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猫への回心
男は犬の徒であった。
熱心なる犬の徒であった。
外飼いするなら逃げ出したりしない犬であるべきだと思っていたし、
室内外をするとしてもよくなつく小型犬が良いと思っていた。
猫は人ではなく、家に懐くという。
犬の従順さには敵うべくもないと思っていた。
ところが男が旅をしてダマスコに近づいた時、突然、猫の光が男を照らした。
男の目から鰹のようなものが落ち
男は猫に目覚めた。
男は、逃げ出せる状態にもかかわらず家へ戻ってくるのは猫の愛情と知る。
男は、けっしてへつらわず隣人として人を認める猫の高潔さを知る。
男は、みずからの住処に人の居住を許す猫の慈悲深さを知る。
男は、人は猫に従順であらねばならないと知る。
このときから、男は猫の徒となった。
後の世で、このことは「猫への回心」として語られることとなった。