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部活説明会にて……

 あっという間に一週間が過ぎ、今日は生徒会主催の部活動説明会だ。


 あれから毎日、放送室に通ってわかったことは、この声優部が副部長である中沢先輩を中心に成り立っているという事実だ。

 部長が部の運営を中沢先輩に丸投げしているせいもあるけど、部長が田町、恒武両先輩と親しく話している場面をめったに見ることはなかった。


 同様に同学年であるが、田町先輩と恒武先輩もそれほど親しい間柄ではないようだ。


「真菜香、例の件どう思う?」


「はい、部長。私は良いと思うけど……田町どう思う?」


「私はあまり気が進みません」


 こんな風に会話の中継点に中沢先輩が入ることが多い。


 したがって、中沢先輩(中継点)がいない場合、放送室内はいたって静かだ。各自、思い思いの活動をしていて、会話もほとんど無いくらいだからだ。

 かと言って別段、仲が悪いわけではないらしい。互いを認めて、個人の行動を尊重しているようにも見える。

 そして、僕はと言うと先輩達の邪魔にならないように、恒武先輩から借りた声優雑誌を読んで勉強中の身だ。


 でも、少し疑問を感じている。はたして、これが部活動と言えるのかと……。

 いや、きっと新入部員が入るまでの充電期間なのだ。


 部活説明会が終わったら、本格的な活動を始めるに違いない。

 そう信じてる。


「おい、和地! 始まるぞ」


 ぼんやりと物思いに耽っていると、上野に声をかけられ我に返る。


 ステージに目を向けると生徒会長が挨拶しているのが見えた。

 

 壇上に上がるのは八幡部長と中沢先輩だ。

 マイクの前に中沢先輩が立ち、口を開く。


「一年生の皆さん、こんにちは」


 透き通るような声が体育館の隅々まで響き渡る。

 たった一言で、ざわめいていた生徒達がおしゃべりを止め、先輩に注目した。


 僕の周囲で「綺麗な声だよね」、「美人だなぁ」という囁きがあちこちで聞こえた。


「私たち『声優部』の活動について説明します。隣にいるのが部長の八幡で、私は副部長の中沢と申します。よろしくお願いします」


 相変わらず、惚れ惚れするような美声だ。ホント、一日中聴いていたくなる。


 僕が聞き惚れている間に説明が続く。


「――――という訳で、放送委員会の補助と文化祭での発表が当面の活動となります。最後に八幡部長から一言があります」


 そう言うと、中沢先輩は部長と位置を入れ替わった。


「私が部長の八幡だ。一年生の諸君らに言っておきたいことがある。我が部は各人の将来を見据えて、互いに切磋琢磨する部活である。決して仲良しクラブではない。そのことを肝に銘じて欲しい」


 言いながら、僕達一年に鋭い視線を飛ばす。


 ぶ、部長、怖いです。


「声優にとって、最も必要なものを決して美しい声などではない。どんな声にもそれなりの需要がある。しかし、それを支えるのには体力と技術が必要なのだ。したがって、新入部員には主に基礎体力をつけてもらう。運動部並みのハードな練習になるが頑張って欲しい」


 な、何ですと。そんなの初めて聞きました。


 う、嘘ですよね。


「さらに、声優にはオーデションが付き物だ。役をもらうためには必ずオーデションがあると言っていい。そこで、我が部に入るのにもオーデションを行うこととする。実力が伴わなければ、当然不合格もある。ぜひ、チャレンジして欲しい。以上で説明は終わりだ」


 皆、部長の発言に声も無く体育館は静まり返った。

 しばらくすると、あちこちで「絶対無理」、「諦めた」という呟きが聞こえる。


 ぶ、部長! 大丈夫ですか? これじゃ、部員入りませんよ。


 僕の心配をよそに壇上の二人は一礼すると降壇した。



◇◆◇◆◇



「来ませんねぇ、先輩」


「来ないね~」


 放送室で入部受付を待つ中沢先輩に僕が不安げに聞くと、先輩は諦めたようにため息をついた。

 部活動説明会の翌日から入部受付が始まったのだが、未だ入部希望者が現れていない。


 まあ、部長のあの発言を聞いて躊躇するのは当たり前だと思う。

 かく言う僕自身も一瞬、迷わないでもなかったけど、部長の言うことも最もだと思い、入部を決意した。決して、中沢先輩と一緒にいたいという不純な動機ではない……たぶん。


 なので、僕は正式に入部届を提出し、晴れて声優部の一員となった。


「部長! やっぱり、あの発言はまずかったんじゃないですか?」


 僕たちの後ろでアクセント辞典を読んでいる部長に声をかける。


「何の問題も無い、想定内の範囲だ」


 部長は横目で僕を見ると、興味がないような素振りで再び頁に視線を落とした。


「でも、先輩達がそんなに体力づくりしてるとは思いませんでしたよ。失礼ですけど、みんな運動ができる印象なかったし……」


 素直に感心すると、中沢先輩が困った顔を見せる。


「和地くん、あのね……」


「あんなもん、大嘘だ」


 中沢先輩を遮って部長が答える。


「嘘……?」


「ああ、でまかせだ。基礎体力づくりやオーデションなんぞやってはいない。真っ赤な大嘘だ」


 な、何ですと。


 あれが嘘って……いったい何のために。まさか、わざと入部希望者が減るように仕向けたとか?


「ど、どうして、そんなことを」


 僕の疑問に部長は事も無げに答える。


「決まっている。入部希望者などいらないからだ」


 は? 何言っちゃてるの、この人。


「和地、お前が入って、部の存続は確定した。だから、これ以上の部員はいらんのだ」


 言ってる意味がわからない。


 僕が戸惑っていると中沢先輩が補足してくれる。


「あのね、和地くん、将来声優になりたい人って、今ではアイドル並みにいるのよ。だから、ああまで言わないと入部者が殺到してしまうの」


「真菜香の言うとおりだ。私は少数精鋭でいきたいと思ってる。それに、この狭い放送室に大人数の部員を受け入れられると思うか?」


 確かに、活動場所としては手狭だ。


「なので、ハードルを上げさせてもらった。あの条件でも入りたいと思うヤツなら根性があるだろう。そういう人材であれば歓迎してやっても良い」


 どんだけ、上から目線なんだ、この人。

 僕は脱力感を感じながらも、中沢先輩の周りに、これ以上新しい人が増えないことに少し安堵した。


 けど、僕の見通しが甘かったことに、すぐに思い知ることになる。

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