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文化祭での……①

 テストが終わると文化祭まで10日あまり、いよいよ文化祭準備もラストスパートに入る。

 各クラス・各部とも余裕が無くなり、準備作業は苛烈を極めた。


 かく言う僕たち声優部も生徒会からの指示が二転三転し、放送原稿等が定まらず、その対応に追われていた。

 まぁ、大変なのは全体の構成を考えている中沢先輩なのであって、僕ら一年生は雑務の多さが大変だっただけで、比較的気楽に前日まで準備を進めていた。

 けれど、二日にわたる体育館発表のプログラム内容を文化祭前日に見せられ、僕たち体育館組は青ざめた。

 そのプログラムは、生徒会の素案を元に、あの部長が作成したのだ。司会(声優部)が前面に出る構成で、アドリブ展開が要求されるハードルの高い代物になっていた。


 これはマズイ。


 原稿をきちんと読むことが得意な僕にとって、臨機応変は最も苦手なスキルだ。なので、音響関係を買って出て、司会は恒武先輩と佐久間に任せることにした。


「ほら、やっぱり可愛い子二人組の方が観客の受け、良くないですか?」


 可愛い子という部分を強調して言ってみる。


「なんか、面倒なことを押し付けようとしてない?」


 恒武先輩が疑わしい目で僕を見る。


「いえいえ、先輩の素晴らしさを観衆に見せつけるには格好の舞台だと……」


「見え透いたお世辞を……。何か魂胆があるとしか」


「そうそう、和地だけ楽しようと思ってるだろ」


 佐久間が僕の意図を見抜いて口を尖らす。


 いかん、雲行きが怪しくなってきた。


「いやいや、女性二人の方が絵になりますって」


 必死に言い繕ったが、二人の心には響いていないようだ。

 半ば諦めかけた時、部長がボソリと言った。


「そうかぁ? 女性の二人組もいいが、男・女の方が夫婦漫才みたいで面白そうだと思うけどな」


 部長の何気ない言葉が決定打となった。


「さ、佐久間。やっぱり二人でMCしようか?」


「は、はい。先輩、よろしくお願いします」


 どうやら、先輩も佐久間も僕と夫婦に見られるのが許せなかったらしい。


 い、いいんだよ。当初の思惑通りになったんだから……ぐすっ。


 そしてリハーサルを行った結果、みんな佐久間のポテンシャルの高さに度肝を抜かれることになった。

 前々から頭が良いのはわかっていたが、機転の利き方が尋常でなかった。


 話の持って行き方、アドリブ対応力や言い回し等、全てが素晴らしく、舞台に立つ姿も堂に入っている。さすがに児童劇団で培った舞台度胸は並大抵でない。

 相方の恒武先輩も十分、手ごたえを感じたらしく興奮冷めやらぬ様子で佐久間とがっしり握手を交わしていた。


「あいつは……将来きっと売れっ子になるかもな」


 舞台袖で僕と一緒に見ていた部長がぼそりと呟く。

 その言葉に部長にしては珍しく苦い色が混じっているように聞こえたのは僕の錯覚だろうか。


 驚いて振り返って見ると、もういつも部長に戻っていて、ニヤリと笑って言った。


「今のうちにサインをたくさんもらっておこうか。高く売れるぞ、和地」


「はあ……」


 佐久間のようにアドリブの利かない僕は、ただ気の無い返事を返すことしか出来なかった。


◇◆◇◆◇


 文化祭が始まった。


 一日目は校内発表のみで一般入場者がいないため、放送委員会の仕事もそれほど多くない。また、体育館の発表も開会式やクラス合唱など授業的な側面が強く声優部以外の放送委員が担当してくれている。

 体育館組は二日目に丸一日、体育館に詰めることになるので、一日目の午後はクラス展示等に回ることになっていた。

 文化祭運営も大切な勉強だが、文化祭を楽しむことも勉強の一環という教育的配慮によるものだ。


「和地、お前どこ見に行く?家庭部でメイド喫茶やってるってさ」


 上野が目をキラキラしながら、誘ってくる。


「あ、僕はクラス展示をやらなきゃならないんだ」


「え、係は当番制だろ?」


「うん。でも、明日一日体育館に張り付いてなきゃならないから、今日やるしかないんだよ」


「そりゃ、ご苦労様なことで。仕方ない、俺一人で桃源郷の赴くしないか」


「まあ、せいぜい生徒指導室に呼ばれない程度にしとけよ」


 当たり前だという顔をしながら、奴は出て行ったが、今ひとつ信用できない。

 もし、問題を起こしたら、友人Aとして「彼がそんなことする人とは思わなかった」と発言してやろう。

 それより、いつも声優部に参加していたため、クラス展示に貢献していなかったので、ここで協力しておかないとクラスでの僕の立場が危うい。


「文化祭実行委員会からお知らせします。この後、体育館にて中等部・高等部吹奏楽部による演奏会が行われます。ぜひ、ご鑑賞のため足をお運び願います」


 校内放送で中沢先輩の声が流れる。僕はその声に心引かれながら、クラス展示のために自分の教室へと向った。




 引っ切り無しに続いていたお客が途切れた。顔を上げると時計は2時半を指していた。


「和地君、ありがとう。もう上がっていいよ」


 隣にいたクラスメイトが声を掛けてくる。

 僕と同様、この時間をクラス展示の係に割り当てられた女子だ。


「え、一日目の終了って3時半だったよね。まだ1時間あるよ」


「うん、でも人手は足りてるし……和地君、明日一日体育館から離れられないんでしょ」


「ああ、それはそうなんだけど」


「だから、少しぐらい文化祭見てきなよ」


 別段、見たいものは無かったけれど、せっかくの好意を無碍にするのも悪いと思い、僕は頷いた。


「じゃあ、お言葉に甘えて、校内を回ってくるよ」


「うん、そうしなよ」


「わかった……その……ありがとう」


 僕は彼女にお礼を述べると教室の外へと向う。

 ふと背中越しに注意を向けると彼女達が恋愛話をし始めるのが聞こえた。


 どうやら残っていたのは僕以外みんな女子で、男の僕がいると話せない噂話をしたかったようだ。

 僕は苦笑しながら考えをめぐらす。


 さて、空いた時間をどうしょうか?気になるイベントもなかったし……。


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