女神さまはお役所勤め*佐川陽騎の場合*
2話目....は極端に短いです
え、まさか途中保存ができなかったから書ききれなかったとかじゃないんだからねッ
うう、書きためます....
あと感想ありがとうございます!あまりの嬉しさに小躍りして足の小指をタンスにぶつけたダンスの舞い....(もはや何を言ってるのかわからない件
突然の接感触に驚いてくるりっと変なポーズでターンしたおれ....の目の前に、映画研究会の副部長、1年センパイである牧野奏さんが苦笑いしながら、高く束ねられたツインテールを揺らしながら立っていた。
高飛車な物言いが一部では【ツンデレ姫】なんてアダ名をつけられている隠れファンを持つ牧野センパイだ。
身長の低さをかなり気にしているらしく、高く結い上げた髪の毛で身長を足していると以前他のセンパイ方から聞かされた覚えがある。ちなみに横にいるときにセンパイに勢いよく振り返られると、鞭のように束ねた髪がブベシッとぶち当たるのは一部ファンからするとご褒美らしい。
「おはよ。急ぎで悪いんだけど来週の上映会用のムービー選定手伝いしてもらえるかなぁ?先生には許可貰ったからHRと1時限サボり特約付き!時間ないからそのままで着いてきてもらえる?」
有無を言わせぬスピード感でまくし立てるのは、くるりっとターンしたまま、妙なポーズでフリーズしたおれを引き摺る様に引っ張るツインテールセンパイ。
「朝から待ってたのよ?いつもより遅くない?まさか来ないんじゃないかって心配だったんだからね!?なんのためにお膳立てしたと思って....あ、いやなんでもない。」
ポンポンと返事すら待たぬ牧野奏の矢継ぎ早な言葉に、あ、いや、その、え?等などの単語にすらなってない合いの手を乗せながら今上がってきたばかりの階段をおれは降ろされる。
極々普通校である我が校は極々普通の校舎の造りで、H型の校舎の左側はクラス棟というか、普通に使う教室が並び、右側を特別教室というか、まぁ普段使わない視聴覚教室だの職員室だの、理科室だの図書室等々....が並んでいる。
どこぞの私立校のようなエレベーターだとか全天候型のプールなんて洒落た物は当然ない。
普通が特色、といえる....かな?
一度覚えてしまえば、お陰さまで迷わずに済む位に普通なのだ。
そんな普通の廊下を、普段通りに普通に登校してくる人の波を逆行するツインテールセンパイはおれを牽き連れたまま、特別棟に向かう。
視聴覚室が、映画研究部の活動拠点であり、部室代わりだ。
多分そこに向かってるんだろうと中をつける。
早く早く!時間がないのよー、とおれを急かすセンパイの小さめな後頭部は、きっちりと分けられた地肌の白いラインをみせているツインテールがパタパタと何かの小動物の耳みたいに揺れている。
ロップなんとかイヤーとかいうウサギみたいだ。
丁度おれから見るとセンパイのつむじのあたりを見下ろす様になっている。
なんか、可愛い....
ていっ!と思わず地肌の白いラインにチョップしたくなったが、そこは我慢の子だ。
なぜならおれはそういうキャラじゃない。
普通が一番。
普通オブザイヤー、それが佐川陽騎。普通がわかる男。ダバダーバダバダー....と脳内BGMを流したところでツインテールの動きが止まった。
「佐川さぁ、邦画詳しいじゃん?ほら、上映会予定してた作品がこの前ワイドショー沙汰になったから駄目だなんて校長の横槍入ったのよね。んで急遽選ばなきゃならなくなったんだけど、うちら2年は邦画を英訳しなきゃならないのね。
一週間しかないっつーのに....あのくそハゲ《校長》が納得かつ英訳しやすいセリフ回しの作品を選んでほしいのよね。チラ見しながら訳せるかはわたしがチェックするから、一緒に準備室で見てほしいの。適当に50作品くらい引っ張り出しておいたから!」
ガチャリ、と開け放たれたドアの向こうには無造作に積まれた段ボールが3つ中央の床に存在感も大きく放置されていた。
有無を言わさぬセンパイの両手がおれの背中をバスン!と叩くように押した。
「さあ、きりきり見るよ!8倍速で一気に画面3つ映すからね~!」
登校中のざわめきが遠く耳に聞こえる中、おれは「えええー?!」としか発言を出来ぬまま、視聴覚準備室の中に押し込まれてしまう。
準備室の中はだいたい2畳ほどの小さな空間を残し無機質な灰色のスチール棚が壁を埋めている。窓際にならんだ二つの灰色の事務机の上に申し訳程度の事務用品と、その上にいつもはない再生用のポータブルDVDプレーヤーが3つ。
はぁ、と溜め息をついておれは鞄を床に置き、ポケットの中の幸せ《ラブレター》をそっと鞄の中に移す。
本当ならば今頃最上さんに朝の挨拶をしてから、手紙のお礼なんかを伝えて、帰る約束なんかしちゃったりしてたはずなのに何でこうなった???
「佐....と、ふた....きり....うふふふ...うふ....今日こそ....」
もごもごとセンパイは何か呟き、微かに背中を振るわせながら笑っているような気がする。
片手にディスク、片手に辞書の形態はなんとなくマッドサイエンティスト的な禍々しさを醸し出してるような気がしないでもない....。
「セ、センパイまずはどんな作品があるのか見せて貰っていいっすか?」
おずおずと段ボールに手を伸ばすおれ。
基本小市民なので目上の人には逆らわない主義だ。
駄目だと言われたら直立不動の姿勢で待機万全のつもりでいる。
「いいわ。顧問の私物とか歴代の部品も混じってるらしいから、適当に出して頂戴。まだわたしもどんなタイトルが入ってるのかわかんないのよね。とりあえず選んで貰って....いっ、一緒に見ましょう」
ギシギシと背凭れが不穏な音を立てるクッション性の薄い回転椅子にセンパイは腰掛け、隣の椅子をポンポン、と叩いてみせる。
あ、はい、座れってことっすね....
ささっと段ボールの中を見て、適当に作品をタイトルで選んで引き出す。
「ちょっと、なにこれ!なんでこのパッケージ、ぱ、ぱんつ被ってるのよ!却下よ。こっちは....【延々とゼロ】?....633と零点な物語?ずっとテストが零点な話....?....却下。【極端物語】?....あら、これは動物感動作品なのね。....【僕の名は】....アニメかぁ....あら、でも....感動作品なのね。うん、これもいいかも....【釣りばっかり日記】?....どんなときも釣りしてる話?....却下。【軽トラ野郎】....?軽トラからデコトラに成り上がる物語?意味わかんないわ。却下。....」
パッケージのタイトルをサッと見ながらセンパイは分けていく。
その隣に座りながらおれは却下されたケースは空き箱に仕分けしておいた。却下されたのはだいたいがコメディなのを見るとセンパイのお好みは感動とラブストーリーらしい。
コメディにも良さはあるのになぁ残念だ。
しかしラブストーリーがお好みなら、一気に選ぶ時間が短縮されるかもしれない。
おれは箱の中にあるパッケージタイトルをより分け、記憶にある限りのラブストーリーだけ選んでいけばいいんだから。
がさごそと箱を漁ってみると、奥のほうにまさかのイチオシ作品を見つけた。
「センパイ、全然有名じゃない作品なんですけど、これはセンパイの好みかもしれませんよ。【月が綺麗ですね】って、タイトルなんですけど....昔の告白の言い回しらしいです。内容は書生の主人公が女学生のヒロインに告白するんですね、んで御家騒動とか妨害が絡んでくるんですが....和製ロミオとジュリエットみたいな話で、うちの母さんと姉貴のお気に入りなんです。」
手渡しながら簡単に内容を説明していく。
うちの母親と姉貴のお気に入りというか、この主人公の俳優の追っかけらしきものを二人してしていて、舞台だの握手会だのと出掛けているという情報は隠しておく。母親と姉貴がまだおれが小さな頃この俳優がデビューしたというお子さま向けヒーローアクション時代からの熱烈な推しなのは佐川家超極秘事項だ。
「へぇ....10年前位の作品なのね。」
じゃあ手始めにこれも見ましょう....とポータブルプレーヤーにセットする。
「佐川、せっ、せっかくだから暗幕カーテンをしてちょうだい。まぶしいと見辛いし....ほら....早く電気を消してよね?」
「ぅぐ....ひっく....なんて悲しいの!?....二人の純愛を....こんな形で表さなきゃならないなんて....なんでこの作品が有名じゃないのよぉ....メチャメチャいい作品じゃない!!」
結局、数作品を一気に見ながら数倍速で飛ばすはずだったのだが、【月が綺麗ですね】のくどいほど耽美な世界にセンパイはのめり込んでしまったようで....「わたしがこの作品を世界一有名にしてみせるわ!」と最後には叫ばせる結果となってしまった。
うちの母ちゃんも姉貴も家で見ながら毎回そんなことを叫んでるので耳タコだったりするがそれは内緒だ。
「じゃあ、センパイ上映会はこれで決まり、ですかね?」
「そうね、ありがとう....佐川に選んでもらってよかったわ。」
ギシギシ、と椅子の背凭れが鳴った。センパイが椅子をおれに向き直す。
「わたしだったらきっとありきたりな選択しかできなかった。ありがとう。いつもね、作品感想とか....佐川のは視点が普遍的でいいな、と思ってたの。佐川の感想って、作品に対して平等っていうか....バランスがいいのよね。....わたし....そういう感性す、すごく好き。」
センパイの手がおれの太もものあたりにそっと置かれた。
え??
え?!
どうしたセンパイ??
「セ、センパイ....で、電気をつけましょうか、暗いとほら、あれがあれだし!!ね?カーテンを開けましょう!!カーテン!」
「あのね........好き....よ?」
そっとセンパイがおれに近付く。
えええー?!センパイ目とか軽く閉じたらダメっす!まるでキ、キ、キッスをしてもよいのよ、って無言で言ってるような空気じゃないですか!!
しかも今センパイなんていいました?!!
好きとか好きとか好きとか聞こえたような気がしたんですけど、え?おれ、なにこれなんていうモテ期?
おれに触れたセンパイの手のひらの熱が全身に広がって、心拍数がおかしなことになってきた。
センパイの小さなふわふわしてそうな唇だけが視界を占めて迫ってくるような錯覚を起こす。
おれ....人生初キッス体験してもいいですか?
ごくり、と知らず知らず喉が鳴った。聞こえてないといいな、と思いつつセンパイのすこし赤く染まった頬に触れ
「ここに佐川くんがいるって聞いたんだけど、居ますかー?」
ガチャリとドアが開いて暗がりに白い光が射し込む。ドアの開く音が心臓を射抜くかと思った。触れようとしたおれの悪いお手手は駿速で引っ込んだ。引っ込みながら、くるりっとおれはドアに回転椅子ごと振り返った。
「はいぃ!!ぃ、居ます!!!居ります!」
声が変な風に裏返ったのは、きっと早鐘のようになってる心拍数のせいだ。暗がりに慣れた目に、まるで後光のように光を纏いながら、最上沙綾がたっているのが見えた。
「先生が部活の発表会準備でここに居るって教えてくれたの....よかった、会えた。」
「なぁに?あなた。部外者お断りよ!出ていきなさい。」
センパイの不機嫌な声を素通りして、最上が壁際にあるスイッチをパチン、と着ける。白熱灯の白々しい光がバチバチと火花をあげた。
ぐっと睨むようにセンパイが立ち上がる。
ドアがその重さでギィッと軋んで自重でゆっくりと閉まった。
バタン、と閉じた瞬間、バチバチと火花を鳴らす白熱灯の異変に最上とセンパイを両腕で抱き抱えるように飛び付くと無意識におれは叫んだんだ。
「あぶない!!伏せろ!」