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中間テストでの……①

 やはり、事情がわかったのは大きい。


 それからの僕は田町先輩と恒武先輩の微妙な空気を解消しつつ、二人の間を取り持つことに成功し、中沢先輩からお褒めの言葉をいただいた。

 自分の保身のための行動であったのだけど、部室である放送室の雰囲気がかなり改善されたらしい。


「やっぱり、和地君が入ってくれて良かったよ」


「え、ホントですか?」


 にこにこと微笑む中沢先輩に僕のテンションも上がる。


「うん、部長も可愛がっているし、口に出しては言わないけど、さやちもアニメや漫画の薀蓄を聞いてくれる相手ができて喜んでるんだよ。たまちゃんも放送機器に詳しくて助かるって言ってたし、佐久間さんも何だかんだ言っても和地君のこと気に入ってるしね」


「そ、そうですか……」


 佐久間には毎日、罵倒されている気がするけど、あれはひょっとしてツンなのだろうか?

 一向にデレは来そうにないけど。


 で、肝心の中沢先輩の感想はどうなんだろう?

 僕が期待した目で見つめていると、先輩はちょっと顔を赤くしながら言った。


「私もすごく助かってるよ。和地君が入部してくれて、部の結束力が高まった気がするもの」


 それはそうかもしれない。


 今までの部内は、先輩を基点とする人間関係のみで成り立っていたけど、僕を基点とする流れが増え、先輩の負担が軽減されているのも事実だ。

 まあ、実態はみんなからいじられているだけなんだが……。



 でも、中沢先輩の高評価を得たのはラッキーだ。毎日、放送室で顔を合わせているおかげで、心なしか親密度も上がった気もする。


 これは、もしかするとフラグが立ったかも。

 そう、ほくそえんでいると、中沢先輩は残念そうに言った。


「でも、しばらくは(みんなと)会えなくなるから、ちょっと寂しいね」


 な、何ですと。僕と会えなくて寂しいですと?


 やっぱりこれは……っていうか、それってどういう意味だ。


「先輩、会えなくなるって?」


「え、もうすぐ中間テストだよ。だから、部活はお休みなんだ」


 ああ、そうか。そう言えば、副担の山住先生がそんなこと言ってたっけ。


「そうでしたね、忘れてました」


「あれ、余裕だね。さすがは、声優部の期待の星」


「いやいや、おだてないでください。それに、そんなに成績良くないですから」


 それは本当のことだ。勉強はそんなに嫌いじゃない方だけど、やる気が出るまでに時間がかかるタイプと言っていい。

 その代わり要領は良い。

 記憶力もわりとある方だ。この進学校に滑り込めるだけの運も持ち合わせている。

 中学時代の同級生には、よく嫌味を言われたものだ。


 適当にやってる癖に美味しいところはちゃっかり持っていくって。


 心外な。

 僕だって、見えないところで、けっこう努力してるんだから。


「ということで、明日から放送室に来ても誰もいないからね」


 中沢先輩の宣言に僕は内心、ため息をついた。

 テストが終わるまで先輩に会えないとなると、僕の中の中沢先輩成分が不足してしまう。


 何か、対策を講じなければ……。



◇◆◇◆◇


 結局、僕は悪魔に魂を売った。


「毎度あり~」


 部長あくまは、ニコニコしながら僕から紙幣を受け取った。


「ホ、ホントにいいんですか? もらっちゃって。これってプライバシーの侵害になるんじゃ……」


「そんなことはない。ちゃんと本人から『後進の育成』のためならと許可をもらっている」


「ならいいんですけど」


「もっとも、それを録った時点では男子部員が入るという想定はなかったけどな」


 僕が手にしているのは、中沢先輩が新入部員用に録り起こした校内放送のサンプル音声データの入ったUSBメモリーだ。


 やった、これで、毎日先輩の声が聴ける。


 あ……変態とかキモいとか言わないでくれたまえ。あくまで勉強のためなんだから。


「それにしても部長、なかなかの悪人ですね」


「人聞きの悪いこと言うな。これはちゃんとした新人教育の一環だぞ」


「でも、普通そういうのって無償なんじゃ……」


「ただの手数料さ」


 部長がしれっと答えていると佐久間が放送室に入ってくる。


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