中間テストでの……③
中間テストが終わった当日から部活動は再開となったが、その日から休まず参加しているのは中沢先輩と僕ともう一人だけだった。
皆それぞれが抱えている事情で来たり来れなかったりというのが実情のようだ。
そして、僕の目の前で蔑むような目付きで睨んでいるのが、あと一人の皆参加者である佐久間絢乃だ。
恐らく佐久間と僕、両者の思惑は同じだろう。中沢先輩と二人きりで親密度のパラメータを上げようとの魂胆に決まっている。
がしかし、中沢先輩は事情で遅れるらしく放送室にいるのは佐久間と僕の二人だけだ。同じ檻に入れられたハブとマングースのように僕たちは距離を取る。
どこかで遠くで戦いのゴングが鳴ったような気がした。
「あら、和地。あんた不景気な顔してるじゃない?」
「不景気な顔で悪かったな。あいにくといつもこの顔なんでね」
「大方、テストの点が冴えなかったってところでしょ」
ぐ……図星を突かれて、一瞬押し黙る。
「そ、そういうお前はどうなんだよ」
劇団に入っていて、テスト前の声優部にも休まず出ていた佐久間も決して時間があったわけではない。
「はぁ? 何を言ってるの。あんたとは頭の作りが違うんだっての。中間テストなんて楽勝よ」
一度でいいから、そんな台詞言ってみたいものだ。
前から気付いていたけど、こいつ相当頭が良いらしい。
顔も可愛いし、僕とはスペックが違いすぎる。
けど……先輩は譲れない。
何か反撃の糸口を探しているとノックの音がした。
入って来たのは待望の中沢先輩だ。
「先輩、こん……」
「中沢せんぱ~い!」
僕が声をかけるより早く、佐久間が高速移動して先輩に抱きつく。
ぬ、何という早さだ。
「ど、どうしたの。佐久間さん?」
「先輩にお願いがあって……あ、それより先輩この間『あやのん』って呼んでくれるって約束したじゃないですかぁ」
「え、そうだっけ?」
「そうですよ。だから、も1回言ってください」
「……あ、あやのん、どうかしたの?」
中沢先輩が若干引きながら、もう一度聞き直すと佐久間は嬉しそうにまとわりついた。
「先輩、わたしテストの成績が良くなくて困ってるんです。ぜひ、先輩に個人的に教えてもらえないかなぁって……」
さ、佐久間ぁぁぁ……お前さっき、テストなんて楽勝だって言ってたじゃないかぁ!
はっ! 佐久間お前、僕と同じこと企んでるな。
「え、そうなの?」
「はい、同じ声優部の後輩として恥ずかしいです。なので、先輩に勉強見てもらえたらと思って……」
せ、先輩、僕もお願いしたいです。
僕の熱のこもった視線を、佐久間がさりげなく先輩の前に立って遮る。
「う~ん、そうだなぁ」
ちょっと考える素振り見せたが、すぐに了承する。
「うん、いいよ。次の期末テストの前に一緒に勉強しようね」
「ありがとうございます、先輩!」
佐久間は身体を折り曲げるように大きくお辞儀をしたが、僕のほうをチラリと見てほくそえむ。
くっ……このままでは先輩を独占されてしまう。
「せ、先輩!」
「何、和地くん?」
「ああああ、あのですね、中沢先輩!」
すかさず佐久間がインターセプトしようとするが、今度は僕のほうが速かった。
「せ、先輩、僕も一緒に……勉強したいです……」
「わ、和地くん?」
「……勉強したいです…………勉強したいです……勉強したいです……」
「和地……貴様ぁぁぁ!」
リフレインしながら鬼気迫る表情で近づく僕に佐久間の飛び蹴りが決まった。
「べ……べんきょう……」
崩れ落ちながらも繰り返すと、中沢先輩はドン引きしながらも頷いてくれた。
「べ、別にいいよ。和地くんも一緒で……」
その言葉に僕は歓喜しながら、前のめりに倒れ込んだ。




