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僕と先輩との……②




それから僕は、声も無く一頻り涙を流すと、すっかり落ち着きを取り戻した。


そして、盛大に自己嫌悪に陥いって、机に突っ伏しているのが現状だ。本当に感情なんて無ければ良かったと心底思う。そうすれば、こんな醜態を先輩の前で晒すことは無かったのに。


「先輩、すみません。情けないところを見せちゃって……ホント恥ずかしいです」


「ううん、大丈夫だって。私、全然気にしてないよ。話してくれて、逆に嬉しかったし……」


 先輩はそう、優しく言ってくれた。


 でも、僕としては、穴があったら入りたいというか、どこか遠くへ逃げ出したい気分だった。


 部長と先輩の本音のやりとりに感化されたのがきっかけだろうか?

  熱に浮かされるように自分の過去話をしてしまった。


 このタイミングで先輩に自分の生い立ちを話すつもりなんて全く無かったし、決して不幸自慢して、先輩の同情を買いたかった訳じゃない。


 自分を卑下する先輩に、もっと駄目な僕という人間を見せて先輩を安心させてあげたかっただけだ。


 ただ、それだけのつもりだった。


 …………本当にそれだけだろうか?


 たぶん、そうじゃない。


 僕は先輩に僕のこと、もっと知って欲しかったんだ。いつもの上辺の取り繕った仮面ではなく素の自分を。

 心の奥底に隠していた鬱屈を先輩に全部吐き出して楽になりたかったのと、癒えていなかった傷口を晒して慰めてもらいたかったのだ。


 けど、それはただの甘えだ。


 僕は先輩に甘えようとしたに過ぎない。


 最低な奴だ。


「和地くん、落ち着いた? そろそろ帰らないと日直の先生が巡視に来ちゃうよ」


 負の感情が頭の中をぐるぐる回り、疑心暗鬼にかられている僕に先輩が、注意を促すように声をかけてくれる。


 心配そうに、僕へ向ける先輩の優しい笑顔が心に染みる。


 その瞬間、僕は自覚した。


 やっぱり、僕は真菜香先輩が好きなんだ。


 僕がどんなに最低な奴で、先輩にふさわしくなくても。


 それは変えられない事実なんだ。


「和地くん?」


「あ、すみません。すぐに帰り支度しますから」


 急いで支度を終え、待たせた先輩に顔を向けると、先輩は少し嬉しそうに僕を見つめていた。


「先輩?」


「うん……あ、ごめん」


「どうかしました?」


「ううん、あのね……何かね、和地くんのこと、前より少しだけ理解できたかなって思って……」


 先輩の台詞の意図が掴めず、訝しげな表情になったのだろう。


「ごめんね、辛いこと思い出させちゃったのに、こんなこと言ったりして……でも、和地くんは、すごい人だと思うよ」


「そんなこと……ないです」


「ううん、だって和地くん、いつも笑って人に接してるし、優しいもの。やっぱり、すごいよ」


 返答に窮する僕に先輩はくすりと笑って、あの大好きな声で言った。


「私、和地くんのそういうとこ、好きだよ」


―――― 今なんて言った?


 聞き返す暇も与えず、先輩は僕に背を向けて立ち上がると。


「さあ、もう帰るよ。日直が来る前に職員室に鍵を返しに行かなきゃ」


 そそくさと放送室の戸締りを始めた。


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