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魔王城。
ステンドグラスから漏れる光が降り注ぎ、神聖さと豪華さを醸し出している。
私は真っ赤なカーペットの上で片膝をつき、配下の礼をとり、声をかけられるのを待っていた。
周りにいる貴族達が色々な感情を抱えながらこちらを見ているのが分かり、とても憂鬱な気持ちになる。
ナメクジに身体を這われているかのような、手垢をベタベタと遠慮なくつけられているかのような独特の視線に自分が慣れる事は無いだろう。
こういう場は苦手だ。
だけれど、この場に呼ばれたからには応じないという選択肢は私には無い。
「ソフィリア、よくやった」
重低音の淡々とした声がピリついた場に響く。
「……ありがとうございます」
大勢に見られ、緊張しながらもどうにか私は王座に座るお兄様にそう返事をした。
お父様とお母様が死んで、お兄様が家を継いだ日。
お兄様は私を地下から出すという選択をとった。
口数少ない私達の会話はあまり弾まないため、状況は詳しくわからなかったが、とりあえず私は外に出てもいいらしい。
しかし、今更外に出ていいと言われても怖いという感情しか湧かなかった私はそれから何十年も引きこもったままだった。
何年も過ごし作り上げた私だけの城は、あの苦い思い出しかない外よりもよっぽど魅力的なのである。
それに痺れを切らしたのか、お兄様はあろうことか私に仕事を回すようになり、お兄様に見捨てられては生きていけない私は泣く泣く仕事をこなすようになっていった。
時に死にそうになりながらも何とか生き延び、色んな縁あってこんな私でも慕ってくれる優秀な部下に恵まれた結果。
いつの間にか魔王にまで上り詰めていたお兄様の手足として、働けてしまっている。
「ソフィリア・ヴィオラーナを四天王に任命する」
そうお兄様が宣言する。
ざわざわと周りが騒いでいるのが耳障りだ。
視線は先程までの比ではないほど強い。
そして煩いほどの拍手につられるように心臓はどんどんと早くなる。
四天王とはお兄様の次に強い者達で。
魔族の夢みたいな位置にある役職な訳で。
確かに、最近四天王の一角であったゾゾリニ様が討たれ、空席があるという話は知っていた。
だが部下の力でなんとかここまできた私がそこに入る余地などあるわけがない訳で。
……何故そうなったのかわからない。
心の中は大荒れだが、長年引きこもっていた私がこの場で発言するのは無理だ。
なんとか説明と撤回をしてもらおうと、お兄様に目で訴えてみるが、その精巧に作られたかのようにお綺麗な顔はピクリとも変わらない。
その様子を見て、収まらない大喝采の中私はまたもや「ありがとうございます」とだけ返事をし、妄想の世界へ旅立つことにした。
これはもはや覆らない事柄らしい。
騒いでも仕方ないことは、早めに諦めたほうがいいことを私は知っている。
なるようになる。
いつでもそうやって生きてきたのだ。
詳しい話は後で聞けばいい。
早く終われ。
私は心の中で溜息をつき、今はただそう願った。
こうしてソフィリア・ヴィオラーナは四天王の一人となった。
いやなってしまったのだった。