部活での……①
「あの……中沢先輩……」
「何かな、和地くん」
僕の視線に気まずさを覚えたのか、中沢先輩の顔が強張る。
「確か部長って説明会の時、『声優部の目的は将来を見据えた基礎訓練と技術の向上にあり、決して仲良しクラブではない』とか言ってましたよね」
「い、言ってたかな……」
心なしか先輩の笑顔が引きつって見える。
「言ってましたよ。で、気のせいかもしれませんが、入部してから今まで一度も部活動らしいことしてない気がするんですけど……」
「奇遇だね。私もそう思うよ」
あはは、と先輩は力なく笑う。
「どういうことですか? 説明お願いできますか」
先輩の笑顔に、一瞬眩惑されて誤魔化されそうになったけど、踏みとどまり真顔で質問する。
「説明も何も……見ての通りだよ」
見ての通り……僕は放送室の状況に目をやった。
部長は眠そうな表情でパソコンとにらめっこしていたし、恒武先輩はアニメ関係の雑誌を読みふけっている。
田町先輩は佐久間さんと尾野さんと何やら楽しげに談笑していた。
和気藹々と言った風景に僕はため息をつく。
まあ、僕の考えていた部活像とは違うけど、こういう部も確かにありかもしれない。
でも、これでは部長が否定した仲良しクラブそのものではないのか?
「和地くん、この部のモットーはね……」
僕の不満げな表情に気付いたのか、中沢先輩が何か言いかける。
「『自主独立』と『自己責任』だ。だから、みんなやりたいことを自分の責任において行っているのさ」
先ほどまで眠そうにしていた部長が、僕たちの会話に割って入る。
「1年生は知らんが、私たちはそれぞれ独自の目標を持って活動している。この放送室は、言わば休息の場なのだ」
「だから遊んでいると?」
「否、休息中なのだ」
暇をつぶしている現状を認める気はないようだ。
何か言い返そうと考えていると、中沢先輩がフォローに入る。
「部長の言う独自の目標は言い過ぎだけど、みんないろんな活動しているのは本当なの。詳しくは言えないけど」
「はあ」
「ほら、うちの学校全員部活制だから、どこかの部に必ず所属しなければならないでしょ。校外で活動するとなると調整が大変になるの」
その点、この部なら調整し放題という訳か。
確かに、全員が揃うことはめったにない。必ず、顔を出すのは僕以外では中沢先輩だけと言っていい。
ただ、先輩は声優部の活動というより兼務している放送委員としての仕事をしていることの方が多い。
僕に至っては、半分くらい不純な動機だ。
でも、先輩方が何をしているかは知らないが、それならこうして放送室に集まる必要もないんじゃないだろうか。
僕が考え込むと部長は笑って続ける。
「それにな和地、私たちはこれでもこの部を気に入っているんだ。楽だからじゃないぞ。この場の雰囲気が心地いいんだ。それに人間には誰しも帰属意識というものがある。どこかに所属しているというだけで安心感が得られるのさ」
それは、何となくわかる。
人間関係が煩わしいのはごめんだが、全くのぼっちはやはり寂しい。
「部長、言いたいことはよくわかりました。でも、それじゃ僕はこの部でいったい何をすべきなんでしょう?」
「そんなことは決まっている」
迷える子羊に部長は鼻で笑って断言した。
「自分で考えろ」