♯40 決闘の結末
今話をもちまして、決闘は決着です。
第二章改変まえからお読みいただいていた方々、本当に遅くなり申し訳ありませんでした。
一応、続きは書いておりますが、今後はできるだけストックが溜まるまで今回のような短期の定期更新は控えさせてもらいます。(また半年とか煮詰まってしまいそうなので)
それでも、第二章後半は来週の頭にでも更新しようと思います。第二章が終わるまでは出来るだけコンスタントに書いていきたいと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。
誤字脱字のご報告、評価、感想等つけてくれると嬉しいです>>
反応があると筆者は単純なので、テンションが上がり頑張って書けるで、よろしくお願いします>> ぜひぜひお願い致します>>
奏吾は真っ直ぐとディノに向かって跳び、ディノはそれを転がるように避けると地面に突き刺さっていた自分の大斧を軽々と片手で引き抜く。
そこへ奏吾が今度は空中へ踊りながら回転しつつその遠心力でディノへと斬り込む。それをディノは大斧で受け止めるが、その反発力をいなしながら奏吾はディノの肩へと蹴りを入れる。その身体をディノは空いた手で掴みにかかるが、蹴りの勢いで奏吾は宙返りしながら地面へと着地する。その刹那を狙ってディノが追いかけ突進し体当たりするが、すかさず奏吾はバク転しながら距離を取る。ディノはなおも諦めず、その勢いのまま大斧横に薙ぎ払う。その凶刃をギリギリで躱しながら、奏吾は再び低く跳びディノに肉薄する。斬り込もうサイドBを構えるが、その眼前にディノの太い尾が迫る。「ゲッ――」と苦い顔をしながら、奏吾はそのまま前転してその尾を躱す。そこへ巨大な影が落ちる。
ディノが奏吾に向かって巨腕を振り落とす。
「マジかよ――、あぶねぇ!」
奏吾はというと、そのディノの拳を片手で受け止めた。しかしその威力は凄まじいのか、受け止めたインパクトで奏吾の足元にクレーターが出来てしまっている。
「なんちゅう、腕力だよ。まったく――」
奏吾はディノのその覚醒された力に呆れていたが、それ以上に茫然としていたのはその決闘を見守っている冒険者達。そして騎士達だった。
「もう次元が違いすぎる。これが――ディノの本気か! さっきまでのディノとは、いや今までのディノとは桁が違うではないか!」
「おそらく、奏吾様はこうなる事を望んで彼を挑発したのだと思います。奏吾様は最初からあのルチーニに興味は無さそうでした。しかし彼の事だけはずっと気にしていましたから……」
アーニャの言う通り、今回の決闘で奏吾は何よりもディノとの決闘を望んでいた。確かにルチーニは面倒ではあったが、正直決闘を受けてまで解決を図ろうなどとは思ってもいなかった。実際、ルチーニに何を言われようが、無視すれば良いだけであるし、最悪多少脅せばなんとかなるような、そんな大した玉ではないというのが、ルチーニに対する奏吾の印象である。
それでも決闘を受けたのは、今後起こるかもしれない面倒事を一気に解決できるかもしれず、その上でディノという蜥蜴人族に興味を持ったからだ。
昨日、ルチーニに連れられたディノを見た際、奏吾は彼の鱗から垂れ流される氣――つまり魔力を視ていた。その逞しい身体は、どう考えてもその魔力に影響されている可能性が高く、その実力が高い事を窺い知る事ができた。
奏吾はディノに対し、この世界に来て未だに経験していない高レベルの冒険者との対人戦闘ができる好機と感じ取った。
しかし、実際に相対してみると一向にディノは“魔力”を使用しようとはしない。魔力を鱗から垂れ流しはするものの、生身の身体能力のみをもって迫るだけで、魔術を顕現するどころか、纏う気配もない。最初は様子見なのかとも思ったが、その一撃を躱しても警戒して身体強化の魔術さえも起動させない。
そこで『どういうつもり』なのか聞くと、ディノは『奏吾に殺されたい』と答えたのだ。
対人戦の訓練とはいえ、奏吾自身本気でディノと相対したいと思っていただけに、これには正直怒りを覚えた。それになにより、かつての自分に何処か似たディノの雰囲気に同族嫌悪のようなものを感じた。
だから聞いたのだ。昔の自分だったら、二か月前の自分だったら肯定するかもしれないような質問を――。
『死ぬためにワザと負けるのか』――と。
しかしそれに対する返答は否定だった。そして彼は至って本気だったというのだ。
魔力も使わず、纏わず――そこでようやく、奏吾は自分が何か勘違いしているのではないかと考えた。
もしかして、このディノという男は自分が魔力を使っている事を知らない、いや気付いていないのではないかと。
確かに、今まで彼の魔力が揺らめいたのは、初めて会った時の一瞬の殺気。そして決闘で最初にルチーニの後ろを取った時、そして一対一になった最初の突進の時だけであった。
無意識に魔力を微量にも使っているが、本人は魔力を使ってる事に気付いておらず、魔力のコントロール方法どころか、そもそも自分が魔術師の素養がある事を知らないのではないのか……。
それが奏吾の出した推論だった。
確かに本来、魔力は可視できるものでは無い。先の身体強化の魔術のように、余剰分の魔力が濃い密度で吹き出すなどして反応しなくては通常、見る事すら叶わない。
だからこそ、この世界の住人は魔力を“なんとなく感じる”事でしかその存在を知る事ができず、アーニャが言っていた初期暴走でもない限り、自分が魔術師になれる素養を持っている事に気付くことはできない。
この世界の魔力のコントロールは、師父から教えを受けた奏吾からみても、あまりにも稚拙で感覚的過ぎるきらいがあった。その為、魔力というものが魔力を透せば視える、という奏吾にとっては基礎的な事さえもどうも知らないようであった。
最近、アーニャに奏吾が師父流の氣のコントロール法を教え始めた為、アーニャも集中すれば視えるようになっているが、ゾーマン出身のアーニャでさえ魔力が視えるものだと知らずにいた。
ならば魔力が視えないディノが、自分が魔力を持っているなど知らないとしても不思議では無い。アーニャの説明通りなら、この世界の生物は誰もが大なり小なり魔力を有している。その中で魔術師なれると言われるのは、幼い頃に初期暴走なるものの有無で判断するそうだ。
ならばディノにもその初期暴走があってもおかしくはないのだが、奏吾は彼にその初期暴走が無かったのではないかと推測している。というのも、ディノのもつ紅い鱗――あれが中々に特殊で、ほぼ常時、一般平均以上の魔力を垂れ流し続けているのだ。
どういう理屈かは奏吾自身も理解していないが、その鱗により魔力が暴走する程維持できないまま成長した結果、初期暴走が起きなかったのではないかというのが奏吾の推理である。
だが、そうなると奏吾が戦いたいと思っている“本気”のディノとは戦えない可能性が高くなってしまう。だが同時に先の質問に答えた後のディノの魔力放出量が上がっているのに、奏吾は気が付いた。そして彼はどうやら自分が愚弄されたと怒っているようである。
もしかして――、
そこで思い浮かんだのは日本で読んだ七つの玉を集める漫画である。その漫画には奏吾はオリジナルの技を開発する際に何度も参考にしている。
その中で主人公が友人を敵に殺され、怒りで覚醒するというエピソードがあった。これは後に主人公の息子も同じように覚醒していたので、よく覚えている。
うまく、怒らせる事が出来れば彼の本気を見ることができるかもしれない。
しかし親しい者を殺すとか、刃傷沙汰は避けたい。その時に思い出したのがアーニャに前にお説教を頂いた、獣人を魔物扱いする事だった。
そして、この画策は思いのほか功を奏し、ディノは覚醒(本気を出)した。
「予想以上だったな――。ただ、俺の役割が悪役っぽい上に、流石に自己嫌悪がキツい…・・」
最初の尾の一撃は流石に驚いた。上手くいくか半信半疑だった為油断していたのは否めない。しかし、突然あの太い尾を振り回したのは面食らった。すぐに氣で強化した両腕で防いだが、衝撃波だけで観衆をなぎ倒し、砂塵を巻く程の威力とは流石に奏吾も恐れ入った。その証拠に、少しの間両腕が痺れたぐらいだ、
それでも予想以上の満足いく結果に、奏吾は思わず笑みが零し、痺れが収まるとそのままディノとの戦闘へと突入したのだった。
そしてそれから五分近く――奏吾とディノの攻防は続いた。
奏吾の戦法はフェイントを混ぜながらの多角的なヒット&アウェーであり、ディノはその攻撃に合わせたカウンターを中心に時折、突進や奇抜な尾の攻撃を混ぜて応戦していた。
その場にいた誰もが見た事もないような、上次元の応酬が繰り広げられていた。しかし――。
「やはり、それでもソーゴ君の方が強いか――」
此処まで来ると、観衆の冒険者達も奏吾がワザとディノに暴言を吐いた事を感づいていている者も多く現れていた。そして同時にこのとてつもない二人の決闘を食い入るように見ていたのだが、時間が経つにつれてディノの動きが悪くなっている事にレッドロックは気付き、今度こそ本当に決闘が終わる事が確信していた。
「末恐ろしいな――お前の主は――」
レッドロックはアーニャにそう本音を零す。ルチーニの企みを看破し、八人もの奴隷を一蹴し、そして敢えて暴言を吐いてまで相手の隠された才を引き出したその上で勝つ。
レッドロックから見れば、奏吾はディノ以上の途方もない規格外の化物でしかない。
「私のたった一人のご主人様ですから――」
そうレッドロックに返答するアーニャは、この決闘が始まって初めてその表情を崩したのだった。
ディノは自分の身体が異常な程に軽い事に驚いていた。そして自分でも信じられない程の力を出している事も。それに気づいたのは奏吾と戦い初めて少し経ってからだった。
自分の体と思えない程自由に体が動く。そして強者であると思っていた奏吾と互角とまでは言えないが、渡り合う事ができている。
それが何故かとても嬉しかった。
戦えることが嬉しかった。
ただ嬉しかった。
途中からはただただ夢中で何も考えず、その初めて覚えた快感に身を任せた。
自分にまだこんなにも力が隠されていた事に、驚きと歓喜で打ち震える。
そしてディノも先程の奏吾の暴言が自分の箍を外してくれたのだと気付いた。
その証拠が、奏吾は満面の笑みである。ディノを嘲笑していた時のような歪さはもう無い。無垢な子供のような笑いながら、彼は剣を振るっている。
もしかしたら自分も同じように笑っているのかもしれない――そう思うと少々可笑しかった。
だが、残酷な事に楽しい時間ほどあっという間だ過ぎてしまう。だんだんと動きのキレが悪くなるのをディノは感じ始めていた。
せっかく、初めて『楽しい』と『嬉しい』と――『喜び』を知ったというのに、もう終わってしまう。
ディノは奏吾の剣を弾くと、直立で立ち溜息を一つついた。
「なんだ休憩か?」
「よく言う。お前も気づいているのだろう? 自分は終わりが近い事を――だが、それで構わない。自分は、自分も知らない自分を見ることが出来た。お前には感謝している」
「えっ、俺かなり酷い事言ったと思うんだけど、なんで感謝?」
「お前は演技が下手くそだ。しかしその下手くそな演技で“本気”を出せた自分がいう事ではないがな……おまけにその“本気”でもお前の本気を引き出せないのだからグウの音も出ない」
ディノの言葉に「ははは、やっぱりバレてたか……」と奏吾は苦笑していた。
「魔術もまったく使わず、剣術と体術だけでしか攻撃してこないのだ。流石に気付く」
「一応、身体強化系? の魔術は使ったんだけど――」
それにしたって、自分に合わせてくれていたのだとディノは理解していた。そうディノという男の人生において、初めてディノは他人の気持ちを理解していた。
そして自分の気持ちも。
楽しかった――嬉しかった――戦いながら、まるで戦う事で対話しているようなこの感覚。
このまま、ずっとこのまま永遠に、そうしていたい。
このまま、自分は生きているのだ――そう実感していたい。
だが、それは叶わぬ望みだ。
「だが、お陰で思い残す事も無く、スッキリとした心持だ。だからこそ、今度こそお前に引導を渡してもらいたい」
新たな望みは叶わなくとも、古くからの願いは叶う。
「それでも死にたいのかアンタは――」
本望だった――ディノはその人生の中で一番充実していた。
「言っただろう、どちらにしろ死ぬのだ。心配するな、今度は本気の本気で行く――」
ディノはそう云って、大斧を両腕で上段にかまえる。
「まったく――、言い残す事はあるか――?」
奏吾もそう言うとサイドBを片手で八双にかまえ、左手を刀印にかまえて突きだす。
「願わくば、尾は斬らずにいてくれると嬉しい――」
「別にいいけど――あれだけ振り回してたじゃん。今更なんで?」
「戦っている間は夢中でな……ただ、蜥蜴人族は逃げる際に尾を切り離して囮にする。だからこそ、尾を失うのは恥だとされている」
「成程まるで侍だな――、でも嫌いじゃない。承った!」
「心遣い感謝する!」
そして次の瞬間、両人ともに駆けた。ディノはその鱗の光を一段と輝かせ走る。
そして、
「ウオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
なんの変哲もない降り下ろし。しかしその一撃は今までのものとは比べものにならない。弧を描くように大斧が地面へと――。
「お見事――」
奏吾はディノの懐に入り込み、その斧の長い柄をサイドBで切断していた。突然遠心力に放たれた斧の刃部分は空中へと舞っていく。
「だからこそ、俺の本気も少し見せてやるよ……」
奏吾はそう言って頭上のディノに笑いかける。ディノもまたそれに笑顔で応えた。
「ありがとう――」
奏吾は左足を一歩前へと踏み込むと、ディノの懐に手刀の先が軽く触れる。
「虎砲――!」
その手刀が刹那に拳になったかと思うと、ディノは真っ直ぐ後ろへと吹き飛んだ。
その先にいたルチーニを守る騎士風の男の顔に驚愕が広がる――。
どぉおおおおおおおおんんんんん!!!!!
次の瞬間にはディノは騎士風の男を巻き込んで、粉塵をまき散らしながら観衆の中へ飛んでいき、縺れうようにして倒れた。
ディノは奏吾に敗北した。しかし失神した騎士風の男を枕に眠るディノのその顔は、とても安らかだった。
「お、おい貴様ら。何をしてる。起きにゃいか! 貴様、早く起きて、奴を、あの詐欺師を――」
なんとかディノに巻き込まれずにすんだルチーニは顔面蒼白で失神した二人に向かって叫ぶが、そこへズコッと背筋に嫌な音を聞いた。
恐る恐る背後を見ると、先程奏吾に斬られたディノの大斧の刃が背中ギリギリに突き刺さっていた。
「ひっ、ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「さぁて。やっと一対一になった。さぁ後はアンタだけだ」
奏吾は満面の笑みルチーニの前に立つと、その喉元にサイドBの剣先を突きつける。
「ひぃいいいい!」
「悲鳴はニャァじゃないんだな。さて、戦わないのか『道具使い』?」
そうはいうものの、流石にルチーニでも先程の奏吾とディノの戦闘を目撃していたのだ。自分では太刀打ちできないどころか、奏吾にとって自分を殺すのはごみ屑をすてるよりも簡単だと理解していた。もう闘う気など起きるはずもなかった。
「お、俺様は――このハルシャを支配するキノック伯爵の三にゃんだぞ! こ、こんなことして……許されると……」
「赦されるもなにも、決闘を挑んで来たのも、宣誓書に書いたのもアンタだろう? 死ぬ可能性もあるって書いたのも。まさか今更命乞いか?」
奏吾の言葉にルチーニは既に生きた心地などぜず、ただただ首を横にふるだけだ。
「ギルドだけでなく、騎士を――王国まで巻き込んだんだ。レッドロックさん、ちなみに王国が関わった宣誓書って、取り下げなんてできるんですか?」
突然話しを振られたレッドロックは多少慌てたが、咳ばらいをして佇まいを整えた。
「王国が認めたものは取り下げなどきかん。もし取り下げたら王国の威信に関わるのでな」
「き、きさま――警備隊長の分際で――」
「さてさて、そう言う訳でちゃんと決闘の決着はつけなきゃいけない訳だけど。えっと――確か決着方法は、相手が降参を宣言、もしくは戦闘不能になった時点で決着とする。特に時間の制限はつけないものとする。ただしこの決闘で死傷者が出ても、冒険者ギルド並びに勝者には責任は負う事は無い――。つまりアンタを殺しても問題なかったんだよなルチーニさん?」
「き、貴様――詐欺師が俺様の命を取ろうと言うのかにゃ――」
「アンタが負けを認めないってならな。それに俺は言った筈だ――アンタが死ぬかもしれないって、解ってるか? ってね」
奏吾はそう言うと駄目押しとばかりにわざとらしくサイドBを振り上げる。
「サヨウナラ……」
そしてそれを降り下ろす――殺気でたっぷり濡らして。
「ま、待つにゃ! 降参にゃ、俺様の負けにゃ!」
サイドBの切っ先がルチーニの鼻先で止まる。ハラリとルチーニの前髪が斬れ落ちた。
「なんだって?」
「降参にゃ、負けを認めるにゃ! 敗者として宣誓書を遵守するにゃ――」
奏吾がレッドロックに視線を送るとレッドロックが頷いて声を上げる。
「勝者、ソーゴ・クドー。よって宣誓書に誓った敗北条件をルチーニ・キノックは順ずる事を、王国騎士団ならびに冒険者ギルドから命じる!」
ルチーニはその言葉にがくりと肩を落とす。
すると奏吾がそんなルチーニに笑顔で右手を差し出した。
「な、なんのつもりにゃ……」
奏吾を訝しむルチーニだったが、奏吾は何も言わずに右手を差し出したままだ。
「ふ、ふふ詐欺師でも多少の礼儀は知っているとでも言いたいのかにゃ?」
ルチーニはそう小ばかにするように必死な抵抗を見せながらもその右手を取ろうとしたが、パンっとその手を払った。
「な、何をするにゃ! 貴様、敗者への礼儀も知らにゃいのか!」
「何言ってんだこのバカ! 早く四十万出せって言ってんだよ!」
奏吾はそうまた右手を出してクイクィっと催促した。
「宣誓書に書いただろ? 『にゃ』って使うなって。レッドロックさんが決着を告げてから四回『にゃ』って言ったから四十万払えっての――」
ルチーニはそれを聞いて慌てて自分の口をその手で押さえる。やっと自分の置かれた状況を理解したようだったが、既に言ってしまった事実は変わりようが無い。
なにせ多くの冒険者達が、それを聞いているのだから。
「ルチーニ殿、宣誓書に則り、早々に今の四十万At支払う事を命ずる」
「にゃ、にゃにっ!」
レッドロックの追い討ちに、思わず反応してしまいルチーニはまた口を噤むが、もう後の祭りである。
「はい、六十万!」
奏吾は満面の笑みでそう値を釣り上げ、ルチーニの顔は怒りで真っ赤になっていく。
だがその顔を見て奏吾は、より一層厭らしく口の端を釣り上げた。
「ビフドンさ~ん、ギルドに依頼を出したいんですけど良いですか?」
突然名前を呼ばれ、今度はビフドンが疑問符を浮かべる。まさに自分の事ですか? と言わんばかりに自分自身を指さしていた。
「依頼ですか?」
「えぇ、このルチーニが『にゃ』と言ってるのを見かけたらギルドに報告すると言う依頼です。報酬は一回の『にゃぁ』につき五万でどうでしょう?」
その言葉にビフドンとレッドロックはニッコリと答え、観衆の冒険者達は歓声を上げた。
そしてルチーニだけは口を押えたまま絶望でその顔を濡らしたのだった。
妹『お久しぶりのうっそよこく~♪」
兄『まだ、あったんだこの企画……休載中で没になったと思ってた……」
妹『なに、言ってるんですか! この嘘予告が無くなったら存在が消されてしまうんですよ』
兄『あぁ…お前にとっては死活問題な訳か』
妹『いえ、お兄ちゃんのです』
兄『なんで、俺!?』
妹『だって、今回の話しでお兄ちゃんの出番終了ですから…』
兄『な!? いや、待て待て。これは嘘予告だ。そんな嘘…流石に俺も読者も引っかからないわ……』
妹『えっ、でも次回の原稿ここにあるんですけど……ほら、お兄ちゃん、つまり『奏吾』ってまったく出てこないですよ……』
兄『んな馬鹿な……。えっ、あれ? 確かに……えっ、一言も?』
妹『さて、読んでいただいた皆様には本当にご迷惑おかけいたしました。『RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~』再始動です。今後ともなにとぞよろしくお願い致します。ということで、ついに決着がついた決闘! お兄ちゃんにボコボコにされたディノの運命は――!? おそらくこの小説の中で一番悪役っぽいお兄ちゃんにいじめられた豚さんはどうなってしまうのか? そしてクランクアップのお兄ちゃんは今後嘘予告にも出られるのか!?
謎が謎を呼ぶ次回『RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~ 第二楽章最強の冒険者編 ♯41 作者の陰謀』 お楽しみに!!』
兄『えっ、ちょっとこの原稿本物!?』