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マチュリーがキビキビと準備をしだした。
地面を整備し平らにすると、そこに異空間から出したカーペットを敷く。
そしてここには似つかわしくないほど豪華な机を一つと椅子を三脚その上に置いた。
椅子を引き、私とメメメを座らせると今度はポットとティーカップ、そしてクッキーやケーキなどの甘味を出す。
メメメが美味しそうに紅茶を飲んでいるのを見て、あれティーパーティーだったかなと勘違いしそうになるが、周りはただの土壁である。
マチュリーはメイドだ。
灰色のショートカットに知的さを感じられる碧の瞳、スラッと平均より高い背で膝下のメイド服を着こなし、容姿も整っている。
しかし私が地下に行くことになった瞬間から両親に命じられ、私専属になった可哀想なメイドである。
付き合いでいえばお兄様の次に長い。
今ほどではないが、昔から何故かこんな魔族として最底辺の私を尊敬の念を抱いて世話をしてくれている。
マチュリーがいなければ、お世話されるのが当たり前だった私の地下での生活はかなり困難なものになっていたと思う。
メイドというのはあらゆる面で主人をサポートする存在でなければならないのです。
と、昔マチュリーは言っていた。
その言葉の通りマチュリーは、色んなことができる器用なメイドだった。
異空間にはないものはないのではないかと思うほどなんでもあるし、軽い治療や薬を調合することもでき、更に護衛までこなす。
料理の腕も一流で、私は今まで生きてきて不味いものを食べたことがない。
ちなみにこの雪山で私が凍え死んでいないのもマチュリーの魔法によるものである。
冷えは女の敵ですからねと普段からかけてくれているものをこの場に相応しいレベルにまであげているらしい。
私にはさっぱりであるが、とても有難いことである。
どんどんと洞窟内が快適な場所へと変貌していく。
アロマまで焚き始めた時は止めようか迷ったが、それが私のお気に入りの香りであったため、その気遣いに何も言えなくなる。
やりすぎな所もあるが、その全ては私のためを思ってしてくれているのだ。
目の前にいるメメメが上機嫌にクッキーを頬張っている。
メメメもマチュリーが用意したこの環境に満足しているようだ。
さらに彼女は甘いものには目がないので、それが機嫌に拍車をかけているのだろう。
山のようにあったクッキーは最後の一枚となっていた。
メメメがそれに手を伸ばそうとしたその時だった。
「おいデブ虫、それ以上食ったら飛べなくなるぞ」
突然私の左側から、揶揄うような男の声が聞こえた。