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新入部員との……

「1年4組『佐久間 絢乃』(さくま あやの)です。よろしくお願いします」


 ハキハキと自己紹介するのは僕と同じ新入部員だ。セミロングの髪型にスレンダーな体型なのに制服の一部が圧倒的な自己主張をしている。

 別に巨乳好きって訳ではないけど、男の子としては自然に目が向く。


 とたんにキッと睨まれる。


 ヤバッ、嫌われた?


「私、昨日の中沢副部長のお話、感激しました。ですので、この部に入ることにしたんです……あの真菜香お姉……真菜香先輩って呼んでもいいですか?」


「うん? いいよ」


 中沢先輩がにこにこしながら頷く。


 今、明らかに『お姉さま』って言おうとしたよね。それに昨日の説明に感激する要素なんてあっただろうか。


「それで先輩、さっそく質問なんですが、何でここに男子がいるんですか?」


 そう言って、敵意の目を僕に向ける。

 彼女の中沢先輩に注ぐハートのこもった視線から、おおよそ予測はできたけど、佐久間さんはそっち系の人のようだ。


「彼も新入部員の和地くんよ」


「和地です。よろ……」


「え~っ! 男子禁制じゃなかったんですかぁ?」


 僕の挨拶を無視して、佐久間さんは不満の声を上げる。


「別段、そういう決まりはなかったはずだぞ」


 中沢先輩の後ろで、成り行きを面白そうに眺めていた部長が言葉を挟む。


「ええ、部長の言うとおりです。単に今まで部長が男子の入部を却下していただけですから……」


「じゃ、何で今年から」


 佐久間さんが僕の方を拒絶の目で睨む。


 まあ、彼女の言い分も尤もだ。確かに僕も気になっていた。


「知りたいか?……」


 部長はにやりと笑みを浮かべると断言した。


「その方が面白いからに決まってるだろう」


 駄目だ、この人。

 世の中を面白いか面白くないかで線引きする駄目な人種だ。


 僕は部長の言葉にげんなりしたけど、佐久間さんはむっとしている。


「納得できません。私の真菜香先輩の周りに悪い虫が飛び回っていると思うと心配でなりません!」


 ごめんよ、悪い虫で……うん、自覚はあるから。


「さっきから聞いていると、やけに真菜ちゃんに馴れ馴れしくないか、一年生!」


 僕が自分の立場を再認識していると、不意に恒武先輩が話に割り込んでくる。


 見ると目が三角になっていた。


「何ですか? 真菜香先輩とその害虫について話しているだけですから、先輩は黙っていてくれませんか」


「な、何言ってんの!」


 今、火花が散ったように見えたのは僕の錯覚だろうか?


「あんた、ちょっと先輩に対する礼儀ってものを知らないよね」


「すみません、先輩とは思わなかったものですから」


 言ったよ、この娘……言っちまったよ。


 恒武先輩、見た目は中学生だし、つるぺたである。

 それに対し、佐久間さんは恒武先輩より背が高く、一部分が圧倒的な戦力を誇示している。


「ぐぬぬ……」


 見下ろされて、恒武先輩が憤怒の表情を浮かべる。


 まさに一触即発だ。

 頼みの綱の中沢先輩もおろおろしている。


「二人ともいい加減にした方がいいよ。真菜が困ってるでしょ」


 間に割って入ったのは田町先輩だ。


「たまちゃん……」


 中沢先輩が安堵したように見つめる。


「今日から同じ部活なんだから、仲良くしようよ。ね!」


 明るい声で話す田町先輩が二人の顔を覗き込むと両者は不承不承、頷いた。

 客観的に見て、中沢先輩に一番近しい存在は田町先輩のように感じる。


「それより、もう一人の新入部員が今ので固まってるよ。君、名前は?」


 そう、新入部員は僕を含め3人。


 残りの一人にその場にいる全員が注目した。




「……あの……1年1組『尾野 泉咲』(おの いさき)です…………よろしくお願いします」


 いきなり注目を集めて緊張したのか、尾野さんは消え入りそうな声で自己紹介する。


 小学生? 一見すると高校生どころか中学生にも見えない。


 加えて、この声。


「合法ロリだ!」


 恒武先輩の嬉々とした声が聞こえる。


 いやいや先輩、18歳未満だから立派に違法ですって。


「それにしても……」


 よく制服のサイズあったよなぁ。


 ああ、そうか。うちの学校、中等部もあるし、中高同じ制服だからこの体型でも大丈夫なんだ。

 僕がしげしげと尾野さんを見ていると、佐久間さんの冷たい視線を感じる。


「やっぱり、変態だ」


「ち、違います」


 無駄と知りつつ、一応否定しておく。


 確かに尾野さんは可愛いが、それは小動物のそれであって、断じて僕の恋愛対象ではない。

 無意識に中沢先輩に目を向けると、先輩は尾野さんに話しかけるところだった。


「驚かせて、ごめんね。みんな個性的だけど、良い人ばかりだから、安心して」


「……はい」


 小声で答える尾野さんに、『声優部でやっていけるのだろうか?』という疑問が頭をよぎる。


「でも、部長のあの説明でよく入部しようと思ったよね」


 田町先輩が感心したように二人を見つめた。


 ホントだ。

 運動部並みの練習と入部オーデション、僕だったら躊躇する。


 いや、中沢先輩のためなら頑張れる……と思う。


「私、スイミングに通ってたんで体力には自信あるんです。それに児童劇団にずっと所属してるから、オーデションとか慣れてるんです」


 そういう佐久間さんの発声は聞き取りやすく訓練されたものに聞こえた。

 言うだけのことはあるようだ。


「……中沢先輩に憧れて……頑張ろうと思いました……」


 一方、相変わらず小さな声でぼそぼそと話す尾野さんだったけど、中沢先輩を見つめる目には強い想いが感じられた。


 ひょっとして、彼女もそっち系の人?


 いやいや、その真剣な眼差しに邪な成分はない。

 純粋に憧れているように見える。


「では、部長。オーデションはいつ始めるのですか?」


 佐久間さんが部長に確認の意を示す。


「うん、今の自己紹介がオーデション代わりだ」


 嘘付け、最初からオーデションなんてやる気ないくせに。


「え、台本読みとか特技披露とかないんですか?」


「やりたかったらやってもいい。強制はしないぞ」


「いえ、いいです……それで合否は?」


 恐る恐る佐久間さんが質問する。


 尾野さんは自己紹介がオーデションと聞いて、あたふたしていたけど、佐久間さんの質問に固唾を呑む。


「もちろん、二人とも合格だ。これから、よろしく頼む」


 こうして、今年度の声優部の部員は3年1名・2年3名・1年3名に確定した。

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