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1. 脱退の決意

1*


 あぁ、どうしてこうなっちゃったんだろう……。


 僕はため息を吐きながら、いつ魔物が現れてもおかしくない森の中で言い争う仲間たち四人を見る。


 冒険者パーティ「宿り木の剣」のリーダー、僕をこのパーティへ誘ってくれたトウリ君が大きな声で言った。


「だから君たち前衛が突出しすぎたせいで、ボクたち後衛が、セージくんが危険な目にあったんだ! もう少し仲間のことを考えて動いてよ!」


 男の子にしては長い若草色の髪を振り乱し、手に持った杖で他のメンバーを指し示す。


 たしかにさっきのは本当に危なかった。傷を負った魔物を逃がさないようにと前衛が深追いしてしまったために、僕とトウリ君の方へ別の魔物がやってきてもその対応ができなかった。トウリ君がとっさに手持ちの魔道具を使ってくれなかったら、僕たちはやられていたかもしれない。


 パーティのリーダーとして、トウリ君は間違ったことを言っていない。だからその助け舟の意味も込めて、僕はつい口を出してしまった。


「い、いつもみんなに守られてばかりの僕が言うことじゃないかもしれないけど、できればその、トウリ君の言う通り、もう少しこっちに気を配っていて欲しかったかな……」


 いつも口数の少ない僕が意見したことに驚いたのか、トウリ君や彼と言い争っていた金髪の少女マーチさん、他二人の仲間が僕を見る。


「……な、な、」


 マーチさんは僕を見て、愕然とした表情で震える。あ、あれ、これやばいかも?


「あんまりきつく言わないでやってくれるか、セージ。マーチの気持ちも少しは汲んでやれ」


 とっさに助け舟を出してきたのは、長い黒髪で目元を隠している華奢な剣士、サイ君だ。彼はどうもマーチさんのことが好きみたいで、よく二人で仲良く話しているところを見かける。今のだって、マーチさんが責められる空気を感じて彼女を助けようとしたのだろう。


 というか、別に僕はそれほどマーチさんを責めているつもりはなかったのだけれど。も、もしかして、強く言いすぎていたのかな?


「あの、マーチさん。えっと、今のはなんというか、言葉のあやというか……。せ、責めたりしたつもりじゃなくって、ご、ごめんなさい……」


 とっさに謝る僕。それを見て、最後のパーティメンバー、銀色のおかっぱのフルルがほくそ笑む。


「……ぷくく、相変わらずセージ弱い。ざこ」


 ひ、ひどい。マーチさんがまた爆発する前に、頑張って謝ったのに。


 彼女は結構怒りっぽくて怖いのだ。それに今回のことだって、たぶんサイ君にいいところを見せようとしてはやってしまったのだろうし、それを悪く言った僕たちにいったいどれほどの怒りが向くか……。


 僕は恐る恐るマーチさんの顔色をうかがう。どうか怒っていませんようにと願ったけれど、だめみたいだ。マーチさんは僕をものすごい形相でにらみつけて(目に少し涙さえ浮かべている)、がおっと吠えた。


「なによ! あ、あんたたちがボケッとしてるのが悪いんでしょ! 近くの魔物の気配くらい察して私たちを呼べばいいじゃない!」


「なっ、それは暴論だよマーチさん! ボクもセージくんも、間違ったことは何一つ言っていない!」


「な、なによ! 文句あるの!? わたしたちこれでも頑張ってるんだから! セージみたいな、や、役に立たないヒーラーのために頑張って――」


 がつんと、頭を殴られたかのような衝撃。役に、立たない。


 僕はマーチさんの言葉を聞いてくらっときた。自分でも思っていたことだ。新進気鋭の宿り木の剣の中で、僕だけがみんなの足を引っ張っているって。


 だけど、やっぱり……。


「はっきり言われるのは、つらいなあ……」


 僕は情けなく、泣き笑いみたいな表情を浮かべる。


分かっていた。みんなが僕のペースを意識してくれていることは。初めて誘われて加入したパーティに、甘えすぎていた。遅かれ早かれ、いつかはこんな日が来るんじゃないかと思ってはいた。


 僕は、このパーティのお荷物だ。


「ま、マーチさん! な、なんてことを言うんだよ! セージくんはいつも、自分がどんなに危険な目にあっても僕たちの怪我を治してくれたじゃないか!」


「あっ、あのっ、わたし、そんなつもりじゃ……」


 表情を変えたトウリ君がフォローをくれる。マーチさんもとっさに言い過ぎたと思ったのか、焦った様子だ。


「はあ。マーチ、お前というやつは。熱くなりすぎだぞ。謝った方がいい」


「……」


 サイ君もいつになく真剣な声で、フルルは何も喋らない。


 マーチさんは僕を見て口をぱくぱくさせているけれど、結局は何も言わず、ふんっと鼻息荒く顔を逸らす。それを見てまたトウリ君が怒ったけれど、もう、いいんだ。


「……大丈夫、トウリ君。僕は気にしていないよ。マーチさんにはいつもお世話になっているから」


「そ、そうよ! セージはわたしに口答えなんてしちゃいけないの! ……そうしたら、いつまでも守ってあげるんだから……」


 こっちを見ないままマーチさんが言った。そう、やっぱり役立たずの僕なんかが意見しちゃいけなかった。


 これまでも、こういう場面は何度かあった。僕の能力が足りないばかりに、みんながもどかしい思いをしてぶつかり合って。それに、なんというか。僕が見る限り、このパーティのメンバーは結構恋愛的な意味で複雑な関係図が描けそうで、それもあっていさかいが絶えない。


 でも、とにかく僕が喧嘩の大きな原因の一つであるのは間違いがなかった。


 やっぱり僕は、このパーティにいちゃいけないんだ。いつまでも甘えているべきじゃあなかった。


 考え込んでいるといつのまにか街に帰ることが決まったらしく、みんなに呼ばれる。いまだに少し言い争いながら街へ向かうみんなの後ろで、僕は決意を固めていた。


 今日で、僕はパーティを抜ける。そして別の街で、自分の実力にあったパーティに入れてもらおう。


 一抹の寂しさを胸に、僕は街へ向かって足を動かす。みんな、いままで本当にありがとう。



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