女神さまはお役所勤め*佐川陽騎は無事転生となるか?*
場面展開激しくてすみません、精進します
今日の夕飯はなにかなぁ?って楽しみにしてるのにカップラが待ってた時の侘しさったらないですよね....。
あぶない!!と叫んだおれの背中、天井の白熱灯が見たこともないような閃光を放って、激しい破裂音が耳に届くと共に視界は暗転した。
背中が重くて熱い。
真っ暗なはずはないんだ。さっき最上が電気をつけたんだから。
おれは....普通に起きて、普通にトースト食って、普通にチャリに乗って、普通に学校に来て、突然....普通じゃないモテ期を体験して、普通じゃない爆発音と....視界の隅で捉えたのは、あれは天井の崩れてくるコンクリートの塊だったんだ。
塊から庇うように抱き抱えた最上と、センパイ....は....?!
ぼんやりとした思考から一気に体温が下がる。二人は?怪我とかしてないよな?!
両腕で抱き抱えた二人の安否を確認しようとしたときに、異変に気がついた。
真っ暗な中に....おれは倒れていた。
たった一人。
だれも....いない。
恐る恐る起き上がる。
見慣れたリノリウムの床ではなく、なにも存在しない....ただそこに在るということだけが辛うじて理解できる空間が広がっている。
倒れていた....んだよな....?
上下左右全方位....本当に【なにもない】。
まるでイメージでの宇宙遊泳のようだ、と思った瞬間まっ逆さまに落ちるような衝撃とスピードでおれはどこかに飛び落ちた。
予備動作のないジェットコースターかバンジージャンプみたいだ。
圧、とでも言うのだろうか空気の壁を身体中で押し退けながら掘削してるような気圧抵抗。
ごうっと耳の横で空気が鳴ったなら、まだ理解できる。
飛ばされながら胃から絞り出すような叫び声を出しているつもりなのだけれど....無音だ。
全くの無音。
もしかするとおれは....耳が聞こえてないんだろうか。
こう暗いのはもしかすると目が見えてないんだろうか。
あれ....?手は?
足は?
おれは....?
おれは....だれだ?
飛び出しながら、おれの【おれ】という意識は霧散していく。
小さく小さく小さくバラバラになりながら、大きく大きく大きく大きく拡がっていく。無限に。
すべてにおれが在って。
すべてにおれが無い。
おれという個が無いのなら....まだおれは【おれ】を考えているのはなぜだ....。
矛盾していく。無限に。
拡がりながら無限のおれは点を見つけた。
小さな小さな白い点。
真っ暗な中の真っ白な小さな小さな針の先で突いたようなたったひとつの点を。
【最上がつけた明かりだ】と思った。
あれに向かえば全てが理解できるんだ。そう、感じた。
大きく大きく拡がった無限なおれは、それを目指した。
荒波を泳ぐように、無限のおれはたったひとつの全ての原点を目指した。
たった、ひとつの真っ白な明かりが、真っ暗な世界を温かく讃えるように染め上げた。
閃光の白は泳ぎついたおれを包み込むようにして閉じた。
抱き止めるような安心感と、全てがここから始まったのだという決意がおれの中で膨らんでいく。
白の中をおれが膨らんでいっぱいになる。無数のおれが消えてたったひとつのおれが無数のおれからのバトンを渡されるのを感じた。
あんなに重く熱かった背中はもう無い。
ゆっくりとおれは背中を丸めて膝を抱えた。
白の中でゆっくり....ゆっくり。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あらあら、水鏡が曇りだしたわね。
これじゃぁ見えなくなっちゃうじゃないのねぇ?
え?
佐川春騎?
彼はどうなったかって?
やだぁあなた一緒に見てたじゃないのよ。
転生転移のお約束ね。
一つの世界での存在を消してから、もう一つの他の世界へと移動するのが原則よね。
ごく稀に時間軸の違う世界だったりすると助っ人的な転移をすることがあるけども、それだとわたしの担当じゃないのよねぇ。
今回の申請内容は人の世の記憶を持ってさらに使命を魂に刻みつけてのちの転生なのよねぇ。
ほんと、一番厄介なのよこれ。完全に綺麗にしたらだめだからぁ、匙加減が難しいのよぉ。
まっさらな魂なんてもうなかなか担当神がお造りにならないじゃない?
新魂はコスパが悪いって地獄課と折衝があったって聞いてるけどぉ....まぉ、そうだわねぇ、としか言えないじゃない。
え?知らない?やぁだぁー....転生課で聞いたなんて言わないでよぉ?
あ、そうそう、春騎ね、春騎。
彼は二人の女性と一緒に転生するの。
この二人の女性とは運命の転生なの。
ほらよくいうじゃない?赤い糸がどうとかって。あれよ、あれ。
春騎との関連性をつけるためらしいのよぉ。詳しくは聞いてないけど、どっかの資料に書いてあったような....ああ、あったわ。
一人は猫獣人、もう一人は犬獣人の世界のお姫様らしいわぁ。
何万年と続く両種族の戦いの真の終結の救世主にって要請が来ててね、それで春騎の魂の適正審査なのよぉ。
どちらも極端に行きがちな性質の世界らしくてね、普通を尊ぶ魂の希望要請があったのよぉ。
春騎とお姫様たちは同じ日の同じ時間に生まれることで魂の縁結びをするみたいね。
それはわたしの担当じゃないから知らないけどね?
え?春騎の適正はあるのかって?
あるある。大有り。
判子ボーンってしちゃうわよぉ~。
え?なんで?って?
だって面倒....え、いやいや。そうじゃなくて。
め、面倒だから判子捺した訳じゃないわよー!
だ、大丈夫!ちゃんと見てたわよ。
あなたの持ってきたお土産の亀十の松風が美味しそうだなぁとかお茶にしたいなぁとか余所事考えてなんてないわよ!ほんとよ!
女神からの天啓能力だってちゃぁんと考えてるんだから!
彼は映画に造詣が深いじゃない?だからシネマの能力を与えようと思うのよ~。彼が見たことがある映画に限定されちゃうけどね。
映画の台詞で発動条件にしようと思うのよ~。ね、良くない?
例えばねI'll be backでシュワちゃん状態!とかどう?え、意味がわかんない?やだぁあなたあの名作品を見てないとか言わないでよぉ?
だって魂のオプションは【普通を尊ぶ】【平等(博愛含む)】が決定してるし、基本容姿が筋骨隆々って訳にもいかないわねぇ。
だって魂のオプションが【普通】でしょ?
どんなに鍛えてもこの子は普通になるのよ。筋肉にも平等が与えられるのねぇ。
そのかわり、必要な時にシネマの能力が発動してる時は別ね。
もうそれにしときましょうよぉ
お茶にしたいわぁ。もうそろそろお三時だもの。お茶にしましょうよ!
え?春騎に能力を知らせないのか?って?
あ、そうそれ!それ!忘れてたわぁ
天啓を与えるのは女神の仕事だものねぇ。
あ、そうよ。あなた、やってみる?
何事も経験よぉ。
その間にお抹茶煎れておくわよぉ
次回は女の子視点でスタートです