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勘違い物が大好きでついに書き始めちゃいました。よろしくお願いします。
目の前の生首がこちらを睨んでいる。
豪華絢爛の王座の間……であったであろうそこは、戦闘により破壊の限りを尽くされ、血糊で彩られ、見る影もない。
「くっそ!こいつ!ソフィリア様のドレスを汚しやがって!死んで!償え!」
……もう死んでると思う。
ドヂュ、ドヂュという不快な音と共に怒声が響き渡る。
首と身体を切り離すだけじゃ満足せず、身体をその足でぐちゃぐちゃに踏み散らしている少女。
幼げな可愛らしい顔に似合わず、頭に血が上ると口が相当悪くなる。
しばらくして、少しは気が済んだのかこちらにちょこちょこと寄ってくる。
血濡れのその姿は正直とても、かなり怖い。
だが、私はそれを表に出すわけにはいかないのだ。
「ソフィリア様のドレス、ミアのドジのせいで汚れちゃった。ごめんなさい」
しゅんとした顔は親に怒られる前の子供のそれだ。
俯いてだらりと前に落ちた綺麗な真っ赤な髪からポタポタと赤が落ち、カーペットに染みをつくる。
「気にしてないわ」
声は震えていなかっただろうか。
ドレスの端の端に飛んだ血は目を凝らさないとわからないくらいだ。
むしろ血濡れのミアの方が気になる。
「ソフィリア様優しい。大好き!」
向けられる好意と無垢な笑顔とブンブンと振り回されている尻尾。
それをただ可愛いと思うには、私はミアの魔族らしい残虐さを知りすぎてしまっているのだ。
「帰るわよ」
「はぁい!」
――《朧》のソフィリア・ヴィオラーナがまたもや功績を挙げた。その情報は魔界を駆け抜け、尊敬と畏怖を集めることとなった。
★
高貴なるヴィオラーナ家に生まれ、容姿に恵まれ、頭の出来も悪くはない。
勝ち組を約束されている。
私、ソフィリア・ヴィオラーナは幼い頃そう自分を評価していたし、他人の評価ともそう差はなかったと思う。
魔族に生まれたからには強さは必須。
他がどれだけ優れていたとしても、弱いというだけでその価値は限りなく低くなる。
それはこのヴィオラーナ家のお嬢様であった私も例外ではなかった。
いや、むしろこの武で成り上がったとも言えるヴィオラーナ家の歴史を考えると必然。
お父様は魔王軍四天王という位置についており、お母様はその右腕として活躍していた。
お兄様は幼いながらも既に才をメキメキと表していて、流石はヴィオラーナ家のご子息様と評判だった。
きっとソフィリアも……という期待をするのも無理はないと思う。というか私が一番期待していた。
それが崩れ始めたのは、五歳の時に連れて行かれた初めての狩りでのこと。
結果からいうと散々だった。
スパイダーに捕まり、スライムに窒息させられ、ネズミーに食べられそうになる始末。
戦闘により本能的に理解すると言われている攻撃法もわからないまま私は死にかけた。
お父様は即座にその場にいたお母様以外のお付きの者達等を皆殺しにし、私の弱さを闇に葬った。
そして、地下に私を閉じ込め亡き者として扱い、世話係も一人に全て任せた。
そうして私の魔族としての輝かしい未来は閉ざされた。
――と思われた。
それが変わったのは、私が地下に住み始めてから百年は経った頃だっただろうか。
その頃には自分の立場というものを理解し、強くなることは諦め、自分なりに楽しく生きていけばいいじゃないかと今の生活も悪くないなと思い始めたところだった。
お父様とお母様が下克上により死んだらしい。
それを聞いた時真っ先に考えたのは、自分がこれからどうなるのかということだった。
閉じ込められてるとはいえ、利用価値がまだあるのか飢えることもなく、欲しいものは大体与えられ、悪くない待遇で生きていた。
それがなくなるのは非常に困る。
今更職を探すなど私には無理だ。
どうするべきか……悩みすぎて寝れない日がたまにあるほどだった。
だが、その心配も杞憂に終わる。
お兄様がヴィオラーナ家を継いだらしい。
勝手にお父様お母様と一緒に死んだのだと思っていたが、そうではなかったらしい。
お兄様は幼い頃の評価が変わることなく、いやそれ以上に優秀に成長したのだという。
地下に閉じこめられてから一度も会っていないが、お父様が私を生かしていたのだからお兄様もきっと私を生かしてくれるだろう。
私の平穏は守られた、はずだった。