部活での……②
自分で考えろ……と言われてもなぁ。
部長に言われた言葉を反芻してみる。
正直、意味がわからない。
だって普通は部活に入部する時、何の活動をするのか大体わかっているものだ。
バスケ部に入ってバレーをしようと思う奴はいないだろう。
事実、僕は声優部が声優に関わる活動をする部活だと思っていたし、アナウンサー志望の僕としては、プラスになるだろうとも考えていた。
けど、実態はそうではないらしい。
今のところ、発声練習はおろか、声優の『せ』の字も出てこない。
(いや、約一名、声優とアニメの話しかしない人がいるけど……)
この状況において、僕にいったい何ができるんだろう。頭を悩ませていると、八幡部長が不意に立ち上がると声を張り上げた。
「え~、部員の諸君。少し耳を貸してくれ」
一同が部長に注目する。
「今後の声優部の予定の話なんだけれど。6月には本校の文化祭がある。文化部としては、ここを発表の場とすることが多いのだが……」
確かに、運動部と比べて対外的な大会やコンクールの少ない一部の文化部にとって、文化祭は重要な発表の機会だ。
けど、放送部には『Nコン』があるけど、声優部って何か大会みたいなものってあるんだろうか?
「……我が部は例年、文化祭で部としての発表を行っていない。なので、それに関わる準備等も一切ないので、承知しておくように」
えっ?
「部長! ぶ、文化祭に参加しないんですか?」
佐久間が驚いて質問すると、部長はよくぞ聞いてくれたという顔をした。
「もちろん、参加はする。ただし、それは文化祭全体をサポートするためだ」
「サポート……ですか?」
「うむ。真菜香、補足説明を頼む」
佐久間の問いに部長は中沢先輩を指名すると、自身はどっかりと椅子に座り込んだ。
「え……とですね。基本は文化祭運営に関わる放送委員の仕事をします。他の放送委員が自分の部活やクラス展示で手一杯になるので、部として請け負う訳です。もちろん、みんなもクラス展示があるので交代で行うことになりますが……」
そうは言うけど、中沢先輩は他の部員の分まで仕事しそうな気がする。
「そして、主に放送室で日程の案内や注意事項のお知らせ、緊急放送などを行うグループと体育館演目のMCを行うグループと二手に分かれます。グループ分けは、本人の意向と適性を参考に決めたいと思いますが、一応こちらで仮に割り振ってみました」
MC……って大役じゃないか。正直、今の僕では荷が重過ぎる。
他の二人は、と見ると佐久間さんが立ち上がって「私、やってみたい」とアピールしている。
たいした自信だ。
反対に尾野さんは「私……無理です」と小声で呟いている。
うん、確かに。尾野さんにそれを期待するのは間違っていると僕も思う。
一方で、先輩方はどうだろうか?
中沢先輩は放送委員のスキルが高いから放送室常駐としても、他の先輩は……。
「私は責任者として放送室待機だな」
部長が残念そうに言う。どうやら、MCをやりたかったらしい。
ということは順当にいくと、
放送室組……部長、中沢、和地、尾野
体育館組……田町、恒武、佐久間
といったところか。
そう考えていると、中沢先輩が仮のグループを発表する。
「放送室組は、部長・私・たまちゃん・尾野さん。体育館組は、さやち・佐久間さん・和地くんを考えています」
えっ、僕が体育館組? それは無理があるんじゃ。
「え~、真菜ちゃん、私には無理だよぉ」
僕よりも先に恒武先輩が泣き言を言う。
「大丈夫だよ、さやちなら出来るって」
「私より田町さんの方が合ってるって」
「あ……たまちゃんはちょっと……」
恒武先輩の反論に中沢先輩は語尾を濁した。
「ごめん、さやち。どうしても体育館、お願いしたいんだ」
田町先輩が真剣な表情で頭を下げる。
「う~ん」
恒武先輩は唸るばかりで返答がない。
「まあ、このグループ分けは仮のものだから、また後で話し合うことにしようか」
二人を見比べて中沢先輩がタイミング良く、間に入る。
さすがは中沢先輩。
とりあえず、その言葉でその場は収まったけど、ふだん明るい田町先輩が暗い表情をしたことが少し気になった。




