントがあるんじゃが、受け取ってくれるかい?」


 幸が笑顔で爺の持っていた紙袋を受け取る。

 箱から取り出されたそれは深紫の色をしていて蛇のようなものがとぐろを巻き火を吹いている絵が描かれている。


「ま、まむし……ですか?」


 幸は嫌な記憶を思い出したようだ。


「うん、これを飲んでおいたほうがいいぞ、なんせワシもじゃが、あいつも──」

「爺!!」


 俺の声に紫まむし極楽一発ドリンクを持った先生が振り返る。……鴨が葱背負ってっていう日本語が俺の脳裏をよぎる。

 先生が戸惑ったように爺と俺を見ている。爺は先生の肩をポンポンと叩く。


「うむ──先生、今はいらんかも知らんがこれを飲んでおけばいつか良かったと思う日が来る。()()たいときに()()ないつらさを解消してくれるぞ」


「確かに、どこかへ()()たくても()()ないってなっても困りますしね。体力がないと()()ないですし。私旅行好きなんですよ」


 絶妙に会話が噛み合ってしまい指摘できない。


 爺は満足したようで「足らんかったら言ってくれれば届ける」といい帰っていった。


「お爺様はこれを飲んでるから足腰が丈夫なんですね」


 先生の言葉に俺は頷くことしかできなかった。

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