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17. フルルの切り札

17*


「――透明で、純粋で、きれいだった」


 場違いなほどに静かな声と、鋭く研ぎ澄まされた魔力。魔力の乗った声は、離れていてもよく通る。


 戦線から離れた場所で、一人立つフルルが見えた。


 目をつむって、地面についた剣の柄に両手を重ね、フルルは言霊を紡ぐ。


「雪降る路地から掬い上げる。冷たい風を纏って踊る。――色の無い、透き通った氷の剣」


 剣身をいくつもの青い魔法陣が覆う。高密度に練られた魔力が、魔法陣を通して剣に流れ込んだ。


 フルルが目を開き、凛とした表情で最後の一言を告げた。


「――『雪纏う六花の剣』」


 莫大な魔力が収束し、きん、と澄んだ音が鳴った。


 森の中に冷気が満ちる。近くの木や草に霜が降りて雪化粧したような有様に変わる。


「なんですか、あれ……」


 サシャちゃんが呟く。僕を助けるためアトラ君とこっちに向かっていたらしく、声は思ったより近くから聞こえた。


 僕はこれでもう安心だと一息吐いて、駆け寄ってきたサシャちゃんとアトラ君に言った。


「あれがフルルの切り札、とっておきの魔法剣。まだ未完成ですごく時間がかかっちゃうけど、一度発動したならもうフルルの勝ちだよ」


 フルルがゴブリンロードへ向かって歩いていく。片手に持つ剣は刀身の鋼色が消え、代わりに白くて透明なものに変わっていた。青い魔力を噴き上げながら、強烈な圧力を放っている。


 ゴブリンロードはフルルの魔法の脅威が分かるようで、他のすべてを意識から追い出し、警戒するようにフルルを睨みつける。


 あの魔法剣『雪纏う六花の剣』は、さっきも言った通りフルルの切り札である魔法だ。なんでもフルルの過去の経験から編み出したオリジナルの魔法らしく、リディアにいた頃に生み出して鋭意改良中とのこと。


 発動にはすさまじい集中と、術式構築のための時間が必要だけど、ひとたび発動すれば討伐推奨ランクC程度の魔物では成す術はない。おそらくBランクの魔物にも通用するだろう。


 フルルが初めはゆっくり、そして徐々にその速さを増しながらゴブリンロードへと向かっていく。フルルの通った跡が白い冷気を上げながらぱきぱきと凍っていく。


「ガ、ガアァアアァア!」


 目前まで迫ったフルルに、ゴブリンロードが焦ったように咆哮を上げた。同時に腕を振り上げ、小さなフルルの身体に叩きつけようとする。だけど、あの魔法を発動したフルルにそんなものが通用するはずもない。


 フルルは自然な動作で剣を振り上げ、ちょん、と己に迫る太い腕に合わせる。その途端、剣身から伝わる冷気が一瞬で腕を凍り付かせる。そのまま剣を振りぬき、凍った腕を斬り飛ばした。


「ギヤアアァァッ!」


 凍って痛みも感じないだろうに、ゴブリンロードは大きな叫び声をあげた。フルルには敵わないと理解したのか、素早く後ろに飛び下がる。ゴブリンの最上位種は、情けなく腰が引けている。


 フルルの顔はいつもと同じく氷のような無表情で、そこに何を感じたのかゴブリンロードの顔が恐怖に染まる。それから、フルルに背を向けて一目散に逃げだした。


「あっ、あいつ逃げるぞ!」


 遠くで誰かが声を上げる。サシャちゃんも同じく、小さな声であっと呟く。


 だけど、大丈夫。あの魔法からはあれくらいじゃ逃げられない。


 フルルは逃げるゴブリンロードを冷たく見据え、軽い動作で剣を横に振るった。


 すると、剣からあふれる魔力が刃をかたどり、凄まじい速度で飛翔する。青白く光る刃は逃走するゴブリンロードの背中にぶつかると、激しい光を上げて弾け飛んだ。


 眩しくて目をつむる。驚いたみんながそこかしこで声を上げている。


 そうして光に焼かれた目を開くと、僕たちの視界に真っ二つに切り裂かれて固まる大きなゴブリンの氷像があった。


 場に沈黙が下りる。誰もが声を忘れたようにフルルを見つめる。


 ふう、と息を吐いたフルルが剣に通う魔力を散らして鞘に納める。辺りを包んでいた冷気が消えると、フルルは僕のもとにてくてく歩いてきて、「すごくつかれた」と呟いた。


 その言葉をきっかけに、一部始終を見守っていた冒険者たちは大きな歓声を上げた。今度こそ終わったとみんなで歓喜する。


 自分を讃える言葉を繰り返され、フルルはうんざりとした表情を浮かべた。




 こうして、思いもよらない強敵の出現で長引いた依頼だけれど、みんなの活躍でなんとか幕を閉じた。


 怪我した人の治療や、すげなくあしらったガイさんの対応など、これからやらなきゃいけない大変なことは残っている。それでも今だけは、僕もみんなと一緒に声を上げ、その喜びをみんなで分かち合うのだった。


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