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今魔界で一番物騒な場所はどこですかと聞かれたら、私はここですと声を大にして言うだろう。
頑丈そうな円卓に並ぶ五つの席にはお兄様、そして私含む四天王が座っている。
これからゾゾリニを討ったとされている敵についての会議が行われるとのことだった。
強者とされていた者が討たれたからか、普段からそうなのか新参の私にはわからないが、その雰囲気は重々しい。
そんな雰囲気の中初めに口を開いたのは私の右隣にいた猫のような目が特徴的な男の子だった。
「ゾゾリニのやつ、天界の糞共に殺られたんだって?あの老いぼれ油断しやがって」
可愛らしい声で発せられたとは思えないほど汚い言葉で討たれたゾゾリニを罵る。
子供らしい手に嵌められたいくつもの指輪をイラついている自身を宥めるかのように、弄っている。
天界と魔界は昔からお互い目の敵にしており、魂から反発する種族であるとされている。
そんな相手に嘗められた今の状況はプライドが高い者の多い魔族にとって、耐え難いものなのだろう。
私は部下が聞かせてくれた四天王の情報を思い出していた。
ノア・マーブル。
魔術の天才であり、膨大な魔力保有量の持ち主。高度な魔術の行使には繊細な技術が必要とされているにも関わらず、その性格は短気で大雑把。
「まさか死ぬなんてねぇ」
派手な色の唇を歪め、ケラケラと小馬鹿にするように笑っているのは左隣に座る褐色の肌が艶やかな露出の多い女。
リメル・オーラ。
幻術を得意としており、殺戮快楽者のためその戦い方は残酷極まりない。
味方を巻き込んだ戦いがいくつもあり、率いる隊の入れ替わりは一番激しいという。
「………」
何故か無言でこちらをじっと見つめてくるのはノアの隣に座るドス黒い鬼角二本を頭に生やした筋肉質の男。
アンドリュー・グドルド
強靭な身体を持っている上に再生能力まで備わっている鬼人型ゾンビ。
出自は不明でありながら、その功績から姓を与えられた異端児。
そしてアンドリューの隣には我等がお兄様が座っている。
世間に疎い私でも聞いたことのあるビックネームばかりだ。
……本当になんで私ここにいるんだろ。
アンドリューの穴があきそうなほどの視線をなるべく意識しないように自分の世界に入る。
お兄様がいるからには早々死なないとは思うが、出来れば関わりたくない者達である。
そんな私の考えを嘲笑うかのように、リメルが絡んできた。
「それでゾゾリニの代わりがそこにいるソフィリアちゃんってわけねぇ。噂は聞いてるわぁ」
口調は穏やかなものの見つめる目は笑っておらず、こちらを見定めようとしているかのようだ。
「ふん。噂が本物であればいいがな。お前の噂はあまりにも現実離れしたものが多い」
その言葉を拾ったノアがさらに突っかかってくる。
何もしてない内から嫌われているようで悲しい。
噂の内容も私のところまではいってこないから否定の仕様がないし。
「そうかもしれないわね」
とりあえず機嫌を損ねないように当たり障りのない返事をしておく。
その瞬間、目の前で火花が散った。
バチッ!
あまりに突然で反応すらできなかったが、覚えのある現象だ。
今、私は誰かに攻撃されたらしい。
私の影が生き物のように蠢いたのを足で踏んずけて、抑える。
四天王を相手にするつもりはない。
「ふむ。攻撃無効の噂は少しは信憑性が増したか」
ノアが実験を試したかのような口調で話し、顎に手を当て、なにやら考え込んでいる。
攻撃してきたのはノアだったようだ。
殺意が散っていることから、もう今はこれ以上やる気はないだろう。
「それはよかったわ。……じゃあそろそろ会議を始めましょう?」
この話が続くのはまずい。
いつ化け物達の気が変わって、また攻撃されるとも限らないのだから。
私は平静を装いながら、本題にはいるように促したのだった。