表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第二楽章 最強の冒険者
29/49

♯26 大迷宮

更新が滞り申し訳ございませんでした>>第二章以降から、勢い任せで書いてしまっていた為、色々不都合が生じて、書き直させて頂きました>>

ですが、基本のストーリーの流れは過去の ♯36(奏吾とディノの決闘前)までは変わりませんので、既にそこまで読んでいただいている方は、♯37から読んでいただいても大丈夫です>>

最新の♯37までは二時間おきに更新していくつもりですので、それまで大部変更に書き直した、新しい第二章を楽しんでいただければ幸いです>>


誤字脱字のご報告、評価、感想等ありましたらいただけると幸いです>>

反応があると筆者は単純なので、テンションが上がり頑張れます>>


今後ともよろしくお願い致します>>


 人間至上主義国――ヘルブスト王国。

 人族の人族による、人族の為の王国である。


 その東、魔の森に隣接する小高い丘の上に、キノック領ハルシャの街は存在する。

 その緑豊かでどこか牧歌的な街並みはその実、冒険者の街とも呼ばれるこの街の入口でしかない。

 街の最奥にポカンと空いた洞窟の入口。そしてその洞窟を抜けた崖の上から一望出来る、扇状に囲まれた城壁の内側。地上の三倍以上もの広さを有する街並みこそ、冒険者の街の核であり中心である。

 大迷宮の中に街がある――まさに冒険者の為の街と言っていいこの街の造りは、元よりこのようになっていた訳では無い。凡そ三百年前まで、魔の森に近く、丘の上に大迷宮があるというこの危険な土地は、人が立ち寄れるような場所では無く。丘の上の街も元は存在しなかった。

そんな土地を切り拓いたのは、苛烈を極めた魔族との大戦を勝利へと導いた三代目勇者、ジューヤ・ザルカント・リンクスレイが始めだと言われている。


 ジューヤはゾーマン地方に元よりあった冒険者というその職業、そしてそのシステムをヘルブスト王国へと持ち込み普及させようと務めた。

 何故、ジューヤが異国のこのシステムに興味を持ったのかは謎とされているが、その初めとして行ったのが、大迷宮大ハルシャの攻略と開拓である。

 大ハルシャはトリニタにあると言われる四つの大迷宮の内、唯一攻略された事があると言われている大迷宮だ。

 攻略したのは先々代の勇者である初代勇者アーシャだと伝えられており、その全容は七階層まであったと伝えられている。

その各階層には通称階段部屋と呼ばれる階層を繋ぐ階段が置かれた部屋が隠されていたと伝説にはあった。

その部屋には門番とも云うべき強力な魔獣ないしは魔物が鎮座していて、上層階へと向かう者を阻んでいたと言われている。現代地球のRPGなどではダンジョンのボス部屋を想像すると解り易いかもしれない。

ただし、これは七百年前――初代勇者の時代の話しであり、門番は初代勇者かそれとも他の誰かが倒したのかは解らないが、三代目勇者が攻略と開拓を始めた頃には既に存在せず。階段部屋はただの広い部屋と奥に階段があるだけとなっていた。

そして、現在はと言うと――。


「ひっろいな~」


 奏吾はまるで田舎から都会へとやってきた若者のような声をあげた。


「本当に此処にその“門番”っていうのがいたの? っていうか、こんな所を守ってる魔物ってなんなのさ!」


「初代勇者の伝説ではこの一階層の階段部屋には、岩のゴーレムだったと言われています。ただ、門番を倒して以降この部屋の中に新たな門番や魔物が現れたという話しは無いそうですよ」


「なるほど……それなら大迷宮にあんな街を造る人達が、放っておく訳ないわな」


大迷宮大ハルシャ第一階層の奥にあるピラミッド状の建造物。かつて門番が守っていたであろう階段部屋へと、奏吾はアーニャと共にやって来ていた。

 その内部は日本で言えば東京ドーム程の面積の広さがあり、そこには規模こそ小さいもののハルシャの街にも負けない街並みが広がっていた。

 その殆どがなにかしらの店であり、一番多いのが宿屋。そして食事処や商店や鍛冶屋が同じように軒を連ね、冒険者ギルドやルーメン正教の教院の派出所まで存在し、小さな村のようになっていて、現在は上層階へと向かう冒険者の為の中継地点の役割を担っている。


「これだけ立派な村があるなら、わざわざ街に戻って準備しないでここで買い物した方が、荷物も軽くていいんじゃないの?」


 「奏吾様、あれをご覧になってください」


 アーニャにそう言われ、指さされた方を見た奏吾はそこで愕然とした。


「なにあれ、干し肉で六千二百At(オータム)!? どんな高級干し肉!?」


「いえ、街で私達が購入する物とほぼ同じです。あれが、わざわざ街で買う理由です」


 ちなみに街で買う際には凡そ三分の一の値段になる。なら何故此処では値段が上がっているのかと言えば、


「輸送費か……」


「その通りです。魔獣の生肉などならまだしも、加工品などはちゃんとした場所で加工処理せねばなりません。それを街から魔物や魔獣の蔓延る大迷宮を通ってこの階段部屋まで持ってくる輸送は、単純に命の危険が付きまといます。すると冒険者などに護衛についてもらう事になり、結果輸送費が嵩みます」


「その結果があれか……」


 日本人には富士山で缶ジュースを買う。と言った方が解り易いかもしれない。輸送が困難な場所ではその分、値段が上がる事になる。

 これはこの大迷宮でも同じことが言える。今、アーニャが例に挙げた干し肉だけでなく、大迷宮の階段部屋ではその物価が街で買う物より上がってしまう。

鍛冶屋にだって鍛冶に使う炭や鉱物や道具が必要になるし、宿屋でも調度品や食材費がその対象になる。

 結果として全ての物価が上がる事になる。


「とは言っても此処はまだマシな方です。二層や三層の中継点はもっと高くなっていきますよ」


「高くなっていく……ね。階層が上がる度に危険度が増していく訳だから当前か」


 現在大ハルシャで中継点となっている階段部屋は、この第一階層の他に、二階層、三階層の三つだけである。

というのも現在冒険者達が完全に攻略できているのが、三階層と四階層を繋ぐ階段部屋までであり。四層は上層への階段を発見できていないという実情がある。


歴史上、この四階層を踏破し五階層へ到達できたのは初代勇者と、現在最強の冒険者と呼ばれているアーロン・ガラッドだけであり。アーロンはその攻略方法などを開示していなかった。

 その為、現在の冒険者の目下の目標は四層の階段までの攻略と、五層への到達であり、野心ある冒険者程上層階を目指す傾向にある。


「はぁ……、アーニャの言うとおりにするよ。上がっていく度に買ってたら、あっという間に俺達はあっという間に破産しちゃう」


「奏吾様には影炎ちゃんがいますから、予め準備していた方が絶対にいいんです。本来なら持っていく荷物の量にも限度がありますから、どうしても階段部屋で買い物をしなければなりませんし。大人数のギルドやパーティなら野営で見張りを用意する事もできますが、私達みたいな少人数の場合階段部屋の宿屋で泊まった方が、楽で安全になるのでどうしても此処に大金を落とす事になってしまいます」


 奏吾は成程と言った風に頷いている。


「流石は“神様”からもらったチート……。普通なら怒られるよな……」


「そうですね。正直、最初はただ可愛いだけかと思っていたんですが……下手すれば奏吾様の存在以上に、この仔の存在の方が異常かもしれません……さすがは伝説の勇者が持つと言われる守護霊……と言ったところでしょうか」


 アーニャはそう言いながら腕に抱えた影炎の頭を撫でている。影炎はといえば、嬉しそうに目を線にしながら「なぁあ~」と啼いている。

 ただ嬉しいのは撫でてもらっているからなのか、それともその抱えられている胸の柔らかさを堪能しているからなのかもしれない。


「まぁ、どっちにしても明後日にならないと第二階層には進めないんだし……今日はワーカーさん達にお呼ばれもしてるから、取りあえずその“階段”とやらだけでも拝んで帰ろうか」


「はぁ……、やっとなんですね。この二ヶ月どれだけ悔しい思いをしたか。奏吾様が新人だなんて……制度は制度ですが、奏吾様ほどの御方なら例外を認めても何も問題なんてないのに……これだからギルドは頭が固くて……」


 アーニャがそうブツブツと不機嫌そうに呟き始めたのをみて、奏吾は苦笑いを浮かべる。

 

 アーニャの言う通り、奏吾がアーニャを奴隷にしてから……と言うよりは奏吾がこの異世界トリニタにやって来て、冒険者となってから二ヶ月近くの月日が経っている。

 しかしその間、奏吾達は一層での依頼ばかりをこなし。二層へと足を踏み込む事はなく、それどころかこの階段部屋に来るのも今日が初めての事である。


 何故二か月もの間、奏吾達が上層階へと進まなかったのか。それには勿論理由がある。

 冒険者ギルドには新規登録した新人の冒険者にいくつかのルールが遵守させられている。

 一つは位階制度が最下位の大Ⅶ位でまず固定される事だ。つまりそれまでにどんなに力量が認められ、多大な功績を上げていても、新規登録したら暫くは大Ⅶ位の冒険者として活動しなければならないという事である。飛び級は存在せず、大Ⅲ位のヘビーベアを二体討伐したのにも関わらず、奏吾が大Ⅶ位になったのはこのルールの為である。


 次に新規登録した冒険者はしばらくの間、登録した冒険者ギルドの支部からある程度の距離内での行動を制限される。

 これは自分と同じか、一つ上までの位階制度の依頼しか受けられないというものなどで、ある程度冒険者ギルドが管理しているが、大Ⅵ位から護衛の依頼などもある上に、ワーカー達のサイドBのようなパーティギルドに所属している場合、そのパーティの実力によって、低ランクでも高ランクの依頼が受けれてしまう為に付けられたルールである。


 これらは、冒険者ギルドに登録ができる年齢が十二歳以上である事などの関係から、できるだけ新人冒険者が無茶をして大怪我をしたり、命を落とさないために三代目勇者が考案したヘルブスト王国特有のルールで、新人制度(ルーキー・ルール)と呼ばれている。


 このハルシャの冒険者ギルドの場合、大Ⅶ位の新人が制限される区域が、魔の森前の平原と大ハルシャの第一階層内とその行動範囲が定まっている。つまり事実上新人の冒険者はハルシャの街から出ることが出来ないという事だ。

 そしてこの新人制度で、義務付けられている“しばらく”という期間が凡そ二ヵ月。

 この大迷宮大ハルシャでは、この二ヵ月という期間が過ぎれば新人からやっと一人前の冒険者として認められる事になり、そして迷宮の二階層以上へと行く権利がやっと与えられることになる。

 つまり迷宮の攻略組に参加することが可能になるという訳だ。


 奏吾のその二ヵ月という期間は、残すところ明日までとなっており。そして明後日になってしまえば、大手を振って二階層以上へと足を延ばすことができる。他に初の位階制度の昇格選定も全て明後日以降に決まる事になる。

 奏吾は早速明後日二階層へと進む為に、まずその入口になる階段のあるピラミッドと、そのルートの確認と下見に今日はやって来たのだった。

二階層以降に進むとなると、距離的な問題で一日ではけして済まないため、安全地帯の階段部屋の村で泊まる他に、野宿などもする事を考えて、その準備を今日と明日で済まそうと考えていた。


というのも、奏吾達は普通、新人制度を明けたばかりの冒険者達が陥る筈の苦悩を、影炎の持つ“影空間(シャドウルーム)”で簡単に回避できるからである。


 通常、冒険者は新人制度が明けるまではソロか少人数で、同じ新人や先輩冒険者とバディやパーティを組んで行動する事が多い。

これは新人制度期間内で受けられる依頼(クエスト)の報酬が多寡が知れているのと同時に、ハルシャの地上街、地下街、商店街と一層、魔の森までの草原……と、ある程度近場での依頼がほとんどの為、仕事生活のほとんどがハルシャの街で済んでしまう為でもある。

 ようは多人数で行うよりもソロや少人数向きであるという事だ。


 しかし新人制度を終えるとそうもいかなくなる。

二階層以上になれば、その日の内に行って戻ってくるというのは距離的に困難になり、場合によっては魔物や魔獣が跋扈する迷宮内で野宿をしなければなくなる。

 勿論、危険が上がればその分報酬の額はそれまでと比べものにならなくはなるが、とても一人や少人数ではこなせなくなってくる。

 例えば野宿用の寝具なども含めた装備品が増えるというのも理由の一つであるし、野宿をするなら夜の見張りなども考えなくてはならなくなる。

 結果として新人制度を終えた冒険者達は、それまでソロや少人数であったとしても、二層以上の依頼をこなそうと思うのなら、新たに仲間を加えたり大人数のパーティ ギルドに加入したり。はたまた一時的に寄せ集めのパーティを組んだりして、大人数のパーティを組む必要がどうしても出てくるのだ。

 ちなみに、ワーカー達のサイドBなどはその中でも比較的人数の少ないパーティギルドである。


 しかし奏吾達はこの問題を“影炎”一匹で賄ってしまうことが出来る。

 増加する荷物は、今まで通り影空間へと仕舞い込み。野宿も影空間内で持ってきたベッドに安全に済ますことが出来る。

つまり、ゲームで言えば『アイテムボックス』兼『安全地帯』を持ち運びしているようなものだ。

 見張りは“猫”モードの影炎が地上でしてくれ、何か問題があれば奏吾へと知らせが行く。

 正直、下手に宿に泊まるよりもその安全性は計り知れない。

 これが先に奏吾が『流石は“神様”からもらったチート』と言い、アーニャが『この仔の存在が異常』と影炎を称した理由である。


 このようなチートを有し、尚且つ実力も存分に持っている奏吾であれば確かに二か月前の時点でも二層へ向かっても問題は特に無いであろうが、そこは制度である。奏吾も他の冒険者と同様、真摯に二ヶ月もの時間を待っていた。

ただ、アーニャには制度とはいえ二ヶ月も奏吾が新人(ルーキー)である事にヤキモキしていたらしく、この話しをするといつも不満そうな愚痴を零すのであった。


 奏吾はアーニャを宥めながら、階段部屋の奥へと進んでいった。すると暫くして大きな広場のように場所が開けた。

 半円状に広がるその広場は中央に噴水があり、そこから小さな水路が階段部屋全体へと向かっている。 その先には巨大な石壁があり、そこにポッカリと穴が空いて中には石段が覗いている。その前には鎧を着た騎士が数人、その階段を守るように立っていた。


「あれが上層階へと続く階段か……もっと関所みたいな雰囲気を創造してたんだけど、なんか公園みたいだね」


「此処はお祭りの日には屋台も並んだりするんですよ。それに決闘の時などにも使われたりしますね」


「この世界にもお祭りなんてあるの?」


「はい、ヘルブスト王国だとルーメン正教が主催する宗教的なものから、この建国を祝うもの。それに勇者にちなんだ『平和の日』『勝利の日』などには街どころか国中でお祝いするんです」


「『平和の日』に『勝利の日』ねぇ……あれ? 勇者って三人じゃなかったっけ?」


「そうです。“火の三勇”と呼ばれてます。ほら……」


そう言ってアーニャは広場の奥にある石壁の階段の少し上を指さした。

 アーニャに促され、奏吾は階段の入口近くまで近寄っていく。アーニャが指さした場所はやはりその入口の上付近で、そこには石壁に描かれた大きな壁画が飾られていた。

中央に火を吐く巨大な黄金の(ドラゴン)。そしてその龍を囲むように描かれる三匹の幻獣達。

 炎から飛び出す青く美しい鳥、火と踊る緑色の妖精、そして炎の鬣をなびかせる角の生えた白馬……。


「中央が『希望の火』を人間に授けたという黄金竜。そして周りにいるのが火の三勇が宿したと謂われる守護霊達……四聖獣図と呼ばれてます」


 奏吾はアーニャの説明を聞きながらその壁画を見上げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ