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氷震山。
右を見ても左を見ても一面真っ白。
年中吹雪いており、道に迷ったら諦めろ、希望を持つなと言われている場所だ。
ここで迷うということは、雪女という怪物に気に入られ帰してもらえなくなっているからだという。
私はその曰く付きの山に来ていた。
というのもここでゾゾリニが討たれたとされているからだ。
されていると曖昧な表現になるのは、ゾゾリニの遺体を回収できていないから。
ゾゾリニの部下によると天使の気配を感じると氷震山に行ったっきり戻ってこないのだという。
今回その遺体、もしくは戦闘跡を発見し天使についての情報を読み取るというのが私の仕事である。
「ゾゾリニを討てる天使の情報を放っておくのは馬鹿のやることだ」とはノアの言い分だ。
まあ、情報を持っていないのと持っているのでは持っている方がいいことは私もわかる。
ただ、それを私に押し付けるのは理解出来ない。
言い出しっぺが行くのが普通だと思う。
なにもかもいつの間にか把握出来ないほど広がった、私のとんでもない噂の数々が悪い。
なんでも出来る便利屋さんだと思われている。
その誤解はいつも否定したいと思っている。
だがあの場で当然できるだろと言った目で四天王+お兄様から見られた新参者の私に否定する勇気などなかった。
もし見つけれなかったら遭難したふりをしてどこか遠くへ逃げよう。
広すぎ、視界悪すぎ、情報無さすぎの山を見ながら私は深い溜息をついた。
★
「ソフィリア様。洞窟がありますので、あそこで休憩としようと思いますがよろしいでしょうか?」
マチュリーが提案してくれた洞窟は真っ暗で何も見えず、少し怖い。
だが何も成果を得られず、長い間ただただ皆を真っ白な雪道を歩かせて申し訳なさでいっぱいの私は何も言わずに頷いた。
マチュリーが先に洞窟に入る。
何かを殴った音がした後にその場が明るく照らされた。
そこは少し奥には行き止まりが見えるような少しひらけたところのある場所だった。
奥をよく見ると標準より少し大きいくらいの雪豚が倒れている。
先程の音はこの雪豚とマチュリーの戦闘によるものだろう。
確か雪豚は焼くだけでも美味しく食べれたはずである。
それくらいなら私にもできるはずだ。
これを料理して皆の機嫌を取ろう、そうだそうしよう。
私がその豚の方に行こうとした時だった。
マチュリーがぶっ飛んだ。
「マ、マチュリー……ソフィを豚がいた場所に案内するなんてどういうこと?こと?」
「配慮が足りず、申し訳ございませんソフィリア様、メメメ様。別の場所を探してきますので、少しお待ちいただけますでしょうか」
マチュリーがメメメに攻撃され奥の壁に激突したが、すぐに起き上がったかと思うと目の前で深い深いお辞儀をした。
それをまるで敵を見るかのような剣呑な目付きでメメメが見下ろしている。
ウェーブされた緑の髪が逆立ち、羽根が高速で動いてヂヂヂと鈍い音をたてている様子から威嚇状態であることがよくわかる。
そんな怒るとこあった?
私は豚と一緒でも大丈夫だよ。
ラッキーとすら思ってたよ。
私が状況についていけず、唖然としているうちにもマチュリーが右頬を赤く腫らしたまま吹雪いている外に出ていこうとするので、慌てて一言告げる。
「私はここがいいわ」
メメメとマチュリーがこちらをじっと見ている。
大切なのはここでいいなどと妥協したように言わないことだ。
私の意思でここを選んだことを示すのが大事である。
そうしないとメメメはもちろん、マチュリーも納得しないであろうことは経験済みであった。
「そ、そうなの?ソフィがいいならいい。いい」
「ソフィリア様のお優しさに感謝致します」
メメメの威嚇は収まり、マチュリーは感動したかのように涙目になっていた。
2人共納得したようで、ほっと胸を撫で下ろす。
メメメのキレどころもマチュリーのメイド精神も理解はできないが慣れている。