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なかなか吹雪が止まない。
マチュリーのおかげで寒さに凍える訳でも無いし、いざとなったら下山もできるから死ぬ訳でもない。
次々と体にぶつかる雪がうっとおしいなというくらいだ。
ただなんというか、このいつ終わるかもわからないことに足を踏み出すにはきっかけが必要だった。
長年の引き篭り癖がこの吹雪がましになったら、もう少し休んでからなどと理由を作っては行動するのを邪魔してくる。
仲間たちも私が動かない限り、このままだろう。
じっと外を眺めていると、吹雪の中でいくつもの小さな光る何かが移動していることに気が付いた。
轟々とした音に混じって、キャッキャッという幼い笑い声も聞こえてくる。
あれは……祝福妖精か。
何かお祝いごとがあるとたまに現れ、小人の姿で歌や踊りを披露するという。
それは赤ん坊が産まれた時だったり、初めて魔法が使えるようになった時だったりと様々だ。
祝福妖精が現れると小さな加護を授かれるのだという。
何かこの山でめでたいことがあるのだろうか。
動き出すにはちょうどいいきっかけを見つけた私は妖精達についていくことにした。
「出るわ。妖精達についていきましょう」
静かに立ちあがり、私は仲間たちにそう告げる。
メメメは私の横に張り付き、マチュリーは出したものを異空間に全て片付け一歩後ろへ、マクロは私の影に潜んだのは一瞬の出来事だった。
マチュリーによって洞窟の大きな明かりは消され、道標となる最低限の明かりを宿す。
「明かりよ、妖精についていけ」
ふわふわと浮くそれに命令すると、数センチ先を維持するように先導してくれる。
手がかりが見つかればよし、見つからなくてもなにかめでたいことには出会える。
無駄な捜索よりは幾分かましだろう。
こうして私達は楽しそうな妖精の集団についていくことに決めたのである。
★
城が見える。
氷でできたなんとも美しい城だ。
先程までの野生に満ち溢れた景色はいつの間にか消え、何者かの手の入り整備された場所へと来ていた。
こんな場所が氷震山にあるとは資料には書かれていなかった。
――未開の地。
これは大当たりか大ハズレのどちらかだろうな。
妖精達はあの城を目指して移動しているようだ。
なんの手がかりもない私達には、妖精達に導かれるままに足を進めるしかないのだ。
近くに行けば行くほどその城の芸術性に目が惹かれる。
山の生き生きとした様子を表した細かい装飾が施されている扉を、妖精達は通り抜けて中に入っていってしまった。
どうしたものか……。
コンコンコン。
とりあえずノックをしてみる。
しかし当然反応はない。
相変わらず聞こえるのは吹雪の音だけ。
期待は全くしてなかったものの、的外れなことをしてしまったようで少し気恥しい。
ちらりと横にくっついているメメメに目を向けると、バチッと目が合った。
なんとなく目を背けるタイミングを失い、しばらく見つめ合っているとメメメは得心がいったようにひとつ頷いた。
そして右手を振りかぶると、あんなにも美しく素晴らしい扉を粉々に破壊したのだった。
「あ、あってる?あってる?」
唖然としている私に向かって、メメメは何故か照れた顔でそう言った。
……あってないよ。
その言葉は胸の中にしまいこんだ。