女神さまはお役所勤め*転生天啓は抹茶の香り?
今回とても短いです。あと少しで夏も終わりですね....宿題終らない(もはや夏の風物詩....)
にこにこ、と微笑む転生の女神は、微笑を湛える様は慈愛に満ちていてとても残念な発言をするようには見えない。
緩やかにウェーブの掛かった栗色がかった黄金色の髪は長く背中から足元までに流され、艶やかな光彩に彩られ、全身を包む肩からの一枚布で作られた足元まであるドレスのような純白のワンピースは、室内の明かりを仄かに反射させながら全身がきらりきらり、と輝きを放っている上品な装いが柔らかな女性らしい曲線を描く肉体を包み込んでいる。
蒼い瞳の中に宇宙の星々をちりばめたような不思議な瞳が微笑みながら新米女神の言葉を待っている。
このまま転生予定者の前に降臨したとしても女神としてのイメージ的な尊厳はかなり高そうだ。
改めて拝顔するに、白磁の様な白い肌、顔立ちの彫りの深さから女神は北欧神関係ではないかと思われた。
それもかなり古えの一柱。
深く頭を垂れると新米女神はそのまま片膝を折り腰を曲げ右手を胸に辞儀をする。
「大変申し遅れまして失礼を致しました。ご容赦いただけましたら幸いです。
私はアプサラスが一族、ウルヴァシーを祖に持ちますウルワシューと申します。この度配属の誉れを頂戴致しました事を....」
「やだぁ、堅苦しいのはナシよぉ~、ウルワシューちゃんねぇ~?よろしくねぇ~。私の名前は言ったかしら?ノルンのベルダンディよ~。一応運命の女神よ~。あと二人運命の女神がいるんだけどぉその二人は転生課じゃないのよぉ。」
うふふ、と笑う女神に促され、水瓶の部屋を抜け、さらに奥の部屋につくと、ウルワシューは絶句した。
絶句するしかない部屋が目の前に広がる....。
「うふふ~ちょぉっと散らかってるけどぉ、お茶のテーブルは散らかってないからぁ」
棚にはびっしりと紙ファイルが縦に押し込まれ、さらにその隙間にファイルが棚から飛び出しながら押し込まれ、さらにその隙間から....という具合に3Dか?という具合に飛び出し、隙間から洩れたのであろうファイルは床に桃色、黄色、水色と、ファイルの洪水を起こしている。
どっしりとしたマホガニー調の執務机らしきものが堆く積もった本やらファイルやら紙やらで小山を成し....机まわりには足の踏み場が辛うじて獣道のような細さで床がチラリと見えている....。
「明日からのウルワシューちゃんの机はぁ、あのあたりにあるんだけどね?ちょぉっと散らかってるからぁ見なかったことにしておいてぇ~?」
あのあたり、と指差す方向にウルワシューが目を向けるが、そのあたりに机らしき物体は見えず、ファイルがひたすら押し込まれた箱が無数に積み重ねられているようにしか見えなかった。
「いいからいいから~。気にしたら負けなのよぅ?転生課に課員配属なんてひさしぶりなのよ~。嬉しいときはお茶よ。さぁ、こっちよぉ」
促されながら絶句を飲み込み、ベルダンディについていくしかない。
視線は机がある、と言われた辺りから外せないままではある。
無言のまま、明日からの業務内容は整理整頓という名の大掃除からだと覚悟を決めるしかない。
ひらりふわり、とワンピースの裾を翻しながら歩くベルダンディの後ろで、ウルワシューは改めて転生課の室内をじっくりと眺めた。
最初に通された時は緊張のあまり、見ているようで全く見ていなかった。
室内、というには広い。
先の門とも言える重厚な両開きの扉や、エントランス。
石畳の水瓶の部屋、そして執務室というかファイルの部屋。
ファイルの圧倒的な量に失念しがちだが、資料と書かれた棚がいくつも起立し、迷路のような一角がある。まるで図書館のようだ。
「ベルダンディ樣、あの....転生課はかなり広いのですか?」
「そうよぉ~、元々は他のお部屋が用意されていたのよ~。でも私たちのウルヌの館をそのまま増構築したの。ヒト属は数が多いでしょ?あまりに多すぎて最初に転生課として用意されたお部屋じゃ足りなくてぇ。だいたいどの神も同じにしてるからお外の廊下はデザインがバラエティー豊かになっちゃったのよね。お茶のお部屋はウルヌの泉が見えるようになってるから息抜きには最高なのよぉ?お茶のお部屋からはさっきウルワシューちゃんが座ってたベンチも見えるわよ~。」
ベルダンディに見られていた事を知りドッと赤面する。
「うふふ、雪隠から迷子になっちゃったんだろうなぁって思ったんだけどぉ、天啓の間の仕度に手間取っちゃってるうちに戻ってきたから安心したわぁ。黄昏てるままだったら声をかけようと思ってたのよ?」
「....すみません 」
なんとも言い様のない居たたまれない気持ちのまま、小さく項垂れるウルワシューを見ながらベルダンディはうふふ、と楽しげに笑う。
迷路みたいでしょ?この建物、と、いたずらっぽく微笑むベルダンディに、ウルワシューはますます見透かされてる気持ちになる。
そんなウルワシューの手をとりながら、踊るようにベルダンディはお茶のお部屋にようこそ~、と 一際明るい設えの部屋に通す。
夏の海岸の真っ白な太陽の明かるさに目を開けられなかった経験はあるだろうか?
まさにその明るさが唐突に目の前に広がり、目を細めながら何があるかと見やる。
緑のさらさらとした草地に爽やかな香りの花々が咲き誇り、中央に巨大な切り株がその年輪を覗かせたままのテーブルらしきものが鎮座している。
「初代世界樹なのよー。今の世界樹は14代目だったかしらね?
アポロン神が焚き付けの薪にするっていうから頂戴って頼んだのよぉ。勿体ないじゃない~?こんなに可愛いのにぃ」
可愛いかは不明だが、世界樹が代替わりしてるという事実をさらり、と告げられた新米女神は驚くしかなかった。
「さぁさ、座ってー!ウルワシューちゃんが持ってきてくれたお菓子に合うと思って、お抹茶点てようって思ったのよ~。お抹茶とあんこのコラボレーション!素敵よね~。あまーい黒糖の生地にあんこの素朴な甘さ、それを押し流す苦味の中にほんのりと香る茶葉の甘い香りがまた和菓子の甘さを恋しくさせる無限のループよね!お抹茶楽しんだら天啓をしなきゃだし、ああ、もう、このほろ苦いお抹茶をさらに高める和菓子の甘さ!考えただけでも身悶えしちゃうわよ~!........ゆっくり堪能するためにも先に天啓しちゃう?そうしちゃう?そうしましょう!お抹茶のためにも、松風のためにも!さくっと!さぁ!ウルワシューちゃん!天啓しちゃうわよ~!」
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