閑話3. セージとフルルの噂
閑話3*
リディアとの国境近くの街アルドには、街の中心あたりに冒険者組合がある。それほど大きな街ではないので組合の規模もそこそこで、Bランクの冒険者はいないがCランクなら数人といったくらいである。
そんなアルドの冒険者組合だが、最近はいつにない盛り上がりを見せている。今も組合の中で手すきの若い冒険者が集まり、興奮した様子でなにやら会話していた。
「――それでさ、俺言われたんだよ! あの冷たい目を俺に向けて『じゃま』ってな!」
「お前それただ迷惑かけてるだけじゃん。でもいいな。俺もフルルさんと話してみたいぜ」
「あの子、他の冒険者とろくに会話もしないもんなー」
冒険者たちは、有名人の話題で盛り上がる子どものような様子でフルルのことを話している。やれ視線を向けられただとか、声をかけられただとか、真偽もさだかでないようなことを口にしては歓声を上げている。
近頃の組合では、こういった光景は珍しいものではない。ゴブリンロードの討伐が成功した日を皮切りに、依頼に参加した冒険者たちの話がどんどん広まって、フルルは一躍有名人となっていた。
そもそもゴブリンロードという魔物は、たいていの冒険者にとって手に負えない魔物だ。アルド程度の街ならそうとう被害が出てもおかしくない。そんな魔物を、とても強そうには見えないフルルのような冒険者が派手に倒したのだ。そこに見た目の可憐さも相まって、今やフルルはアルドの組合で知る人のいない冒険者となったのだった。
ゴブリンロードが討伐されてからしばらく経った今でも、組合ではフルルのことを話す冒険者たちが一定数いる。それがフルルを純粋に讃えるものであれ、嫉妬や僻みを向けるものであれ、盛り上がっていることに違いはない。
今組合内で前者の盛り上がりを見せていた冒険者たちは、ひとしきり会話して満足した様子で、そろそろ依頼の確認でもと動き出そうとした。その時だった。
「そういえばさ。フルルさんのパーティメンバーらしい少年、セージだったっけ。あいつってどうなんだ?」
冒険者の一人が、ふと思い出したといった口調で告げた。
「どうって?」
「いやさ、誰にも心を開かないフルルさんがあいつとだけは仲良さげにしてるじゃん。それにあのフルルさんとパーティ組んでるくらいだから、相当強いのかなって思ってさ」
そう言った冒険者に、残りの冒険者たちが首を傾げる。
「どうなんだろな。あいつに関してはあんまり話を聞かないけど」
「俺、あいつは回復魔法使いだって聞いたことあるぜ」
「ってことは強いわけじゃないのか。なんかフルルさんと比べるとぱっとしないよな」
「たしかに」
冒険者たちは、フルルと比較するとセージは大したことないんじゃないかという結論に達する。そして、それなら俺たちでもパーティに入れてもらえるんじゃなんて、また新たな盛り上がりを見せ始める。
その時、彼らに近づいていく一人の冒険者がいた。集まっている冒険者に比べてベテランといった風貌の彼は、やれやれといった調子で冒険者たちに話しかけた。
「お前たち、分かってないな。あのパーティの要はお前たちの話してたセージ君だ」
「え。な、なんだこの人いきなり」
「いいか、セージ君はすごいぞ。まず彼の回復魔法の発動速度、これがすごい。混戦状態の最中でも、扱いの難しい回復魔法を的確に素早くかけてくれるんだ。これほどありがたいことはない」
戸惑う若手冒険者たちに、ベテラン冒険者は構わず続ける。
「そしてもう一つ、彼にはすごいところがある。それは彼が回復魔法使いでありながら、弓も扱えるということだ。本職顔負けの精度と威力、加えて不可解なまでの機動力をいかした単独戦闘までこなして見せる。弓の方だけでもおそらくDからCランクくらいの実力はあるだろう。あの器用さには度肝を抜かれたぞ」
いつしか話に聞き入っていた若手冒険者たちがごくりと唾をのむ。
「いいか、けして彼を侮ってはならない。セージ君とフルルさん、二人が揃って初めて意味があるんだ。そこに俺たちが立ち入る隙なんてないのさ」
それだけ告げてベテラン冒険者は立ち去って行った。残された冒険者たちは呆然としながら、ぽつりと呟く。
「……俺、今度あったらセージさんにも話しかけてみよ」
「俺も」
「俺もだ」
冒険者たちは顔を見合わせ、のそのそと依頼が張り出された掲示板へと向かった。
こうして派手なフルルの噂の陰で、ひっそりとセージの話も広まっていく。今はまだ知る人ぞ知るといった具合だが、いずれセージも多くの人に名を知られることになる。そのことに本人が気付くのは、ずいぶん時間が経ってからのことだった。




