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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第二楽章 最強の冒険者
33/49

♯30 遅れてきたテンプレ

更新が滞り申し訳ございませんでした>>第二章以降から、勢い任せで書いてしまっていた為、色々不都合が生じて、書き直させて頂きました>>

ですが、基本のストーリーの流れは過去の ♯36(奏吾とディノの決闘前)までは変わりませんので、既にそこまで読んでいただいている方は、♯37から読んでいただいても大丈夫です>>

最新の♯37までは二時間おきに更新していくつもりですので、それまで大部変更に書き直した、新しい第二章を楽しんでいただければ幸いです>>


誤字脱字のご報告、評価、感想等ありましたらいただけると幸いです>>

反応があると筆者は単純なので、テンションが上がり頑張れます>>


今後ともよろしくお願い致します>>


 話しは二人が二層へとやってくる数時間ほど前に遡る。

 奏吾とアーニャは、奏吾の冒険者認識証の更新の為に冒険者ギルドへとやって来ていた。

 というのも、冒険者登録をした新人制度(ルーキールール)の期間が過ぎると、最初の認識証の更新が可能になるからだ。

 奏吾がこの時点で持っている認識証には『name Sogo―Kudo  lank 7thclass』と名前と位階制度のみがプレートに刻印されている。しかし新人制度の期間が終了した冒険者の認識証には、名前の前に『job―aventuristo』と職種に冒険者(aventuristo)の一文が追加される。

これで正式に冒険者ギルドで冒険者として登録されたという事になり、位階制度と依頼範囲の制限が解除され、実力に応じて位階制度が上がったり、ハルシャでいえば別の街へ行ったり、商隊などの護衛依頼が受けることが出来たり、何より魔の森と大迷宮の二階層以上へと行くことが許される。


 勿論、依頼は自分の位階制度の一つ上までしか受ける事が出来ないのは変わらない。しかし魔の森や二階層以上など、一階層や平原などよりも貴重な素材を採収できるようになり、場合によってはこの初めての更新で、位階制度の昇級。もしくは飛び級もありえるので、冒険者登録をしたばかりの者達にとっては、自分の力量を知る最初の試験日のようなものであるため、待ちわびる程楽しみな日である事は疑いようもない。


 奏吾もまた同じようにこの日を楽しみに大Ⅶ位の依頼を地味にこなしつつ、アーニャに色々と教わりながら、新人制度の期間が終了するこの日を待っていた。


 しかし本来の予定では、今日の早朝には冒険者ギルドを訪れ、更新を済まして二階層へ向かう予定だった。

 それが真昼近くになってしまったのは、昨日予定していた準備が出来なかった為だ。


 というのも前日未明にワーカーとルルスの息子エストンが生まれた為に、午前中は疲労の所為かワーカー宅に訪れていた者は皆眠ってしまった。

その上、午後からは細やかな宴が催されあっという間に夜になり解散。

 二層へ向かうための準備として予定していた日を、丸一日ビヨンド邸で過ごしてしまったのだ。

 おかげで奏吾達は予定を変更し、今日の早朝から商店街へ向かい準備をし、およそ半日遅れで冒険者ギルドへとやって来たのだった。


「さて、早速更新を済ましちゃいましょう」


 アーニャは意気揚々と受付へと向かって行く。


「なんか楽しそうだな」


「勿論です。奏吾様ほどの人がずっと大Ⅶ位だったんですよ! もう歯がゆくて歯がゆくて……今日の更新で昇格するに決まってますから! 最低でも大Ⅲ位。もしかしたら大Ⅱ位や大Ⅰ位だって可能性はありますし」


「いや、最高で大Ⅳ位ってとこだろう。それ以上は首都のギルド本部の審査がないとダメなんだし……正直一つ上がれば万々歳ってところじゃないの? 実際大Ⅶ位の依頼しか受けてないんだし」


 奏吾がそう言うと、アーニャは少しムッとした風に口を尖らせた。


「しかし奏吾様は大Ⅲ位のヘビーベアを倒しているんですよ。それも同時に二体も。本音をいえば私と同じ大Ⅱ位かそれ以上の実力はお持ちの筈です」


「とは言っても、それは俺個人の実力……って訳じゃないし。なぁ?」


 奏吾はそう自分の肩に捕まっている影炎に声かける。しかし影炎は眠たそうに『ナァ~ア』と欠伸をするだけだ。


「それにほら、正直あんまりこの世界の魔術が得意って訳じゃないしな」


 この二ヶ月の間、奏吾は確かにアーニャに魔術を教えてもらっているが、その成果はけして芳しくは無かった。

 同じ魔力を使っているのに、この世界の魔術と奏吾が師父に教わった法術には、何かしらの差異があるようで、その習得には困難していた。

 しかし奏吾自体はあまり気にしていなかった。

 師父から教わった法術は、その発動方法こそアーニャの説明とは違うがとても良く似ているらしい。

 そもそも方術も氣を使うのだから、氣=魔力であるのならば似ていて当然な気もしなくはない。が、そのお陰で奏吾のついたゾーマン出身という嘘も相まって、方術自体がゾーマンの特殊な魔術として見られるからだ。

 無理にヘルブストの魔術、ひいてはこのトリニタの魔術を覚えなくてもなんとかなるのではないか、と奏吾は考え始めていた。


「まぁ、それでも位階制度が上がるかもしれないってのは嬉しいな」


「はい。きっと飛び級間違いなしですよ」


 そう嬉しそうにするアーニャを連れ、奏吾は冒険者ギルドの受付へと向かった。

 するとちょうど良く、リックの姿を発見し、二人はリックに声をかけた。


「あらソーゴ君、アーニャ! 待ってたよ~」


 軽い返事でリックは奏吾達を手招きする。


「朝一番に来ると思って、お姉さん待ちくたびれちゃったぞ!」


「すみません、更新済ませたらそのまま二層に挑戦しようと思って準備してたんです」


「そっかぁ、じゃぁ仕方がないかなぁ。さてさて、では早速……ハイ、これがソーゴ君の新しい認識証だよ!」


 そう言ってリックが渡したのは、前と同じような認識証だった。ただ違うのはそこに職業、冒険者の一文が入った事と……位階制度が大Ⅳ位になっている事だ。


「大Ⅳ位ですか……」


 アーニャは何か不満そうにそう告げる。


「これでもかなり在りえない事なんだけどね。新人制度から一気に大Ⅳ位なんてここ半世紀聞いたこと無い筈だから。やっぱりヘビーベア討伐が大きな要因だし」


「ですが、奏吾様なら私と同じか……大Ⅰ位でも問題無い実力を……」


 思いのほかアーニャが食い下がる。


「実力はアーニャと遜色ないかもしれないけど、大Ⅲ位以降は首都のギルド本部の承認が必要だから難しいんだよ。このヘルブストでは、何かしらの目に見える功績が必要だからね」


「ゾーマンとはだいぶ違うんですね……」


 ゾーマンの冒険者ギルドでは完全実力主義らしく、その位階制度の昇格基準も実力次第で上がりやすいのだと奏吾はアーニャに聞いていた。

 アーニャも比較的早い段階で大Ⅱ位まで位階制度を上がっていったので、奏吾もまたそうだろうと思っていたらしい。

 それでも大Ⅳ位抜擢は、それだけで凄い事なのだが……。


「まぁまぁ、アーニャ。正直、いきなり大Ⅲ位とか大Ⅱ位とかになったら、余計に変に目立っちゃうし、ちょうど良かったんだよ」


 奏吾はそう言うとアーニャの頭を撫でながら慰める。女の子は頭を撫でればなんとかなる……なんて正直思っていないが、意外にもこれはアーニャには効果が絶大だという事を、奏吾はこの二ヶ月で知った。

 正確にはユナにやっていたのをアーニャが物凄く羨ましそうにしていたのでやってみたのだが、撫ではじめた側からお酒でも飲んだの? と言いたくなるほどアーニャが目をとローンとさせるので、宥めたりするときには重宝していた。


「いいなぁ~、ソーゴ君お姉さんにもやってくれない?」


「駄目です!」


 急にアーニャから殺気が放たれるが、撫で続けられている内にアーニャの頬はまた緩み始める。

 奏吾が心の内で『アーニャさんはチョロインっすか!』と呟いているのは秘密だ。

 一方、殺気を向けられたはずのリックはまったく気圧される事も無く平然と、「あらざんね~ん」などと言っている。


「リックさん、あんまりからかわないで下さい。それより……」


「そうそう。これでソーゴ君は今日付けで正式な冒険者となりました。このハルシャ以外の依頼も受けられるし、この大ハルシャの醍醐味。上層階への挑戦権も獲得したことになります。とはいえ、命あっての物種だから、充分に気をつけて今まで通りお仕事頑張って……」


 そんな風にリックが説明している時だった。リックの目が急に鋭くなった。

 アーニャに殺気を放たれても変化しなかった、のほほんとした雰囲気が一気に冷気を帯びる。と、同時に後方から大声が響いた。


「おお、アーニャじゃないかにゃ?」


 振り返ると其処には豚がいた。いや豚の獣人だろうか? もしくは豚頭種(オーク)か……。

 その豚は二本足で立っており、如何にも金がかかっていると思われる黄金色の鎧を身にまとい、煌びやかな大きめの魔石が鍔に飾られた剣を佩いている。


「今日俺様が帰ってくると知って、わざわざ冒険者ギルドまで出迎えに来てくれたのかにゃ?」


 満面の笑みで大手を振って此方へ向かってくる豚……。その姿を確認してアーニャもまたリックと同様に殺気を迸せる。

 奏吾とは言うと、そんな二人と違い少々戸惑っていた。

 何か……何かが不自然だ……そう感じていた。


「ルチーニ……」


 アーニャの呟きに、奏吾は聞き覚えがあった。

 奏吾がアクアム達を助けたヘビーベアの一件。その発端となった領主キノック伯爵のバカな三男。そしてサーストン商会からアーニャを奪おうとして失敗し、その後身を隠すように遠方へと依頼に出たという阿保な冒険者。


 ルチーニ・キノック。


 だが、そうだとすると、今奏吾の目の前にいる男は間違いなく人間という事になる。

 豚じゃなくて!


「まったく。いつもあのアクアムに邪魔されて、愛を語り合う事も出来なかったというのに。アーニャの方から来てくれるとは……俺様嬉しいにゃ」


 そこで奏吾はやっと自分が不可解に思っていた事が何なのか解った。

 目の前にいるのはどう見ても豚だ。豚のような男だ。

 なのに、なのに……語尾が『にゃ』?

 猫耳でもないのに?

 それも男で?

 そこは『ブー』だろう。どこかの日曜にやるアニメの小学生の友人よろしく、そこは『ブー』だろう――と。


「よし、では早速奴隷の契約をしにいくにゃ。新しく使える奴隷商も見つけたから安心して俺様についてくるにゃ」


 ルチーニはそう言ってアーニャに手を差し出す。だがアーニャはそんなルチーニを見下すように、フッと嘲笑を浮かべた。


「何を言っているんでしょう。私のご主人様とお呼びするのは此処にいる奏吾様のみ。貴方が付け入る隙なぞ、まったくありませんよ」


「にゃ、にゃに……」


 ルチーニは奏吾を睨みつける。


「ソーゴ……? この街で見た事の無い顔だな。新人か?」


 奏吾は溜息をつきつつ、同時に必死に怒り(語尾ににゃをつけるなんて!)を押さえ一応貴族の三男相手と言葉を選んで答えていく。


「はい、二か月前にこの街に来て冒険者になりました。ソーゴ・クドーです。一応、アーニャの主です」


「二ヶ月前に冒険者に――? 新人制度が終わったぐらいかにゃ。にゃにゃにゃ、新人の割にはアーニャを買うなんて高い買い物をしたにゃ。物をみる目はいいようだが、残念……ソレは俺様の物にゃ。返すにゃ!」


「はぁ? あの何を言ってるのでしょうか?」


「元々、そのアーニャは俺様が買う予定だった道具だにゃ。なのにあの汚らしいサーストン商会のアクアムが、自分の側に置いておきたいがために売らなかったにゃ。それをどうやったのかお前が買った……でもそもそもソレは元々俺様のモノだにゃ。だから返すにゃ!」


「奏吾様。こんな阿保の言葉など耳を汚すだけです。リックさん、もう更新は終了でいいですよね?」


「大丈夫。ソーゴ君二階層頑張ってね~」


 女性陣はルチーニをあっさり無視して話しを進める。そしてアーニャは奏吾の手を引っ張り出口へと向かう。


「おい、アーニャ……」


「貴様! にゃに勝手に出ていこうとするにゃ! そうか金か? 奴隷とて高い買い物だものにゃ。よし、アクアムに払った倍は払ってやろう。アーニャも冷静に考えるにゃ。お前ほどの実力者が、新米如きの側に居ては意味がない。大Ⅳ位の俺様のようにゃ……」


「奏吾様も大Ⅳ位なので、お構いなく」


「にゃ……」


 アーニャが言った瞬間、冒険者ギルド中の視線が奏吾へと集まる。


「う、嘘をつくにゃ。新人制度終わったばかりで大Ⅳ位にゃど……」


 ルチーニはそう言ってリックを見る。しかしリックはただ頷くだけだ。


「くっ……、ふふふははは。冒険者ギルドも落ちたモノにゃ。こんな礼節もしらないガキをいきなり大Ⅳ位? 冒険者ギルドがこれでは冒険者の街とも呼ばれるこのハルシャの品格が疑われるにゃ。此処は、本物の大Ⅳ位……このルチーニ・キノックが、その性根を正してやるにゃ」


 ルチーニは奏吾の方へと歩み寄ると、ガシッとその肩を掴んだ。


「決闘だにゃ。アーニャと大四位の撤回を賭けて……」


 ルチーニはニヤリと嗤う。

 奏吾はというと、何故か右手の人差し指と中指を立て、その先を唇に当てる。一見何かを考えている様にも見えた。

 だが側にいたアーニャだけはその時、奏吾が何かを呟いていたのを聞いていた。


「九天応元雷……」


「俺様と勝ブギャッ!」


 バチッ――と乾いた音がした刹那、ルチーニは何故か吹っ飛び、後方にあったテーブルへと激突した。

 その後ピクピクと痙攣しながら失神していたが、周りの者はまったく何が起こったのか理解できなかった。アーニャでさえ目を丸くしていた。


「行こうアーニャ」


 唖然とする冒険者ギルドを他所に、今度は奏吾がアーニャの手を引っ張り、ギルドの出口を出ていった。





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