表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

顧問との……

「おー来た来た。よっ、このハーレム男め」


「用って何ですか? 山住先生」


 僕のクラスの副担任である『山住亜矢子』(やまずみ あやこ)先生のいじりを無視して冷静に尋ねる。放課後、職員室に来るように言われていたのだ。


「つれないなぁ。せっかく、顧問直々に入部を祝福してやろうと思ったのに」


「えっ、山住先生って声優部の顧問だったんですか?」


「そうだよ。知らなかったの?」


「ええ、聞いてませんでした」


 正式な部なら、顧問がいるのは当然か。


 山住先生は、年齢については頑なに黙秘しているが、ベテランの多いうちの学校では、けっこう若手の先生に入る。見た目も綺麗だし、気さくな性格で生徒からの人気も高い。

 専門教科は音楽で、噂によると音大出身らしい。

 また、別の噂では独身で絶賛彼氏募集中とも聞く。


「で、僕に何の用ですか?」


「ああ、これを副部長の中沢に渡して欲しいんだ」


 そう言いながら、文化祭関連のプリントを差し出す。

 どうやらパシリに使われるようだ。


「いやあ、これから連絡事項はお前に伝えればいいから、ラッキーだな」


 どんだけ面倒くさがりなんだ。


「ちゃんと、顧問の仕事しましょうよ、先生」


「大丈夫だ、副部長に任せとけば安心だから」


 部長に続いての、丸投げ人間だった。


「それでどうなんだ、唯一の男子部員としては?」


 僕の先生の評価が乱高下らんこうげしていると、先生は興味津々といった顔付きで聞いてきた。


「別に……普通ですよ」


 先生が期待するようなことがあったら、僕も嬉しいけど、現実はドラマじゃない。


「先生のご期待には副えないと思いますよ」


「そんなことはないだろう。あんなに美少女揃いで、しかも閉鎖空間だ。充満した乙女の体臭をクンカしただけで和地の青い春がだな……」


「生徒に下ネタ振ってると教育委員会に通報しますよ」


「じょ、冗談だ。まったく和地は真面目なんだから」


 ぶつぶつと文句を垂れる先生を尻目に僕が職員室から退散しようとすると、思い出したように呼び止められた。


「そうそう和地、あと一つ聞きたいんだが、最近の田町と恒武はどんな様子だ?」


 田町先輩と恒武先輩?

 

「別に普通ですよ。喧嘩しているようにも見えませんし」


 強いて言えば、体育館組の件で意見が分かれたぐらいか。

 ただ、あの時の田町先輩の様子が少し変だったのを記憶している。

 

「二人がどうかしたんですか?」


「いや別に……ちょっと気になっただけだから」


 怪しい。

 先生が気にするくらいなのだから、二人の間で過去に何かあったということんなんだろうか。


 僕の追及の視線に目を逸らしながら、先生は話が済んだと言わんばかりに手をひらひらさせて退出を促した。


◇◆◇◆◇


 いったい二人に何があったんだろう。


 放送室に戻ると偶然、くだんの先輩達がいた。

 さりげなく観察してみたが、別段仲が悪いようにも見えない。


 もっとも共通な話題が乏しいらしく頻繁に語り合うようなことはないようだけど。


「部長、素朴な質問ですが。普通の部活って夏の大会が終わったら、3年生は引退になるじゃないですか。うちの部、大会とかないですけど、どうするんですか?」


 不意に直球な質問を部長に浴びせかけたのは、怖いもの知らずの佐久間だ。


「確かにうちの部に参加する大会などないが、夏を過ぎたら引退するつもりだ。一応、これでも私は受験生なのでね」


 苦笑いしながら部長が答える。


「そうなんですか。目指す大会とかないと、なんか盛り上がりに欠ける部活ですよね」


 佐久間……自由人にもほどがあるぞ。

 僕もそう思ってたけど、決して口には出せなかったのに。


「まあ、そう言うな。受験勉強や校外で活動している者にとっては、これくらいが丁度良いのさ。それに、上下関係も厳しくはないし、居心地は悪くないはずだ」


 佐久間の失礼な発言に対しても、部長は怒る素振りも見せず答える。


「そうですね。私も前に話しましたけど、児童劇団に入っていて稽古とかあるんで、助かってます」


「そう言えば、自己紹介の時、児童劇団に入っているって言ってたね」


「っていうか高校生なのに児童なの?」


 中沢先輩が納得したように頷き、恒武先輩が突っ込みをいれる。


「はい、うちの劇団は未成年までなら所属できるんです。でも最近、ボイストレーナーの先生から声優のオーデション受けてみないかって勧められていて……」


 ガタンと音がした。


 田町先輩が読んでいた本を取り落としようだった。


「たまちゃん……?」


 一瞬、強張った表情を浮かべた田町先輩は中沢先輩の言葉に我に返り、黙って本を拾い上げる。

 そして、それに反応するように恒武先輩が気まずそうにしているのが見えた。


 田町先輩……恒武先輩もどうしたんだろう?


 微妙な間になったところ、尾野さんが舌足らずな口調で「佐久間さん、すごいです~。私も子どもの頃、劇団に入ってたんですよ~」と発言してくれたおかげで場の雰囲気が和んだ。


 尾野さん、ナイス。

 子どもが子どもの頃って(見た目)、違和感MAXだけど、助かったのは事実だ。


 特徴的な声質と幼い風貌と相まって、ホントに癒しキャラだと思う。小動物を愛でる気持ちに近い気がする。

 劇団話で盛り上がる佐久間と尾野の二人を横目に、心配そうに田町先輩と恒武先輩を気遣う中沢先輩の姿が印象に残った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=693062406&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ