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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第一楽章 異世界来る前からチート持ち
6/49

♯6 冒険者ギルド

第六話です。

誤字脱字の報告、感想等ありましたらお待ちしております。

次回は水曜に更新したいと思います>>


7月20日 傭兵国の名前をシハスからウル―に変更しました。


 冒険者の街ハルシャ――。

 この街がそう呼ばれるのは伊達では無い。


 と言うのも隣接する、人の侵入を許さない大森林『魔の森』を見下ろす小高い丘の上にある街並みはそのハルシャの入口に過ぎないからである。

街の奥にある巨大な洞窟を進んだ先、大迷宮『迷宮大ハルシャ』に広がる、崖を背に地上の三倍もの面積を誇るその街こそが冒険者の街『ハルシャ』の本来の姿だからだ。


しかし冒険者を含めた人々の生存圏であるハルシャの街は大迷宮の一階層の入口の辺りでしかなく、街と入口を守るように造られた半円形の城壁のその先にはとても洞窟内部とは思えない大自然が広がっている。

 実際ハルシャの面積は地上に出ている部分の三倍近い広さにもなるが、迷宮一階層全体のの十二分の一も無いと言われている。


 冒険者達はそこで、この迷宮にしか存在しない特殊な動植物や鉱物や魔獣から獲られる魔石などの素材やアイテムを採集し、それを売る事によって生活の糧にしている。

 此処では何故か魔獣も動植物も鉱物も――『迷宮自体が生きているのではないか?』などと揶揄される迷宮の不思議な力で無くなる事は無く。また稀に発見される貴重な素材やアイテムを手に入れれば一攫千金も夢では無い。

 そんな迷宮に夢や野心や生活の糧を求めてやってくる冒険者と共に、この街は発展を続けてきたのだった。


 だがこの街で、特に冒険者として生きていくのは並大抵の事では無い。人を襲う魔獣と呼ばれる生物達。予想もつかないトラップの数々。冒険者は命の危険と隣り合わせの生業である。

 特にこの街では地下は迷宮、地上は魔の森に隣接しているため、その危険度は高い。

 それにも増して冒険者を魅了する夢と、冒険者の好奇心を擽るモノがこの街にはあるのだ。


 そんなこの街の中心部にある一際大きな建物へと奏吾はやって来ていた。

 有象無象の冒険者達を管理し、その冒険の成果の流通の拠点である『冒険者ギルド』ハルシャ支部である。

 冒険者の登録更新や階位制度(クラスランク)の管理。収穫物などの素材の仲介買取や依頼(クエスト)の発布受付など、はたまた新人の教育までその業務は多岐にわたる。

 また魔の森や大迷宮内に大量の魔獣の集団などが現れた時には、勝手気ままな冒険者達を纏め上げ、強力な傭兵集団とする司令部の役割もある。

 冒険者の街には欠かせない、冒険者のバックアップの為の施設である。


 奏吾は馬車から降りるとワーカー、それとアクアムと共にこのギルドの中へと入っていった。

 入るとそこは大きめなラウンジとなり活気があるというより、騒々しい空間だった。

 酒を飲んでいる者、受付に文句を言っている者、ギルドのメンバーを探す者、掲示板の依頼書を読んでいる者。


「どうしたソーゴ?」


 きょろきょろと奏吾が見回しているとワーカーが声をかけた。


「いや、やけに人が多いなと思って――」


「まぁ丁度みんな街の外から帰ってくるころだしな、受けた依頼の報告や報酬の受け取り――素材の買取りなんかをしてもらいに来てるんだろう。

 後は目新しいクエストが無いか確認したり、単純に騒ぎたいだけの奴もいるけどな」


「それにしても――人間ばかりなんですね――」


 まるで人の坩堝と言った光景だったが、奏吾は其処に違和感を覚えていた。

 服装などは中世ヨーロッパであるが、いるのは比較的元の世界でも見覚えのあるような姿の者達ばかりだった。

 白人、黒人、黄色人種――。多種多様とはいえ、地球で珍しいと思えるような顔立ちや姿の人種はほとんどいなかった。“異世界モノ”というよりサブカルではありがちな、青や緑などのありえない髪の色の者もいない。赤毛すらアニメカラーでは無い所謂赤毛だ。

 奏吾のような黒髪も、多くないがいなくは無かった。


 “異世界っぽくない”――その中で奏吾は“異世界らしい”存在がいるのを見つけていた。

 獣特有の耳や尾を持った人間――獣人。


 本来なら『ケモミミモフモフ』とでも叫んで奏吾は野次馬丸出しで跳んでいきたいところだったが、彼らの周りの異様な雰囲気を読んで思いとどまった。

 彼らは一様に同じような首輪をつけた“人間”と共に壁際で黙って立っている。

 その首輪はアクアムが連れていた奴隷と同じものだった。


「彼らも奴隷か――」


 その格好は襤褸布を巻きつけたような服から、鎧を着た者まで様々だったが、獣人たちの方が比較的小汚い気がするのに奏吾は不快に思っていた。


「此処は“人間至上主義国”だからね――」


 奏吾の視線を察したのかアクアムがそう呟いた。ただその奴隷を“商品”として扱う“奴隷商”アクアムのその顔が妙に哀しそうなことに奏吾は驚いた。


「おっ、リック。ちょうど好い所に――」


 辺りを見渡していたワーカーはそう言うと一人の少女を呼び止めた。

歳は宗吾より少し上だろう小柄な少女だ。金髪を後ろで一つに束ね、額にはバンダナを巻いている。


「あっ、ワーカーさん。それにアクアムさんも。いつ帰ってきたの?」


「ついさっきな。親父さんいるか? 報告することがたくさんあってな」


「親父ならたぶん執務室にいると思うよ。呼んでこようか?」


「いやいい。アクアムさんもいるから直接会いに行く――。あっ、それとコイツの冒険者登録をしてくれないか?」


「ん? 新人さん――?」


 金髪のリックと呼ばれた少女はワーカーにそう言われるとマジマジと顔を近づけ奏吾を見つめる。奏吾の方がちょっと前に出ればキスが出来てしまうのではないかという近さで、思わず身を固くする。


「うん、かーわいっ! よし、お姉さんについて気なさ~い」


 リックはそう言うなり奏吾の腕を引っ張った。何気に力強いお姉さん――というよりギャルっぽいな――リックに成す術無く引きずられていく。


「あっ、リック。そいつ登録があらかた終わったらオレ達の所まで連れて来てくれ――」


 そう大声で言うワーカーにリックは『ハイハ~イ』と背中で答える。奏吾が気付くとあっという間にワーカーとアクアムの姿はラウンジの人混みの中に消えていった。


 奏吾が連れてこられたのは申請受付と書かれた看板が下がるカウンターだった。


「さてさて新人くん。文字は書けるかな? 取りあえず書類に名前と年齢を書いてほしいんだけど。書けないなら言ってくれればおねーさんが代筆するよん」


 そうリックが出したのは一枚の紙とインクと羽ペンだった。

 さてどうしたものか――と思いながら、奏吾はチートの“異世界言語理解”があるならと一か八かでペンを取ると書類に必要事項を書き始めた。


「おっ、文字は大丈夫みたいだね。どっかの貴族の次男とか三男さんなのかな~」


 書いた先から覗き込んでいたリックがそう言ったのを聞いて、チートが働いている事に奏吾は胸を撫で下ろした。


「ふむふむソーゴ・クドーくんね。歳は十七歳か――」


 奏吾本人は日本語で書いているつもりなのだが、手で書いているのは見知らぬ文字や数字である。ただそれでもその内容が何を示しているのか奏吾自身が理解できている事に驚きつつ『凄いな異世界言語理解(チート)』と奏吾は胸の中で呟く。


「あの、この所在申請のところなんですけど――俺まだこの街に来たばかりでどこの宿に泊まるとか決まってないんですけど」


「ん? あぁそこは特に書かなくてもいいよ。ただ指名依頼とか強制依頼とかその他連絡事項があった時にギルドに来てもらわないと伝えられなかったりするだけだから。この街の冒険者は依頼で出ていたりとかで、何か理由でもない限り毎日ギルドに顔を出す連中ばかりだから、あんまり意味ないんだよね」


「その下にある入寮申請の希望っていうのは?」


「それはこの街特有のシステムで、冒険者ギルドの保有する宿泊寮があってね。普通の宿よりも安い――だいたい月で半額ぐらいかな住めるアパートみたいなものなんだ。

ただ宿屋みたいにベッドがあるとか食事出るとかないからね。部屋を貸し出すだけで、炊事選択、調度品なんかは自分で用意しないといけない。寝るのは野営用の寝袋、食事は自炊か外で食べる。みたいな感じかな。

これでも新人とか若手には人気なんだよね」


「じゃぁ、俺も希望して大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。ただ空きがあるかどうか――。さっき言ったように若手の利用者が多くてさ。常にいっぱいいっぱいなんだよね。でもまぁその分入れ替わりも激しいからもし待つとしてもそんなに時間はかからないと思うけど――」


 まるで学生寮だな――と呟きながら奏吾は書類に希望すると書き入れた。

 ベッドが無いのは問題だが、奏吾は元の世界に居た時もマンションに一人暮らしだった。

 食事ぐらいは簡単なものなら作れるし――あまり問題は無いと思ったからだ。


「書けたかな? うんうん。大丈夫だね。じゃぁこの申請で登録させてもらいます」


 リックは奏吾の書いた書類を斜め読みすると、まるで決まり文句のようにそう言った。


「さてさて、これから冒険者として頑張ってもらう訳ですが、この冒険者ギルドで登録してもらうに当たってそのシステムと注意事項などを説明させてもらいます。

 ~と言っても、たいていみんな知ってるから説明しなくても良いと思うんだけど、しなかったらしなかったで色々問題で、おねーさん怒られちゃうから、これからおねーさんがながーい話しするの、取りあえず聞いてるフリだけしといてね」


「フリでいいんですか!?」


「だって、つまんないよ?」


『当たり前でしょ?』と言わんばかりにリックは小首を傾げる。どうも軽い感じのお姉さんである。

 リックはそれから佇まいを直すと『コホン』と一つ咳払いをしてから浪々と語り始めた。


「えっと、じゃぁまず冒険者ギルドとは、冒険者の互助団体組織です。その始まりはゾンマー連合だと言われています。

国の管理下では無く独立した組織で、各国の援助や依頼の仲介料や素材売買の利益などで運営されています。

 その後大迷宮を擁するこの国でもその有用性が論じられ、およそ三百年前に勇者の口添えによって王都ヘルブスト、貿易港のあるオットー、そして大迷宮のあるハルシャの三つが創られました。

 現在では王都ヘルブストの冒険者ギルドを本部として、大聖堂のあるセッテンブルグや街道沿いの集落まで、大小の差はありますが支部が存在します。

 また冒険者ギルドの発祥の地とも言われるゾンマー連合各国は勿論、北西の傭兵国『ウル―』など我が国との友好関係にある国にもギルドは存在し連携を取っていますので、冒険者のギルドのある場所でなら何処でも今回の登録は有効になります。

 冒険者ギルドでは主に冒険者の登録管理、冒険者の税の徴収整理。収穫物の買取り流通換金、依頼の受付に発布斡旋など他にも細々とした業務を行っています。

 冒険者は登録制で登録者には冒険者の証明として認識証が配布されます。

これはさっきの書類を元に創るので明日にでも取りに来てね。

で、え~っと基本冒険者ギルドでの依頼は冒険者しか受け付けできません。ですので依頼を受ける時など必ずその認識証が必要になりますのでご注意ください。

紛失、盗難などにあった場合は有料ですが再発行が可能です。

また他の支部を利用される場合は、その支部で一度認証登録が必要です。これは持っている認識証を確認して書類に登録するだけですので、一度登録してもらえばその後は必要ありません。

一度登録して頂ければ、なんらかの理由で失効にならない限り死ぬまで有効期限などはありません。

ただし依頼(クエスト)位階制度(クラスランク)があり、その更新が必要になる場合があります。位階制度は下から八つあり、登録すると皆一番下の『大Ⅶ(クラス・セプ)』になります。

これは冒険者の力量やギルドへの貢献度や依頼の成功率などを参考に、『大Ⅳ(クラス・クヴァル)』まではギルド長の独断で、それ以上はギルド長の推薦により王都の本部で承認することによって上がります。

ギルドの正式依頼の場合、ご自身の位階(クラス)の一つ上のランクの依頼までしか受け付けできません。

依頼についてですが、依頼には大きく分けて四つの種類があります。まず先程の正式依頼ですね。発布する際には掲示板にたいてい貼ってあります。時々職員から斡旋される場合もあります。

二つ目は指名依頼。これは依頼主――ギルドや仲介した依頼者から、冒険者を指名された場合の依頼です。ただし強制では無いので依頼内容などを聞いて自分の実力に見合うか判断して受けるか否かを考えてください。

三つめは強制依頼です。強力な魔獣や、その集団が現れたりした場合、その付近にいる冒険者が強制的に事に当たったりする場合ですね。他にはあまりに素行の悪い行いをした冒険者に罰として公衆トイレの掃除をさせたりする場合もこれに入ります。ようは断れない依頼って事です。この判断はギルド長の独断に任されています。

最後に事後依頼です。その言葉の通り事が終わってからギルドが依頼として認可する場合です。例えば未知の素材発見をしたとか、受けていなかった依頼にも関わらず偶然にもその依頼を達成してしまった場合などがこれに当たります。ただしこの場合その証明になる証拠が必要になり、その後ギルド長の認可が必要です。

――ってながっ、ね? 一応此処までが新人研修なんだけど――いまさらだよね」


 とリックは疲れた表情でそう締めると口調も元に戻っていた。たしかに長かったと奏吾も思った。しかしその殆どは奏吾が元の世界で慣れ親しんだ“異世界モノ”に出てくる冒険者ギルドと類似していた。


「さてさて、と言う訳で今からソーゴくんは冒険者となりました。認識票は明日の朝には出来てると思うから、受け取りに来てね。それと同時に依頼も受けれるようになるから。

 寮については空きがあるかこれから調べるからちょっと待ってほしいんだけど――、取りあえずひと段落したからワーカーさん達の所に行こうか? どうせまだ親父の所にいるだろうし」


「よろしくお願いします」


 そう言われて奏吾はリックの後をついて行く。二人が向かったのは二階にある一番奥の部屋だった。

 リックは扉の前で深呼吸をすると扉をノックする。


「ギルド長――ワーカーさんのお連れをご案内いたしました」


 ギルド長――!? 奏吾はギョッとなる。

 確かワーカー達はリックの父親に会いに行った筈だった。そしてその父親は『執務室』にいると話ししていたことから、奏吾もギルドの関係者だという事は察していた。

 が、しかし、しかしである。

 先ほどの説明通りなら、ギルド長とは冒険者のクラスランクを独断で決めたり、本部に推薦したり、強制依頼権限を持っていたりと、とんでもない人物の筈だった。

 それがこの軽めの自称おねーさんの父親だという事に思わず驚きを隠せない。


「入れ」の一言と共に二人は部屋の中へと入った。

 中には三人の男性が座っていた。向かって右側にワーカーとアクアム。そして二人に向かい合うようにいるスキンヘッドの初老の男性。

 状況的に言えば彼が――、


「おっ、ソーゴ登録終わったのか。そういえばお前金持ってたのか? 無一文だと思って登録するときに渡そうと思っててさっき渡すの忘れてたんだが――」


 ワーカーの言葉に奏吾は再びギョッとする。


「お金必要だったんですか?」


「ああ、登録料の千五百 At(オータム)――」


 奏吾はリックに振り返る。リックは暫く目を泳がせていたがそれから少しだけ舌を出しながら、


「メンゴメンゴ忘れちゃった、テヘッ!」


 と笑った。一同が唖然とする中、スキンヘッドのギルド長ディック・シードだけが額を抑えて項垂れた。




「メンゴメンゴってお前それでもギルド職員か!」

 リックの態度にディックは怒りを顕わにした。

「別にいいじゃない、ちょっと忘れただけでしょう?」

「忘れただけで済まされるかバカモン!!」

「バカって言った方がバカなんですぅ~」

「こ、この減らず口が~」

「ってか、親父だってしょっちゅう忘れるじゃん」

「何を忘れたって言うんだ!」

「トイレの電気点けっぱなしだったり、水道の水流しっぱなしだったり~」

「っか、関係ない。仕事では忘れてなければいいんだ。私生活はノーカウントだ」

「えっ~、仕事中だってやってるじゃん。トイレのドア開けっ放しでこないだ後輩のギルド職員の女の子泣いてたよ『お父さん以外の初めて見ちゃった~』って」

「えっ!?」

「他にもレンタルしてたAV返すの忘れてたでしょう。こないだ母さんが恥ずかしそうに延滞料払ってたし……」

「あっ、」

「それに……」

「ごめん、悪かった。だからもう……」

「そう言えば、こないだの街の会合で『どんだけ~』って言いまくってたんだって? 『儂でももうそれが古いのは知ってる』って隣のお爺ちゃんが……」

「お願い、許してお願いだから――」


 続く続く、リックの父親への反撃。果たしてディックは父親の威厳を取り戻せるのか?

 そして忘れられていく奏吾の冒険者登録料の行方とは?


連載危うい次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』

♯7 『親父の生業』 是非ご覧ください。


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