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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第一楽章 異世界来る前からチート持ち
5/49

♯5 冒険者の街

第五話です。

誤字脱字の報告、感想等ありましたらお待ちしております。

次回は月曜に更新したいと思います>>


「じゃぁ何か! 気づいたらあの森の前に居たって事か?」


「えっと、まぁそう言うことになります。だから師匠――俺は師父って呼んでましたが、その師父の言う通り冒険者になるしか生き残れないなぁ――でもどうすれば――って思ってたら」


「オレ達が襲われてたと――。か―ッ、世の中広いな、そんな魔導士がいるだなんて」


 呆れたように言うワーカーに奏吾は苦笑しながら小さな罪悪感が胸をチクリと刺すのを感じた。


 あの後、怪我した冒険者達の応急処置を終えると、倒れている盗賊達を縛り上げ、アクアムの商品である奴隷たちが乗っていた馬車へと二体のヘビーベアの遺骸と共に放り込んで商隊は再出発した。

 奴隷たちは残念ながら、馬車から徒歩になってしまったが、襲われた場所からなら歩いても二時間もかからず街につく。大方問題ないだろうというアクアムの考えであった。

 その為街への到着は結局夕暮れになってしまう。


 それから奏吾は冒険者たちと共に、彼らが乗っていた馬車に乗せてもらい、最初の目的であった丘の上の街『ハルシャ』へと向かうことになった。


 ただその車中で、先ほどの戦いを見ていた冒険者達からの質問攻めに合っていた。


 そこで奏吾が披露したのは、兼ねてより『異世界モノ』の主人公になったのなら――という妄想で考えていた言い訳だった。

 しかしそれが通じるかどうかは半信半疑だったと言わざる負えない。だからこそそれを事もなげに信じてくれた冒険者たちに、嘘をついたという妙な罪悪感があった。


 彼が語ったのはこのような噺だ。

 奏吾はそもそも孤児だった。おそらく両親に赤ん坊の頃に捨てられたのだと。

 それを救ってくれたのが“師父”と呼んでいた魔導士である。

 魔導士はおそらく“ゾンマー”の何処かにある山奥に人知れず暮らしていて、弟子である奏吾を育てた。

 先ほどの魔術はその師父から学んだものである。

 ただし言われるがまま修行していたので、その理論やらはよく解らない。

 そんな状態で十七年間、外界から完全に隔絶された中で師匠と二人で生きてきた。

 しかし今日、急に“師父”から呼び出され、


『お前も十七になったのだから、冒険者にでもなって広い世界を見て来い』


 と一言。そもそも世間の事も何も知らなかった奏吾が“?”マークを浮かべていると、師父の魔術が発動、気付いたらあの森の前にいた――。

 なので世間知らずどころか、この世界で当たり前の事が自分にはまったくわからず――また自分の言葉がこの国の人に伝わるのかもわからない状態で、取りあえず師父に言われた通り『冒険者』とやらになろうと思っていた所にあの商隊襲撃に遭遇したのだと。


 自分で語っておきながら正直こっぱずかしさ全開の設定である。

 日本にいた頃にこんな設定の小説を読んでいたのなら『中二病乙』と一言言ってしまう所だ。

 ただしこの噺は全てが嘘という訳でもない。

 いきなりあの森の前に送られたのは事実であるし、あの似非医者がくれた異世界言語理解が事実かどうかも定かではなかった。

 そして何より自分にあの“力”を制御できるようにしてくれた“師父”の存在。そしてその師父と修行した事実は嘘では無かった。

 逆に言えば真実が内包しているからこそ、信じてもらえたのかもしれない。

 奏吾は本来ならツッコミどころ満載の自分の与太話にそう理解を示すことにした。


「それは、大変だったな――で、ヘルブストに来てそうそう大金持ちか――羨ましいぜ」


 そう言ったのはワーカーの仲間である斧使いのダットだ。


「えっ、金持ちって――?」


「だってよ一体で大Ⅲ(クラス・トリ)のヘビーベアを二体討伐。それにお尋ね者だったドープスと盗賊およそ二十人を死者なしで制圧。ドープスは懸賞金かかってやがるし、盗賊にも何人か懸賞首がいるかもしれねぇ。依頼(クエスト)内容で言えば大Ⅱ(クラス・ドゥ)いや下手すりゃ大Ⅰ(クラス・ウヌ)の案件だ。そりゃ報償もガッポリってもんだぜ」


「でも、あれは皆さんの――」


「何言ってやがんだい、ほとんどボウスがやっつけちまったんだ。お前さんの稼ぎに決まってやがるだろう。なぁ旦那?」


 そう言うのは槍使いのボッツだ。ワーカーはそれに力強く頷く。


「当たり前だ。まぁオレ達はオレ達でアクアムさんから護衛料が支払われる。ソーゴが心配する必要はないさ」


「えっ、でもワーカーさん。オイラたち最後しくじったんじゃないッスか?」


 そう心配そうに聞くのは斥候のキッパだ。しかしワーカーは笑って答える。


「オレもそうアクアムさんに言ったんだがな、あれはアクシデントだし、結果として商品は守り、往復の護衛とヘビーベアで怪我を負ってまでヘビーベアを足止めしたって事で依頼料は5割増で支払ってくれるそうだ」


 ワーカーがそう言うと、女性の魔術師レッティが「ヤッター」と声を上げる。


「ウチ、今回は依頼失敗だと思ってたんだよね。これで、今月分の支払いがなんとかなる~!」


「レッティさんは酒代に回さなければ、ボクよりも稼いでる筈なんですけどね――」


 レッティが喜ぶのを隣にいるもう一人の男の魔術師、ジャッシュが呆れて返す。


「あのオッサンもうちのリーダーと同じでお人好し過ぎるぜ。まぁ、それでも今回はルルスがいない状態だったんだ。それでヘビーベア二体相手に死者無しで本拠地(ホーム)に帰れる。小僧には感謝が言い尽せないほどだぜ!」


 ダットの言葉に冒険者達はうんうんと首を縦に振る。


「でも俺はまだ冒険者じゃ無いし――」


「それは大丈夫だ。オレがギルドには取り成す。どっちにしろ依頼の達成報告をしにギルドに行かなきゃならないしな。あれはお前さんの成果だ。それに他人の稼ぎを横からかすめ獲るなんて、そんな姑息な真似はオレ達『サイドB』の名折れだしな」


ワーカーがそう言うと『ハイ、ハ~イ』とレッティが手を上げる。


「ねぇどうせなら、うちのギルドに入らない? アンタメチャ強いし、今うち魔術師一人欠けてんだよね」


 奏吾はそこで押し黙る。

 パーティに入れば否応なしに自分の“力”について説明せねばならないだろう。

 そうで無ければ連携は出来ないし、役割分担や作戦に影響も出てくる。

 できれば――あまり他人に内情を探られてくは無い。


 しかし、馬車の中で見ず知らずの得体のしれない自分を――それも“化物”の自分を“力”の一端を見ていながら普通に、むしろフランクに接してくれる彼らに好感を持っているのも事実だった。


「まぁ、そんなのは冒険者になってからでいいじゃねぇか。それに今回の報償で結構な稼ぎになんだ。ワザワザ死と隣り合わせの危ねぇ“冒険者”になる必要も無ぇ。決めんのはボウズ次第――それでいいじゃねぇか。なぁ?」


 ボッツはそう言いながら奏吾の肩を叩く。レッティは「ちぇ~」と残念そうに呟いた。

 奏吾はそれに苦笑する。

 

 そうこうしていると馬車が止まった。


「おっ、街に着いたみたいッスね」


 キッパの言葉に外を覗くと検問のように入口に兵士が立っており、アクアムが何やら噺をしていた。

 そして他の兵士たちが馬車の中を覗いていく。それからすぐに許可が出たのか馬車は再び動き出したのだが、五分もしない内に再び止まった。

 すると皆が馬車を下り始めたので奏吾もそれに続いた。


 そこは広場のようで周りは如何にもと言った黄昏に照らされた中世ヨーロッパの街並みが並んでいた。


「スゴッ――!」


「そっか、ソーゴは山の中からやって来たんすもんね。どうっすか? 此処がオイラ達のホーム『大ハルシャ』っす」


 キッパは誇らしげにそう言った。



「なんで、キッパが自慢してるんですか。それにまだ“一部”でしょう?」


「でもジャッシュ。聞いたらソーゴはオイラ達と歳近いじゃないっスか。友達になれそうな気がするっス。友達にはオイラの好きなモノは自慢したいッス」


「アンタ――よくそんなこっ恥ずかしい事言えるね」


「えっ、レッティはそう思わないッスか? オイラは意外にレッティの好みだと思ったんッスけど」


「――! それは困る」


「なんでジャッシュが困るのよ。それにウチはもっと綺麗系の顔の方が好みかな。ソーゴって、歳の割に童顔だし、可愛いって感じ?」


「――ハハハ」


 再び苦笑が漏れる。と言うより、正直このノリについて行けない所もある。

 でも何故だろう――日本にいた時より、こんなノリに嫌悪感を覚えない自分に奏吾は妙に戸惑っていた。



「おい、お前等無駄話してんじゃ無ぇよ。教院行って治療してもらうぜ」


「えっ、でも報酬は――?」


「旦那が軽傷だったからな。ボウズの登録ついでにギルドへ報告に行く。あの荷台を持っていくついでにな」


 そう言ってボッツは盗賊とヘビーベアの死体が詰め込まれた馬車を指さした。


「ボウズは旦那について行け。テメェ等はさっさと行くぞ!」


「えっ、じゃぁなんでオイラ達は下ろされたんッスか?」


「この馬車は奴隷たちが乗るからに決まってるだろうが」


「ウチ等怪我人なのに歩けってこと~!」


「レッティさんはボクより、軽傷のはず――ガフッ――」


「あら、どうしたのジャッシュ! ダットさん、ジャッシュ歩けないって!」


 見事な右ストレート見ていた所為か、ボッツもダット「サッサと行くぞぉ~」と言って背を向けた。「ちょ、ちょっとまって~」と言いながらレッティがそれを追いかけていく。


「ジャッシュ――色々残念ッス」


「何も言わないでください」


 キッパが倒れるジャッシュに肩を貸す。


「じゃぁ、ソーゴまたッス。その時は友達になるッス」


 キッパは満面の笑みを浮かべて三人を追いかけはじめた。

 恥ずかしげもなく――。

 そのこそばゆい感じが、奏吾にはちょっと嬉しかった。


 暫くして三台の馬車が動き出した。先頭を行くのはアクアム達奴隷商の馬車。真ん中は先ほどまで奏吾達が乗っていた奴隷が入った馬車。そして最後に盗賊達を詰め込んだ馬車が一列に並んで街の中を進んでいく。

 奏吾はその御者台に座って、物珍しそうに街並みを見ていた。

 馬を操るのはワーカーだ。


「そんなに珍しいか――? 本当に街来るのは初めてって感じだな」


「え! えぇまぁ――」


「キミが言った事を信じないわけじゃ無かったが。でもそのままじゃもっと驚くことになるぞ」


「驚く――?」


 それ以降ワーカーは何に驚くのか聞いても「見てれば解るとしか答えてくれなかった」

 十分程進むと馬車は再び検問のような場所についた。が、今度は特に何も無いまま素通りで馬車は進んでいき、大きなトンネルの中へと入っていく。


 整備されたトンネルには壁に嵌めこんだ屋台のような店が並び、蝋燭を灯しているわけでも無いのに中は明るかった。

道は軽く傾斜がついていて螺旋のように大きく右にカーブして馬車はどんどん下っていく。

 アーケードのようなそのトンネルを進むこと二十分。

前方の光が強くなり、そして開けた場所へと出た。


「――ッ、何これスゴッ!」


 奏吾は口をあんぐりと開けてその景色に飲まれていた。ワーカーは横からその様子をみて満足そうに告げる。


「凄いだろ? これが『迷宮大ハルシャ』そしてオレ達の本拠地、冒険者の街――『ハルシャ』だ」


 奏吾が眼下に見たのは、洞窟から続く崖下の道の先に、崖を背にして半円に切り取った大きな壁に囲まれた、地上のそれの三倍もあろうかという西洋の街並み。そしてその壁の向こうに広がる森や川、山がそびえ、地平線まで続く大自然が夕日に染まる光景だった。



「それで、どこまで行くんですか?」

 奏吾がワーカーに聞くと、ワーカーはもう少しだと答える。

 あれからかれこれ三時間ほど崖を下っている。しかしいっこうに下の街に着く様子が無い。

「これ、下に向かってるんですよね」

「そうだ、下にな」

「でもさっき上から見た景色から下っても下っても変わらない気がするんですけど」

「ん? ソーゴ、まさかその夕焼けの景色、本物だと思ってるのか?」

「違うんですか?」

「違う違う、そんな訳あるか。地面の下よ此処。なのに夕日が見えるっておかしいだろ? あれはプロジェクションマッピングだ」

「プロジェクションマッピング!?」

「知らないか? 東京駅とかでプロジェクターの映像を――」

「いや、知ってます。というか下手すりゃ皆さんより知ってる筈なんですけど、っていま東京駅って言いましたよね。異世界じゃ、トリニタじゃないんですか、ここ」

「冒険者ってのは体力勝負だ。だから常に訓練を怠ってはいかん。だからこの道も下につくまでに歩いて12時間かかるようになってる」

「十二時間!! って、東京駅のくだりスルーしましたよね」

「いや、忘れてないぞ。でも此処は地面の中だから、周りの景色が寂しいだろう? そこを十二時間。飽きるだろ? だからプロジェクションマッピング映し出して飽きないようにしてるんだ。因みに今映ってるのは十二時間かけて陽が沈む『長い夕日』って映像だ」

「長すぎです、っていうか、やっぱり東京駅についてはスルーですか!? それに今俺達馬車で下りてるから意味ないですよね!」

「心配するな、それが冒険者クオリティだ」


冒険者になるためにはまだ長い道のりが待っていた。果たして奏吾は飽きることなく夕日が沈むのを目撃できるのか、そして『東京駅』の真相とは、


謎が謎を呼ぶ次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』

♯6 『冒険者ビルド』 是非ご覧ください。


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