♯42 詐欺師の策略
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「ルチーニが消えたそうですね。決闘から一週間、意外と粘りましたね」
決闘から九日経ったその日、奏吾はアーニャと共に冒険者ギルドのギルド長の執務室へと招かれていた。すると其処にはギルド長のディック・シードの他に、彼の娘でギルド職員でもあるリック、そして冒険者のワーカー・ビヨンドも先客として奏吾を待っていた。そして椅子に促されて早々、先のように口火を切ったのだった。
「どちらかと言えば、粘ったのは彼奴の貯金だがな……」
ディックはそう苦笑しながら禿頭を掻く。
「オレも見たかったな、ソーゴがあの阿保をコテンパンにするところ……」
「ワーカーさんはお子さん生まれたばっかりでしょう。こんな阿保な事にかまってないで、家族サービスしてください」
悔しそうに笑うワーカーに奏吾がそう笑いかけると、ワーカーは照れ、奏吾の後ろに控え立っているアーニャも微笑んだ。
「アホな事って言うけどソーゴくん。正直、本当に大変だったんだからお姉さんもバテバテで、ほらお肌が……」
「その阿保のやる事に冒険者ギルドが、ついでに王国まで乗ったんです。その責任はとってもらわなくちゃ……」
言葉の割に思いのほか元気そうなリックに、奏吾はそう悪戯そうな笑顔を向ける。
「まぁ、あの依頼は今、この場をもって取り下げますんで赦してください」
奏吾がそう言うとリックは一度父親の顔を伺い、ディックが何も言わずに頷くと、失礼しますと言って執務室を小走りで出ていった。
「確かに……ビフドンの独断だったとは言え、あのルチーニの姑息な姦計を見落として坊主に決闘をさせた事は本当に悪かった。ギルド長として正式に謝罪す」
そう頭を下げるディックを奏吾は慌てて止めた。
「やめて下さい、自分もギルドの皆さんにご迷惑おかけしましたし――」
「何より、今回の件でかなり儲かったしな」
そう横槍を入れたのはワーカーだ。
今回、件のルチーニ『にゃ』監視依頼は、決闘の決着後一時間もしない内に第一層階段部屋の冒険者ギルド支部で正式に受理された。其処から冒険者ギルドの地獄のような日々が始まった訳だが、実は受理する際にとある問題が生じていた。
それが宣誓書にも書かれていた、ルチーニの罰金十万Atである。殺到する冒険者に怯え逃げ出したルチーニは、依頼を出す前に発言した『にゃ』六十万も支払わずに宿屋へ逃げ込み籠城を決め込んだ。
冒険者ギルドと騎士団はすぐに乗り込んで支払いを命じようとしたが、それに待ったをかけたのが奏吾だった。
依頼の報酬に冒険者に支払われる五万は、依頼主である奏吾が支払う事になる。しかし、今のようにルチーニが支払いを無視し、逃げ出した場合。奏吾がずっと自腹を切るのは宣誓書に反するのではないか? とそう進言したのだ。
宣誓書に書かれた事が受理された時点で、ルチーニの支払いは義務である。しかし、ルチーニに逃げられてはこの依頼は奏吾にとってデメリットしかない。
そこで奏吾は元々派閥争いとしてルチーニに、ましてやキノック伯爵派に失点を与えるために、この決闘を容認したギルドと騎士団にある計画をもちかけた。
現在、ルチーニを囲んでいる冒険者包囲網のお陰でルチーニは一層の宿屋に引き籠っている。しかし、此処で無理に支払いを強要すれば、ルチーニは強硬に逃亡する恐れがあった。その場合、アーニャ誘拐未遂の時のように、雲隠れしほとぼとりが冷めた頃戻ってくる可能性がある。
だからこそ出来るだけルチーニがこの街に戻ってこられないように……そしてあわよくば、キノック伯爵家に失点を与える事が出来ないかという訳だ。
そこで奏吾は、宣誓書の、
『決闘以後ルチーニ・キノックはソーゴ・クドー、並びにその所有物であるアーニャネイキッドに関わらない。これはソーゴ・クドーがルチーニ・キノックより何かしらの被害を受け、尚且つそれが立証されれば、その時点でルチーニ・キノックは宣誓違反とみなす。《その処罰如何はソーゴ・クドーに全権がゆだねられる。この件に関してのソーゴ・クドーの裁定を冒険者ギルド並びに王国も異議を唱えられないものとする。》』
という一文を強調し、ルチーニに被害を受けている為その処罰として、ルチーニが『にゃ』と言って、ルチーニ自身が支払いに応じない場合、冒険者ギルドに預金されている資金から奏吾の預金へと送金されるようにしたのだ。
本来は相手側のルチーニもいなくてはこのような手続きは出来ないのだが、宣誓書の内容と騎士団の認可により特例として認められた。日本だったらこんな事は絶対に在りえないのだが、流石異世界……と奏吾が苦笑した程、思いのほかギルドも騎士団もノリノリだった。
自動的に一『にゃ』につき十万が奏吾の元に送金されるのだが、件の依頼の報酬五万もこの奏吾の預金から自動的に支払われる事になった。ちなみにギルドが依頼を受理すると、報酬の二割分を報酬と別にギルドに納める必要がある。これも奏吾の預金から支払われる。
つまり報酬の二割、一万Atが依頼一つで支払われるのだが、すべてギルドの預金システムの中でのやり取りの為、プラス幾ばくかの手数料もギルドに入る事になる。
なので実際、奏吾の手元に残るのは三万強といったところだ。
これはギルドとしても充分に旨味がある話しであり、依頼している間中は自動的にルチーニの預金が減り続けていく事になる。
ルチーニをこのまま冒険者包囲網で監禁状態にし続け、ジワジワと知らぬ内に預金を根こそぎ奪ってしまう。それから預金が無くなってしまえば、今度は騎士団の出番である。
預金がゼロの状態では奏吾への送金は不可能になる。結果、奏吾に対して支払わなければならい事が出来ず未払いである事が、冒険者ギルドの公式な書類として残る事になる。
もしこれが奏吾への現金の手渡しならこうもいかないが、書類で残っている以上、ギルドが騎士団に要請すれば王国騎士団が取り締まる事になる。
その場で未払い分を支払える現金があれば別だが、基本ファンタジーではお馴染の『アイテムボックス』などのなんでもいくらでも入る魔法、もしくはアイテムが無いこの世界では、大金を常に持つ事は厳しい。ましてやこの国の貨幣は、三代目勇者のお陰で製紙技術が発展しているというのに、すべて金貨や銅貨などの硬貨であるため物理的に不可能に近いと考えられる。
もし、持っていたとしても一般に流通している最高額の硬貨でさえ十万Atの白金貨である事を考えると、その白金貨一枚分が一回の『にゃ』で消える事を考えれば、じり貧になっていくのは目に見えている。
実質、このハルシャにいる限りいつかはルチーニはその場での現金払いは不可能になる。八割以上の確率でルチーニは騎士団にしょっ引かれると奏吾は踏んでいた。
その時点でルチーニ伯爵の三男が王国に捕まるという事実で、キノック伯爵はに汚点を与える事ができる。
そして何より、このハルシャいる限り冒険者の目を気にし、預金が知らぬ内に減る事に怯え、現金を大量に持ち歩かなくてはいけなくなる。
冒険者の冒険者による冒険者の街ハルシャにおいて、これはまさに命とりである。
返済の為には稼がなくてはならず、稼ぐためには冒険者達の人目に触れる恐れがあれ、冒険者に見られれば預金は減り、その預金を増やす為にはやはり稼がなくてはならないという負のスパイラル。
これにもし預金が底をつけば騎士に捕まり、その場をやり過ごす為には、大量の現金を持ち歩かなくてはならず、とはいえ大量の現金を持ったまま稼ぐのは冒険者としては枷をつけているのと同じで、当然移動速度は遅くなる。
移動速度が遅くなればなるほど、この冒険者の街では他の冒険者にみつかる可能性が高くなり、隠れながら稼ぐなんて事は不可能に近く、結果また預金が減っていく。
と、どこまでも金に付き纏われるようなこの状況で、ルチーニがこの街にいられるとは奏吾は勿論、レッドロックとビフドンもそうは思えなかった。
正直奏吾もこの計画が何ヶ月単位で成功するかは解らなかったが、まずはルチーニを預金ゼロまで追いつめる事が最優先であり、それまでは冒険者ギルドも騎士団も、ルチーニをこの階段部屋から出さない為に、手を出さないように決めたのだった。
しかし此処から奏吾達も予想外の出来事が起こった。虚偽の申請を含めた冒険者達が殺到したのだ。まさに暴動に近いような状況までいき、少なくとも第一層階段部屋の冒険者ギルド支部はそれだけで業務がストップしそうな勢いだったらしい。そもそも本当にルチーニが『にゃ』と言ったのかさえ確認が取れない状況で、此処まで混乱を起こすとは奏吾達も思ってはおらず、急遽依頼の報告は書類紙面で申請し、ルチーニの居場所をギルド職員がギルドに逐一報告した上で審議し、現実味の高いと判断されたもののみ受理するという形を取るという暴挙にギルドは出るしかなかった。
それで少しは落ち着くかとも思ったのだが、冒険者達もさるもので、ルチーニが部屋の中で奏吾に対する恨み言を呟いているという悪だくみで申請を上げていく。もう此処まで来るとギルドも虚偽かどうかなど判断はつかず――結果、ソレっぽいのを全部受理するという信じられない状況になった。
噂は第一層だけで済まず、時間が経過するほど広がりハルシャの街や第二層の階段部屋まで届いたという。流石に第一層の階段部屋以外での申請は虚偽の可能性が高いとして対処しやすかったが、その為第一層の階段部屋ギルド支部は、ハルシャの街から応援を頼み不眠不休で働く羽目になった。
三日経ち、四日経ちとギルド職員達の疲労の色が強くなっていくのを見て、流石に奏吾もレッドロックやビフドンも、この状況でルチーニの預金が尽きるまで待つのは無謀ではないかと考え始めるようになった。
その状況が一変したのは六日目の夜だった。ルチーニの預金が早くも尽きたのだ。
あまりに異常な量の申請に、奏吾の予想を遥に超えたスピードでルチーニの預金は食い尽くされたらしい。ビフドンはすぐさま騎士団にルチーニの“取り立て”を申請。翌日の早朝、つまり決闘から七日目、レッドロックはビフドンを連れて遂にルチーニの元へと向かった。
ルチーニは最初、本人の了承も無しに預金をギルドが勝手に崩したことに腹を立てたが、宣誓書に書かれた奏吾からの正式な処罰だと言われ、どんな言い訳も通用せず、ましてやとんでもない勢いで増えていく未払い金と、レッドロック達に立てつく間にも『にゃ』を連発して増えていく罰金を現金で支払う程の現金を持ち合わせはおらず、見事に騎士団の詰め所へと案内されたのだった。
ルチーニは結局詰め所に一泊しただけで、ハルシャの街から来た彼の侍従であるマイタが伴ったギンリエという奴隷商に未払い金を肩代わりしてもらい出所する事となった。
出所したルチーニはそのまま第一層の階段部屋を出てハルシャの街のギンリエの奴隷商に匿われた。どうやらギンリエはドープスの代わりに用意した奴隷商らしく、彼の奴隷達を売る事を条件に未払い金を肩代わりしたらしい。
それが三日前の事である。そこからルチーニは一歩も外に出ず、そのお陰で件の依頼も落ち着く事になった。誰でも入れる宿屋ならまだしも、奴隷商の中の話声までは冒険者は聞くことも不可能と判断し、以降の申請がほぼ虚偽だと判断できたからだ。
それでも虚偽の申請が後を絶たなかったが、昨日予想外の所から申請が出た。
大迷宮の上、つまり地上街の冒険者支部である。
此処の酒場でルチーニを見かけ『にゃ』と言ったというのだ。すぐさま地上街支部からハルシャ支部へと連絡が回り、ギルド職員がギンリエの商会に確認した所、ルチーニの姿はもう無かった。
どうやら隠れるように商会から抜け出し、ハルシャの街を出たらしい。その途中で酒場によったのを目撃されたようだった。目立つのをおそれたのかそれともギンリエに売った為か、商会には彼の奴隷が何人か残っていたそうだ。
それ以降の彼の行方は解っていない。
「まぁ、結果としちゃぁあのルチーニを街から追い出し、キノックにも×つけてやって、ギルドも儲かった。坊主には感謝の言葉しか出てこねぇな……」
ディックはそう言ってニヤリと笑った。
「俺としては、なんかあの決闘から向こう自分がアイツに負けず劣らずの小悪人に見えて自己嫌悪してますよ」
「そんなことありません。あれはあのオークの自業自得です。むしろ奏吾様の頭のキレは翔さんに値します!」
アーニャがそう褒めちぎるものだから、奏吾は照れ臭くなる。ディックもまた「違え無え」と頷いている。
「それにしても親父さん短期で決着がついて良かったな。これで明日の“涙の日”までこの騒動が続いてたら、雰囲気も何もあったもんじゃないだろうし」
「だな、あのアーロンでさえ部屋に籠るってんだ、流石に涙の日にギルドだけお祭り騒ぎって訳にはいかねぇわな」
「二代目勇者のお祭りですよね……確か……みんな家でしめやかに祝うとか……」
「そうだ、アーニャに教わったのか? その日ばかりはみんな家やら宿に籠って“涙火”灯して祈りを上げて静かに過ごすんだ」
「“ナミダビ”ですか?」
「奏吾様、水を満たした皿の上に緑色の蝋燭を立てた灯の事です」
「あぁ、最近色んな店で売ってたあの蝋燭……涙の日の為のものだったんだ。成程……」
「ソーゴ、よかったら明日家に来いよ。寮でアーニャと二人だけで祝うのも寂しいだろう?」
そう言うのはワーカーだった。その言葉にアーニャは少々むくれた顔になる。
「ははは、子供が生まれたばかりの最初の祝い事を邪魔する程、鈍感じゃないですよ俺。ただでさえ週一でお邪魔してるのに。それに先約があるんですよ。ユナちゃんから、アーニャと一緒にお呼ばれされてるんです」
「そっか、それは仕方ないな……」
「また来週には伺いますよ。エストン君に逢いに……そう言えばユナちゃんで思い出したんですけど、アクアムさんは今日来てないんですか? アクアムさんの使いの方に、今日此処に来るように朝言われたので、てっきりアクアムさんもいるものだと思ってたんですが……」
「あぁ……それな、アクアムなら今、さっき言ったギンリエの店に行ってる」
「ルチーニが匿われていたあの奴隷商ですか?」
「どうやらあの野郎の未払い金、奴隷売っても足りなかったみたいでな。その癖、ギンリエが肩代わりした金全額返済しねぇで、とんずらかましたみたいでな。このままじゃ商会潰れちまうってギンリエの奴が泣きついてきたんだよ」
「えっ、でもその奴隷商に数人奴隷を残してたんですよね? って事は何人かは連れていったって事でしょう? 彼等も売れば……」
「ギンリエの話しじゃそれでも足りなかったんだとよ。だけどこの街から逃げるにしても、魔の杜がある。どうしても護衛は必要だから二人だけ連れていったらしい。残ったのは八人――どいつが残って、どいつを連れていったのか其処まではまだ聞いてねぇが、それで未払い分の満額を無理やり売りつけたらしい」
それを聞き奏吾は頭痛を覚える。ギンリエという奴隷商はドープスの後釜なのだからルチーニのお抱えになって日が浅い筈だ。そう考えると、少々その奴隷商に道場を禁じ得ない。最後の最後までやらかしてくれる……と。
もう二度とあの手合いとは会いたくないのだが、そうもいかないのだろうなと奏吾は内心で溜息を吐くしかなかった。
あれ程テンプレに突っかかってきた男だ。これが漫画やアニメなら、必ずどこかで再会する事となるだろう。それも凄く面倒で嫌な出来事で。
何より――、ルチーニが連れていった二人の奴隷。
その内の一人は間違いなくあの蜥蜴人族ディノであろう。
あの奴隷達の中で、彼だけは突出して強かった。自分にあれだけの魔力を持っていると知った今後はもっと強くなる事だろう。そして奏吾の前へまた立ちはだかるのではないか……そんな予感が奏吾にはあった。少なくともまた会う事になるだろう。そんな縁を感じる。
もう一人はおそらく最後まで残っていたあの騎士風の男だろうか、護衛という任務を考えれば守備力を中心に考える必要があると思うと妥当かもしれない。
「そこらへんを含めてアクアムには、奴隷の買取りやらなんやらで動いてもらって訳だ。――っていうか、本来は依頼を取り下げてもらうように頼もうと思ってたんだが、それがあっという間に終わっちまったんでこんな話になっちまった。何か他に聞きたい事はあるか?」
「う~ん、そうですね。一応、ルチーニの奴隷で誰が残ったのか解ったら教えてもらいますか?」
「なんだ坊主、アーニャだけじゃ足りないってか?」
ディックはそう言っていやらしく口端を釣り上げる。それにアーニャが眉間を皺寄せる。
「違いますよ。残った方よりも、ルチーニが同道した方に興味がありまして。奴隷を買うつもりはありませんって」
「なんだよ、今回の件で坊主もそこそこ稼いだろ? 奴隷の一人や二人買えるだろ? 確かエルフの女もいたよな」
「奏吾様! まさかあのエルフを買われるのですか? 私にも手をお出しに……ビギッ」
「すみません、今のは聞かなかったことにしてください」
アーニャの口を手で塞ぎながら、奏吾は殺気を放ちながら告げる。それを見てワーカーは笑うのを必死に堪えるが、ディックは快活に笑った。
「おうおう、聞かなかったことにしてやるよ。まぁ、ちょっと面倒な依頼の時に交渉には使うかもしれないがな。ガハハハ」
「……」
「そう言えば坊主。お前新人制度空けたんだよな? ならアーニャとパーティギルド組まないのか?」
「パーティギルド? サイドBみたいな?」
「そうそう。ギルドってのはようは互助団体って事だ。冒険者全体の後方支援の互助団体が冒険者ギルドなら、パーティギルドはようは気心しれた仲間と組む現場の互助団体だな。パーティ名義で預金も作れるし、多人数必須の依頼なんかじゃなにかと優遇される。それこそ護衛とかな。何よりパーティに入れば税金が一人ずつじゃなくてパーティ一括で支払う事になるから面倒じゃねぇし、少々割安になる」
ちなみに、一時的にパーティを組むというのもあるが、これはパーティギルドと違い冒険者ギルドに登録しない為、気安く出入りなどもできるが、報酬の内訳などで揉めたりすることもある。現在は奏吾とアーニャの関係がこれに近い形だ。
「パーティですか……そういえば、前に奏吾様はサイドBに誘われていましたね」
奏吾の手から解放され、少々口惜しそうにアーニャは告げた。
「なんだワーク、お前が唾付けてたのか?」
「別にオレ達は無理強いしないよ。そりゃ入ってくれたらオレもみんなも喜ぶだろうが、ソーゴが入りたければ入ってもいいし、別に入りたくなければ入らなくていい。別のパーティ作ってもいいし、入りたいときに入って出たいときに出ていい。お前だけの事じゃ無い。アーニャの事だってあるしな」
「ワーカーさん……?」
「オレ達は……そう、キッパ風に言うなら『オレ達は友達』だろ? 別に同じパーティじゃ無くたって関係が変わるわけじゃない。ダチが必ず同じパーティである必要はないからな」
ワーカーそういって照れ臭そうに笑い、ディックも「違いねぇ」と頷く。
「そうですね……少し考えてみます」
奏吾はそう言ってアーニャを見つめた。
「私は奏吾様の側にいれれば、何処でも大丈夫ですよ」
アーニャの言葉が少々重く感じた――が、同時にとても頼もしくも思えた。