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Oh,my Cinderella !

ノルウェーの王太子妃に触発されました。

 白く華やかなドレスに身を包んだ黒髪の女性は、隣で何処か引き攣った顔をしている男性を見上げた。その男性は何度か「大丈夫…大丈夫…」と呟きながら、外から聞こえる声援に眉を顰めていた。


「Abel……crown prince?」


 女性は、些か拙い英語で男性を呼んだ。その声に反応した男性――アベルは、一息吐いて自らの花嫁の前に立つ。そしてそのまま片手を取ると、椅子から立たせた。


「…よし。さあ、行こう。あんまり目立ちたくないけど…無理だし…国民に示さないといけないし…本当は嫌なんだけど…」

「じゃあ止める?」

「まさか!冗談は止めてくれ。腹が痛い」

「今からトイレはちょっと時間が無いわね……」

「――よし行こう!」


 アベルは花嫁の手を引いて開け放たれたバルコニーへ向かう。白に見間違う程の晴天。其処に見間違うはずの無い花嫁の姿。下に集まる全ての人は、この瞬間に歓喜の声を上げた。



***



「ついに…ついに…ついに来ましたイギリース!!」

「いえすイングランド‼紳士!雨!最高!」


 王太子の花嫁と成った皐月(さつき)が、また王太子の`お'の字も知らなかった頃。大学二年生の皐月は兼ねてから計画していたヨーロッパ旅行を友人と二人で実行していた。皐月たちの目的は、イケメンを見つけてウハウハする事と、どっぷりヨーロッパの雰囲気に浸ることだった。王国だからと言って、王族に会いたいなーなど考えもしていない。彼らには彼らの目的があったのだから。


 入国審査を終えホテルに行き荷物を置いた後。二人は別々に行動することにした。元々そんなに英語が苦手では無い二人は、別にべったりと二人で見回ることもないだろうと思った。旅行期間は長いのだから、一日くらい自由行動でもいいだろう。必ず定期的に連絡を入れること。トラブルが起こった時はしかるべき場所に報告した後にお互いに報告し合うこと…等を確認してホテルを発った。

 そして皐月は――びしょ濡れになった。


「なんでやねん……」


 と一人で力のない突っ込みを入れるくらいびしょ濡れになった。近くにあったカフェの隅の隅で少しばかり雨宿りをさせてもらおう…。そう思って大人しく立っている皐月だった。黒の長い髪は濡れたせいで整髪剤が落ち、綺麗なカールが消えている。服は肌に張り付き、些か気持ち悪い。

 最悪、その一言に尽きる。


「Darn it! I don't know……!」


 そこに、美しい金の髪を持つ男性が舞い込んできた。皐月は思った。嗚呼、雨なんて降ってなかったら…きっとこの人の金髪は青い空の中を美しく舞っていたのだろう、と。

 無意識に見惚れていた皐月の視線に敢えて知らないふりをしていた男性は、ついに皐月の方を向いた。やばい。そう思っても既に手遅れだ。あっちの人は遠慮がないと聞く。…怒鳴られたら、どうしよう……。


「……君、中国人?」

「えっ、いえ、いいえ!日本人です!」

「そうなの?わかんないな……」


 大丈夫、英会話出来る。少しドキドキするけど、相手の人も此方が外国人だということを承知で喋ってくれているみたいだ。

 金髪碧眼と喋ってる…その事実が皐月の心を躍らせていた。


「お客様」


 彼とゆっくり喋っていると、突然後ろから声を掛けられた。吃驚して振り返ると、私が雨宿りに利用させてもらっていたカフェのウェイターだった。その人は私と彼を交互に見ると、にっこりとして店内へ向かわせる動作をした。


「タオルをお貸し致します。…どうぞ店内でおくつろぎ下さい。可愛らしい彼女さんが風邪を引いてしまいますよ」

「かのっ!?」

「ああ、うんそうだね。さあ、お手をどうぞお姫様」


 この人もしかしてイタリア人ですかね……!?私は顔を少し赤に染めながら、その手を取った。


 それから二人は、時間を合わせて会う様になった。皐月は友人にその日の出来事を自慢すると「危ないでしょ!?馬鹿じゃないの!?」と叱られ、「違う。そんな人じゃないよ」と言っても「このお上り!」と真剣に説教を喰らっていた。


 それでも二人は惹かれ合った。短い学生旅行の間。二人はまるで長い時間を既に過ごしている恋人の様に、時間を重ねた。


 でも、恋人になんかなれない。


 その一つの常識が深く皐月に突き刺さる。まるで鎖を付けた足枷の限界を探している様だった。綺麗だと言って髪を掬う動作も、金髪が綺麗なのも、青い目が宝石のようなものも――全て異国の地が見せている幻に過ぎない。

 日本人は、これだから。

 聞こえない声が皐月の脳内で嘲笑う。


「俺から君に服を送ってもいい?」

「日本かあ…行ける機会はあるけど…」

「俺もまだ大学生だよ」


 近づいてくるタイムリミット。もう皐月の心は、戻れないところまで来ていた。ここで明かす夜は残り僅か。そのあまりにも残酷な感覚が、皐月の涙腺を突然崩す。とめどなく溢れてくる涙にアベルは一瞬固まってしまった。それが、皐月に邪推を引き起こす。


 やはり、嫌だったんだ。

 東洋人なんて、――私なんて!


 彼の事が知りたくて沢山質問しても上手いように躱される。それに気が付かない程皐月は幸せな人間ではなかった。でもそれを言及出来る程、凛々しくもなかった。

 しかし、この夜の恋情が二人を結びつけるには相応しかった。


 何処か諦めていた男と、諦めたかった女。


 そして、何処の時代、何処の国でも言わなきゃ伝わらないことがある。


 恐る恐る繋ぎ合った手を何時(いつ)離すかは、二人の自由。


「サツキ。…お願いだ、泣かずに聞いてほしい」


 泣きじゃくる皐月の手を握って、アベルは膝を付いた。手を奪われた皐月は涙を拭う手段を他に知らない。


「――――――」


 別れが夜と言うのなら、再び出会う時も夜にしよう。いつか別れと出会いが溶け合って、出口を塞ぐまで。


 皐月とアベルが結ばれるのは、まだ先の話。











Oh,my Cinderella !( 終 )




 

真剣に書いてたら長編になるよこれ……。

ということで自分にセーブ掛けつつ、こんな仕上がりに。やはり王子様は良いですね、将来が安定です。…多分。


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