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城の中も素晴らしかった。
全て氷でできたその空間に圧倒される。
周りに散らばる悲しい残骸には目を向けないように中へと入り、城内を観察しているとドシンドシンという音と共に地面が揺れた。
奥から氷でできたゴーレムが何体も出てきている。
兵隊のように統率のとれたそれは、槍をこちらに向け、明らかに敵意をもっていた。
やはり扉を壊したのはまずかったらしい。
いらない戦闘はなるべく避けたい私は、頭を抱えた。
穏便に目撃情報やらを聞ければそれでよかったのに。
しかし、お相手も仲間ももうやる気になっているのだから仕方ない。
「メメメ、マチュリー任せて大丈夫かしら」
ゴーレムごときにやられるとは思わないが、一応聞いておく。
「だ、大丈夫。大丈夫」
「お任せ下さい。ソフィリア様」
思った通りの頼もしい返事に、満足した私は少し後ろに下がってこの戦いを見守ろうと思う。
メメメがゴーレムに向かって物凄いスピードで飛んだ。
ゴーレム達は飛んできたメメメに向かって槍を一斉に突き出すが、そんな大きく遅い動作では当然当たらない。
メメメは一体のゴーレムの懐に入ると、頭部を拳でぶち抜く。
ゴーレムの頭部は原型がわからないほど粉々に散った。
「も、脆い。脆い」
メメメがそう吐き捨てているが、ゴーレムは基本防御力に優れているものだ。
氷でできているといっても、その辺りの本質は変わらないと思われる。
なぜ、それが簡単に粉々に散ったか……。
ただ単純にメメメの攻撃力がゴーレムの防御力を上回ったのだ。
メメメはスピードに攻撃を乗せるのが上手い。
瞬発的に出せるスピードに攻撃を乗せると、信じられないほどの力がうまれる。
ゴーレムなど蒸した芋を潰すより簡単なことなのだろう。
ビュンビュンとゴーレム達の間を飛び回ると、どんどんと頭のないゴーレムの軍団が出来上がっていく。
ただ、ゴーレムは頭部がないからといって絶滅するわけではない。
脳を司る術式が解け、馬鹿になってバランスが取りづらくなってパワーが落ちるだけだ。
普通暴走し、近くにいるメメメに襲いかかるのだが、なぜかゴーレム達はピタリと動きを止めている。
――マチュリーの仕業だ。
マチュリーがグイッと何かを引っ張るかのように手を動かすと。
次々とゴーレム達は体を抱え込んだ状態で赤子のように床に転がされた。
マチュリーが戦闘においてよく使うのは魔糸だ。
彼女はメメメのようなパワーもスピードも持っていない。
だが、器用さでは天才的な一面を持っている。
目を凝らしてようやく認識できるほどの細い魔糸で相手を拘束し、無力化するのがマチュリーの主な戦い方である。
ゴーレム達にはすでに魔糸が張り巡らされているのだろう。
それはパワーの落ちたゴーレムなどでは解けることはない。
「終わり。終わり」
「ソフィリア様、お待たせ致しました」
メメメが撫でてほしそうに頭を擦りつけてき、マチュリーが私の1歩後ろという定位置に着く。
と、同時にパチパチと拍手が響いた。