♯25 影と炎
第二十五話、第一楽章最終話です。
毎度のことながら誤字脱字の報告、感想、質問等ありましたらお待ちしております>>
是非お願いいたします。よろしくお願いいたします>>
今回は幕間をもう一話、本日午前六時に更新します。
光はいつの間にかに消え、上下の間隔も左右も判然としない。もう落ちているのかそれとも止まっているのかも解らず、ただ闇の中で自分の姿とその黒い仔猫の姿だけがハッキリと視認できていた。
目の前にいる黒い仔猫。ただそれがとても普通の猫でない事は奏吾もすぐに解った。
そもそも魔方陣から落ちた先にいるという時点でただの猫では無いし、瞳は炎のように紅く、そして尾が二つもある。
猫又――、奏吾がつい先程までいた筈の世界。日本ではそのような妖怪がいた事を思いだす。尾が二つに別れた猫の妖怪だ。
目の前にいる猫がその猫又だったとしても、そうでなくても。ただの猫と言う訳は無いと確信できる。
そして異世界に来たそうそう、守護霊の契約で出てきた魔方陣の中へ落とされた。その先にいるという事は……。
「あの似非医者の罠かと思ったけど、これが守護霊の契約……ならお前が俺の守護霊ってことなのか?」
奏吾は目の前の猫に向かって尋ねる。すると何処からか声が聞こえてきた。まるでボイスチェンジャーを使ったかのような奇妙に高い声。
『主ヨ契約ワ成サレタ。吾ワ主ノカツテノ半身。主ヲ支エタ古キ柱。モウヒトツノ器――』
「如何にも守護霊契約っぽいな……。それで、俺はどうすればいい? 契約はこれで終了なのか、それとも屈服させ従わせるためには、お前と戦わなくちゃいけないのか?」
『必要無イ、契約ワ成サレタ。コノ空間モ、吾ノ力……ソシテ主ノ力……』
「この空間が……? それはどういう意味……」
奏吾が言い切る前に猫の方に動きがあった。猫の姿が炎のように揺らめき始め、段々と大きくなっていく。その黒い炎は奏吾の身体も超える程燃え盛ると、段々とその形を変えて、そのうちにある姿へと固定されていく。
「……そ、それがお前の真の姿なのか……」
『吾ガ司リシ“力”ワ“影”……“影炎”ソレガ吾ガ名。今ヨリ主ノ金型ト成ラン』
影炎はそう言うとその影の炎とともに……、
「……スゥーっと俺の足元に吸い込まれていって、気がついたらその真っ暗な空間は無くなってて、元の森の前で立ってたんだ」
奏吾がそう言うとアーニャが抱えている仔猫の影炎が、それを肯定するかのように『ニァアア』と鳴声を上げた。
「司る力は影って、その時影炎ちゃんは言ったんですよね? という事は影炎ちゃんの属性は『影』って事ですか?」
「そうみたい。今いるこの空間も影炎の能力の『影空間』って奴で、自分の影の中に空間を創ってそこに入ったり、物を入れたりできる能力だ」
奏吾がそう言うとアーニャは周りを見回す。上も下も解らない真っ暗な空間。しかし自分や奏吾、そして影炎の姿もハッキリと視認することができる。他にも奏吾の荷物らしいものや、ゴブリンやトロルらしき遺体が同じように確認できた。
そしてアーニャからみて右上の方に水面のように光る円形の水溜りみたいな輝きが揺れていた。
「あれが出入り口ですか?」
「うん。実際は俺の影なんだけど。今は俺も影の中に入ってるから何もないのに影だけが地上にある。つまり影を置いてきたって事になるんだけど。俺がいた場合は俺の影から出入りする事になる。どうみてもチートの能力なんだけど、意外と使えない部分もあってさ。これは実験して解ったんだけど、一つはこの空間は影炎を召喚していないと存在しないんだ。だから一度でも影炎を帰してしまうと、突然中身が影からあふれ出す事になる。だから、それ以来俺はずっと影炎を召喚したままの状態にしてる。まぁ随時氣――いや魔力を影炎に吸われ続ける事になるんだけど。真の姿にならなければそんなに消費量は多くないからなんとかなってる。もう一つは別にこの空間、時間が止まってる訳じゃないらしくて、腐る物とか置いて置くとたぶん腐敗とかするんだよね……」
奏吾はそう言うと肩を落とし溜息をついた。
「えっと、時間を止める……って実際に出来たら凄い魔術だとは思いますが。なんで奏吾様はそんなにもガッカリしてるんですか?」
「だってアイテムボックスとか魔法の袋とかそういう設定でしょ? 食事とかも置いておけるし。冷たいモノを冷たいまま、温かいモノを温かいまま置いて置けるって便利だし!」
「確かに……でもそんな凄い魔術は、ゾーマンでも聞いたことありません!」
「えっ、本当にこの世界ってアイテムボックスとか無いの?」
アーニャはコクコクと首を縦に振る。奏吾はその答えに再び溜息を吐いた。しかし労せず持ち運びできる空間が存在するだけでも、この影空間は便利だと思うことにした。
影の空間である所為か、空間の中は比較的涼しくモノも腐りにくいだろうし……と奏吾は自分と同じように空間にあるゴブリン達の死体を見つめる。この死体たちも暫くすれば臭いはじめるだろう。早めにアーニャに解体方法を聞いて、処分した方がいいなと心に決めた。
実際には他にもこの能力にはいくつかの特徴がある。まず一つは夜など光が無いようなところでもこの能力は有効だという事だ。これはどんなに暗くても、何かしらの灯りであまりに薄くても影が出来ている所為なのか、それとも奏吾自身の影が魔術的な何かに変質している所為ではないかと奏吾は推測している。そうでなければ、夜になる度に影空間の荷物は、影がなくなってしまう所為で溢れ出てしまう筈だからだ。
もう一つは影空間の広さは奏吾自身の氣、つまり魔力の保有量によって決まっているという事。現在は学校の教室程度の広さの空間が、奏吾の影の中に存在している。
これは奏吾がこの異世界トリニタに来る前から氣を修練していた為に、かなり膨大な魔力量を有していた為であり、同時に今後も増え拡大していくことを示している。
これらの情報を奏吾は鑑定眼を使用して既に得ていた。
「他にもその能力というのはあるんですか?」
奏吾が物思いに耽っているとアーニャが聞いてきた。
「ん、ああその仔猫状態の影炎だと、後二つの能力がある。『影歩』と『影眼』って言って、『影歩』は自分の影の中に入って移動できる。つまりこの影空間で移動できる訳。アクアムさんが襲撃された時使ってたのがこの能力で、これで移動しつつドープスの所まで近づいたって訳」
そう言いながら奏吾は何故かその場で歩き始めた。しかしアーニャとの距離は一向に変わりはしない。
「あっ、それで急に現れたように出てきたんですね!」
「そういう事、ただこれも不便なところがあって、移動するにはこの空間で自分も移動しなくちゃいけないんだ。だからスピードとかは、俺の歩いたり走ったりする速度が限界……まぁ、俺以外は別に大丈夫みたいだけど。実際に今移動してたけどアーニャは何もしてなかっただろ?」
アーニャはそこで奏吾がおもむろに歩き始めた意味を理解した。奏吾の元いた地球にあったランニングマシンのように、奏吾はその場で歩いている。どうやらこうやって影を移動させているらしかった。だがアーニャも含め空間の中にあるモノは、場所も位置も変化はしていない。
「凄い! 凄いですよ奏吾様!」
事実、この能力は冒険者という立場的にはとんでもないチート能力だった。確かに奏吾自身が動かなければならないという制約はあるが、空間内の物量、重量、生き物かそうで無いか関係なく、大量の物資や人を運べる上に、その隠密性は計り知れない。
「ただもう一つさっきの影空間と同じで、俺が移動すると同時に地上の俺の影も動くんだ。いきなり影だけが動くんだ。昼間だと相当目立つんだよな」
「『影眼』というのは?」
「そのまんま、自分の影を通して外の様子を見ることが出来る能力だ。何故だか音も聞こえるのが謎なんだけどね。どうやらその影炎も俺の影で出来てるのか、この能力は影炎を使って情報収集したりするときは便利なんだ。この能力は影炎を使って情報収集したりするときは便利なんだ。陽炎を先行させて斥候や探索役。見張りとしても使える。ただ自分自身の影から覗くのは、この影空間と影歩で移動してる時ぐらいだよ。地上だと自分の下から覗くもう一つ目があるみたいでなんか気持ち悪いんだ……」
奏吾はそう言うがアーニャの凄いと思う評価は変わらなかった。逆に言えば夜や暗がりの場所では無敵に近いという事である。影に隠れて暗殺なんていう事も簡単に出来るだろう。まさに隠密依頼に持ってこいの能力だ。
だが、同時にこの能力の危うさも感じていた。こんな能力が世に知られればどんな人間が近寄ってくるか解ったものでは無い。
正直、先日アーニャを脅す為に使おうとした無属性魔法である氣よりも、この世界では危険で脅威のある能力と言えた。
「奏吾様、その力に関してはあまり他言しない方がいいかと思います。きっと奏吾様の魔属性魔法よりも、その能力の方が世間に知られては危険です」
「そ、そうなのかな……?」
「はい、ただでさえ勇者と同じ守護霊持ち。それも勇者と違って希少属性の守護霊ってだけでも目立ちますし、その有用性はきっと国も動きます」
「そこまで!? そういえばさっきも希少属性って言ってたよね。それはつまり俺の無属性が希少属性じゃなくて」
「はい。影炎ちゃんの“影”属性が希少属性になります。それも今までの勇者では在りえなかった、火以外の属性の守護霊です」
「それは、今までの勇者の守護霊はみんな火の属性だったって事?」
「その通りです。人々の希望となり平和を与えた初代勇者。敗北しながらもヘルブストの魔術体系の基礎を築き上げた二代目勇者。そして勝利と文化革命を起こし王となった三代目勇者。その誰もが火を司る力をもった守護霊を持っていたと言われています」
今までにも何度か勇者の存在は、色々な人との会話の端々に現れていた。初代、二代、三代。アーニャの話によれば、少なくとも奏吾がこの世界に来るまでに三人の人間が異世界からやってきて勇者になっているらしい。三人とも奏吾と同じ世界からやって来たのかどうかは解らない。しかしそれにしても全ての勇者が火の属性の守護霊だというのは――。
「ちょっと偏ってない? みんな同じ属性だなんて」
ヘルブストの魔術体系の大別による属性は五つ。火、水、土、風、そして光。
勇者がルーメンという神に遣わされたというのなら、ルーメンの司る“光”の属性になる方が可能性が高いのではないかと奏吾は感じた。
そうで無かったとしても、五つも属性があるというのにバラつかず。三人が三人とも火の属性というのは何かの法則性があるように思われる。
「それはきっとヘルブストの『希望の火伝説』が関係しているのだと思います」
不思議に思っている奏吾にアーニャが答えた。
「昔、人間はこの世界で脆弱な存在だったそうです。それを憂いたルーメン神が天上より黄金竜を遣わし、希望の火を与えた。その火により人間は魔力を得て、魔族達にも戦える力を手にしたのだと、ルーメン正教では伝えています。
だからルーメン正教、そしてヘルブストは人間こそルーメン神に認められた唯一の種族として人間至上主義を掲げているそうです」
「でも、亜人も魔力はあるんだろ?」
「はい、しかし亜人でもエルフやドワーフなどの精霊族は、そもそも天上から地上に落とされた一族とされ、元から魔力を持っていた。魔族は魔獣や魔物と同じで魔石を持っていますし、獣人は人間属から希望の火を盗んだとこの国では言われています」
「この国で人間以外が差別される。特に獣人の地位が偏って低いのはそのせい?」
「そうだと思います。精霊族は神に天上にいることを認められず落とされた種族。魔族は魔物や魔獣と同じ人を脅かす種族。獣人は人から魔力を盗んだ卑しき種族……ということらしいです」
「なんか胸糞悪い話だな」
「そうですね。私がいたゾーマンでは、あまりそういうのはありませんでした。もともとルーメン神とは別の神を崇めていた民族が多かったですし」
「他の神?」
「はい、始祖と呼ばれる神々です。狼人族ならその始祖たる狼霊がいて、その子孫達がいまの狼人族といった具合に先祖を神格化してるんです」
「獣人はそれでわかるけど、人や精霊属は? 」
「人も先祖を奉っていたり、ルーメン神を崇めていても教義が違ったり、土地や山や川などを神としていたりします。精霊属もほとんど同じですが四大迷宮のあるブロッサムを守るフリューリンクのエルフ達は、月の神アルテミスを奉っていると聞きます」
「今度は月の神か……で、それがなんで勇者の守護霊が火に偏っている事になるんだ?」
「はい、つまりルーメン正教のその『希望の火』の伝説に則れば、人間には皆、希望の火を持っているという事になります。実際、魔術を使えるようになる者で火の属性持ちになる割合は他の三つに比べると多いですし、火という属性は光と共にヘルブストでは聖なる属性になります。その為、ヘルブストは『希望の火』を与えた黄金竜を象徴として国旗に描くほどです。神であるルーメンは光、そして人間達を救う勇者は火……と言った感じですね」
なんかこじ付けっぽいなというのが奏吾の感想だった。ただ実際に三人の勇者の守護霊の属性は火であったらしい。そしてそれに倣うなら奏吾と共に召喚された勇者の守護霊もまた『火』なのであろう。
しかし奏吾の持つ影炎の属性は『影』である。
「まぁ、俺はルーメンから守護霊をもらった訳じゃないしな。チートをもらった相手が違うから、守護霊の属性も変わったのか……」
「そうですね。奏吾様のお話を聞いている限り、その可能性が一番高いかと思います」
アーニャの言葉に奏吾も頷く。そして同時にアーニャの言った、影炎について他言しないという意味が、思っていた以上に重い事を理解する。
その能力自体もチートである事は事実だが、守護霊の存在自体が勇者専用であり。また『火』の属性でない守護霊となると余計な注目を浴び、面倒事に巻き込まれることが容易に想像できる。
「はぁ……せっかく助かった命なのに、平和に暮らせないもんかな……。なぁアーニャ、ちなみにその三人の勇者達は元の世界に戻れたのか?」
「……いえ、そのような話しは聞いたことがありません。三人共、この世界で死んだと言われています」
「そうか……ただでさえ、勇者だもんな。危険な目にだって遭うだろうし……」
「大丈夫です。どんな困難でも私がお側でお守りいたします。奏吾様が影だというのなら、私が炎となりずっとお側におります。そうすれば夜が来ようと影は常に在りつづけますから」
アーニャの真剣な眼差しに、奏吾は戸惑う。
「あ、ありがとうアーニャ……おっ、もう夕方になるし、とりあえず地上に戻ろう」
アーニャが頷くと二人して頭上の光の水面へと向かう。地上に出ると素晴らしい光景が広がっていた。
やはり空ではない筈の空は朱く染まっていて、広く続く平原と草木、そして山々も同じように黄昏を告げている。そして遠くには冒険者の街、ハルシャの壁も赤く染まりそびえたっている。
その光景に思わず見惚れていると、アーニャが切なげな瞳を向けていた。
「奏吾様はやはり、元の世界に帰りたいですか?」
アーニャに言われ奏吾は胸を締め付けられるような思いになる。
それは今まで考えないようにしていた事だった。自分には元の世界に残して来た家族などはいない。自分とは違う家庭を持った父。行方不明の母はどこかにいるかもしれないが、奏吾としては祖母が亡くなった時に、自分は天涯孤独になったのだと言い聞かせた。
そしてどちらかと言えば、このトリニタ世界の方が人間関係に恵まれている。
異世界モノの主人公で、自分のような天涯孤独の場合、たいていはなんの未練もなく異世界での新しい世界を即断しているが、奏吾にはそこまで割り切れなかった。
前の世界で未練が無いといったら嘘になる。
学校や友人。完結まで見ていない本やアニメやゲーム。人並みにあった将来の夢。この世界に比べるとあまりに進んでいた生活水準……。
何よりも、人を殺してしまった罪の罰を自分は何もしていない。
氣という科学で証明できない力を使い、そして父のもっていたろう力で事件を曖昧にして、現実逃避をして、そして遂に本当に現実から異世界へと逃げてきてしまった。
倫理観も道徳観も違うこの異世界へ。
人を一人殺し、一人を傷つけておきながら、のうのうと。
『ソーゴ君は温かい心に慣れてないんだと思う』
ルルスの言葉が頭を過る。本当に馴れてないんだなと自戒する。
奏吾には今アーニャがなぜ切ない目をしているのか、解っているつもりではある。求めているであろう答えも。
しかし、それを信じきれない。そして答えられない。
地球に戻ればまた化物と呼ばれる世界へと舞い戻る事になる。そして人を殺したという現実と罪の意識に直接向き合わなければならない。
でもこの世界ではどうだろう。この世界にはあるのかもしれない。
求めていたモノが、
『――でも温もりに餓えてる。そんな気もする』
この世界で自分の求めていたモノを得られるかもしれない。この世界でなら平穏に暮らしていける。その可能性を目の前のアーニャが示してくれている。しかしそれは同時に元の世界に背を向けるという事。
きっとこのまま冒険者を続けていれば、いつかまた人を殺すこともあるだろう。それが何度も続けば? 人殺しに慣れ……元の世界で殺人を起こしたことも薄らいでしまうのだろうか? それは罪の意識から逃れようとしている事では無いのか?
やはりほとんど事故だったとはいえ、人を殺してしまった事から逃げるのは駄目ではないのか……。
思考が混乱する、感情が混沌とする。
異世界に留まるか、元の世界に帰るか……。
「わからない……。そもそも今までの勇者達がこの世界で死んだというのなら、元の世界に帰れるのかも解らないしね」
奏吾がそう言うとアーニャは「そうですか」と呟いた。そして、
「解りました。なら答えが出た時はお教え下さい。私は奏吾様が下した決断に従います。異世界に戻りたいのでしたら、その方法も探しましょう。ただどちらにしても、私はお側におります」
アーニャの言葉に奏吾は目を丸くする。
「それって、もし元の世界に戻る方法が解ったら、アーニャもついてくるって事?」
「勿論です。先程言いましたよ。私が炎となりずっとお側にいると……もう二度と離れはしません」
そう言うとアーニャは満面の笑みで続ける。
「答えを出すのに慌てる必要はありません。奏吾様が悩んでいても、答えを出されても、この世界でも元の世界でも、私は必ず奏吾様のお側におりますから……」
「慌てる必要はない……か。そうだよね、俺の冒険はまだ始まったばかりなんだし……ってこれ最終回のフラグか?」
「サイシュウ……フラグ……ですか?」
奏吾の言葉にアーニャは小首を傾げる。
「いや、何でもない。うん。取りあえず答えは先延ばしにする事にするよ。そう……俺はいま此処にいる。この異世界で、冒険者として……異世界に召喚された勇者でもなければ、人に害成す化物でも無い。なら……生きよう。今はただあの冒険者の街で、冒険者として……悩み続ける事にするさ」
奏吾はそう呟き、アーニャは「いつまでも御伴いたします」と答える。
そして夕焼けに照らされた二人の影が、ただただその後ろを炎のように揺らめいていた。
妹 「以上で、『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』第一楽章、異世界来る前からチート持ち編終幕になります。長い間のご愛顧ありがとうございました」
奏吾 「なんか、もう最終回みたいな雰囲気だな。おいッ!」
妹 「もう一話、幕間を挟みまして八月から『兄を探して異世界へ ~ Racclimosa ~』第二楽章、妹ちゃんの冒険譚編が始まります!! 遂に私が主人公です!!」
奏吾 「ちょっと待て! お前本編に出てこないんじゃなかったのかよっ!!」
妹 「テコ入れって奴です、お兄ちゃんっ! 実は前回と前々回。つまり♭2と♯24が、この物語始まって以来のプレビュー数と、ブックマークの上がり具合だったんですよ。評価までついたんですッ! 初めてですよ! ありがとうございます。♭2なんて、作者が予約投稿していたの完全に忘れていて、前書きも後書きも書いてなかったのにですよ」
奏吾 「それは……凄いな。なにか変った事あったっけ?」
妹 「そうなんです。その辺りを作者と話しあった結果。その理由は♭2に初登場した“ユナちゃん”が原因ではないかと……」
奏吾 「ユナちゃんが?」
妹 「可愛いは正義!! とまで言いませんが、どうやら幼い美少女の登場が、読者さんの読む意欲をそそったのではないかと……もぅ、皆さんったらロリコ……」
奏吾 「言わせないよ! 言ったら駄目だからね! 非難殺到だから! そんなに作者の精神強くないから!」
妹 「小学生は最高だ――」
奏吾 「だからぁあああああ!」
妹 「そもそも、この物語。アーニャさんとかリックさんとか、ルルスさんみたいなお姉さん枠が多すぎなんですよね。まるでお兄ちゃんの趣味が反映されたみたいに……」
奏吾 「グッ……、でもならなんでお前が本編に出てくるって事になるの?」
妹 「ほらぁ、前回の嘘予告で私の年齢設定が曖昧だって話があったじゃないですか? つまり私の年齢は今だに決まってないわけですよ。それこそ幼女童女でもかまわないわけですよ。だからテコ入れとして、美少女の妹ちゃんが異世界に来て行方不明の兄を探す旅に出るという新章が始まる訳です」
奏吾 「それって、俺出てこないんじゃ……主人公だよね、俺……」
妹 「そんな途中で召喚魔法を手に入れ、お兄ちゃんと一緒に行方を眩ましたアーニャさんを探して旅に出たユナちゃんと巡り合い、魔法美少女二人組の冒険譚が始まるのです!」
奏吾 「始まるのです……って、えっ、本当に始まらないよね。普通に第二楽章始まるよね? 主人公降板じゃないよね。これ嘘予告だよね」
妹 「どうでしょうねぇ……八月まで後ちょっと時間がありますからね……読者の反応によっては……『嘘から出た実』……なんて事も……」
奏吾 「いやだぁああ。やっと第一楽章が終わったばかりなのにぃいいいい!」
妹 「では、毎度お馴染の次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』
第一楽章、幕間『新ヒロインより』は六時間後。朝六時に更新です☆ では皆さんご一緒に~、小学生は~さい――」