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祭りの後での……②

「……べ、別に何もありませんよ!」


 一瞬、驚きのあまり息が止まるかと思った。


「そうかぁ? 端から見てると何か変だぞ、お前たち」


「そそ、そんなことないですよ。どうしてそんな風に思ったんですか?」


 前とそんなに変った素振りを見せてないと思うけど。


「そうだな。ギクシャクしてると言うか、互いに気を遣ってるというか……まるで……」


「まるで?」


「告白したけど、ゴメンナサイされて気まずくなった先輩と後輩みたいな……」


「ち、違います! 告ってなんていませんし、振られてもいません」


 いや、あの怒り方は振られたのも同然か。


 気落ちしていると、部長がニヤニヤしながら僕を見ているのに気付く。


「冗談だ、和地。でも、何か困ったことがあるなら相談にのるぞ」


「そんな怪しい笑顔をしてる人には大事な相談なんてできません」


「まぁ、そう言うな。口に出せばスッキリすることもある」


 僕は少し躊躇った後、思い切って先日の中沢先輩とのことを部長に話すことにした。

 文化祭の一件から、部長のことを多少なりとも見直したのも事実だ。


「実は中沢先輩との間でこんなことがありまして……」



◇◆◇◆◇



「なるほど、そんなことがあったのか」


 僕の話を聞き終えて部長は真顔で頷いた。


「何がいけなかったんでしょうか? もう一度仲良くしてもらえるんでしょうか」


「和地……」


 僕の切羽詰った言い方に少し微笑んでから言った。


「真菜香はそれくらいでお前のこと嫌いになったりしないさ。そんな奴じゃない」


「でも……」


「今ごろ真菜香の方も自己嫌悪に陥っていると思うぞ。図星を指されて、カッとなったんだろう。あいつにしては珍しいことだな」


 図星……?


「それだけお前に気を許していた証拠さ。まあ、向こうも謝るタイミングがわからず、内心焦っている筈だ。お前の方から歩み寄ってやるんだな」


「許してもらえるなら、すぐにでも謝ります」


 部長の言葉に多少の疑問を感じたが、一筋の光明が見えて僕の気持ちは明るくなった。


「それに和地、お前が悪いわけじゃない。真菜香に向けた言葉は気に入られたいためのお世辞じゃないんだろう?」


「もちろんです!」


 中沢先輩に言った言葉は僕の本心だ。

 本当にそう思ったから、口に出てしまったのだ。


「なら、お前は悪くない。が、真菜香にも事情があるようなんだ。だから、大目に見てやってくれ」


「部長は何か知ってるんですか?」


「残念ながら、詳しくは知らない。敢えて聞き出す類いの話でもないからな」


「そうですか……」


「だが、真菜香がどういう動機で声優部に入ったかは私にとって、さして重要な問題ではないんだ」


 部長は真剣な表情で続ける。


「今現在、うちの部に入って良かったと感じ、毎日が楽しく過ごせているなら、それでいい。部長として、それだけを願っている。もちろん、真菜香だけじゃない、お前もな」


 部長は照れたように急に立ち上がる。


「はは、柄にも無いこと言ったな。さて、帰りの放送の準備を始めようか」


「はい、部長」


 今日の放送が全て終わり、部長と帰り支度し始めた時だ。

 先ほどの夏合宿の話題をふと思い出したので、性懲りも無く聞いてしまう。


「部長、やっぱり合宿が終わったら引退するんですか?」


 不用意に不躾な質問をするのは止めようと思った矢先なのに、我ながら学習能力がない。


「懲りない奴だな、お前は」


 苦笑しながらも答えてくれる。


「そのつもりだ。さっきも話したが、これでも受験生なのでな」


「大学受験ですよね」


「もちろん、そうだが……?」


「……そのぉ……部長は声優を目指してないんですか?」


「どういう意味かな」


 部長の目がきらりと光った気がした。


「いえ、声優を目指してる人って養成所に入ることが多いって恒武先輩が……」


「確かに、そういう進路に進む人もいるだろうな。だが、大学に通いながらや卒業してから養成所に入る人もいる」


「って言うことは目指してはいるんですね」


 僕の言葉に部長は深いため息をつく。


「全く、お前という奴は……」


「す、すみません」


「その空気を止まない発言を注意しないと本当に女性から嫌われるぞ」


「気をつけます」


 ふむと頷くと部長は諦めたように本音を打ち明けてくれた。


「本当は高校を卒業したら、すぐにでも養成所に入りたいところなんだが、現状では絶対に無理だ」


「え、どうしてですか?」


「うちの高校が県内屈指の進学校だからさ。大学に行かず、声優になるなんて両親に言ってみろ。どうなると思う?」


「そ、それは想像したくない展開ですね」


「そういうことだ。両親を説得するには長い時間と積み重ねた努力が必要なのさ」


「でも、それだとデビューが遅くなるんじゃ……」


「アイドル声優なら困るだろう。しかし、あいにくと私は田町や恒武のように並外れた容姿があるわけじゃない」


 部長は謙遜するが、部長だって可愛い方だと思う。性格があれなんで彼女にしたいとは思わないけど。


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