♯23 新しい仲間(かぞく)
第二十三話です。
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次回は水曜に更新したいと思います>>
「――アーニャ、君は何者だ?」
奏吾の言葉にアーニャは少し戸惑いながら少し考え、そして今度は口を開く。
「答えられません」
「それはなんで?」
「答えても意味がない事だからです。私がソーゴ様にお仕えする事、私がソーゴ様のお側にいる事。それは私が何者かを説明したところで変わりません。むしろ説明してしまった所為で、ソーゴ様にご迷惑がかかります。故に私が何者かを説明する気はございません」
「つまり君の正体を説明するという事は、なぜ君が『俺が異世界から来た』事を知っているかという事と関係している。という事?」
「お答えできません」
「そしてそれを俺に説明すれば、俺に迷惑がかかるような、害になる事だってこと?」
「お答えできません」
「アーニャは何があっても俺に仕えたい。そうだね?」
「ハイ。もし仕えられねば私はこの場で自害するつもりです。ソーゴ様にお仕えする。それこそが、それだけが、私の存在価値。私の生きる意味。私が此処にいる理由でございますから」
その真剣な訴えに、奏吾はただならぬものを感じた。これはアーニャの言えない理由って、かなりめんど……いやヤバい事なんじゃないかと。
「取りあえず、死ぬとかってのはやめようよ。さっきも言った通り、嘘をつかない限りはアーニャを手放す気は無いし。むしろいつかアーニャが嘘をついても信じられる――ようなそんな関係になりたいから」
「嘘をついても――信じられる? しかしソーゴ様と私は、主人と奴隷で御座います。先程の命令が無くとも、主人に嘘を吐くなど」
「えっと、正直に言うと俺は別に奴隷が欲しいわけじゃないんだ。そそられるものが無いわけじゃないけど、俺が欲しいのはそういう主従関係じゃないんだよ。少なくともアーニャに対しては……」
「つまり、私のような奴隷は必要ないと――」
「いや、そうじゃなくて。アーニャに側に居て欲しいのは、別に奴隷としてではなくてアーニャ個人として側に居て欲しいって事」
「私、個人――で御座いますか?」
「そう。さっき説明した通り、俺は前の世界で自分を異端な化物だと思っていた。その所為でどこか人間不信というか、距離をとってしまう。でもルルスさんにも言われた。俺は人ととの関わりを求めていないわけでは無いって。むしろ求めているからこそ、距離感を掴めきれず、変に距離を取ってしまうって」
傷つくのが、傷つけるのが、傷つけられるのが――怖くて、近すぎないギリギリの距離を模索してしまう。
「だからルルスさんには、人との関係に慣れなさいって言われた。その時、自分が欲しかったものが解った気がしたんだ。俺がなんでサイドBのメンバーに憧れを持ったのか、サイドBに勧誘された時、悩んだのか。――俺は傷つけても、傷つけられても信じられる。そんな絆が、そんな関係が――『家族』が欲しかったんだって」
それは一時期奏吾も持っていたものだった。ワーカーの言う『帰るべき場所』帰ってこれる場所。
あの時、アーニャに抱きしめられた時に、ハッキリと思い出した。だから彼女にそれを求めようと思った。自分の為に、自分が人の温かさに慣れていくために。
あの、祖母と一緒にいた頃の自分を取り戻す為に――。
「そ、それは――私にソーゴ様の子供を産めと――」
顔を赤くし恥じらいながら、アーニャがそう返すので奏吾は慌てたように弁解した。
「ち、違う。そういう関係をじゃなくて……いやそういう関係を望んでいないかって言ったら、それこそ嘘になっちゃうけど。女性の奴隷を持つって事にそういう下心が無いわけじゃないけど……そうじゃなくて。そうだよね『家族になってほしい』ってそういう風に聞こえるよね。でもなんて言えばいいんだろう。そう、そうだ……」
目の前のアーニャを見て、その言葉が浮かんだ。
説明がつかない。ただ側に居て、自分の心の許せる。気の置けない、大切な存在になって欲しい。
それをどう言えばいいのか、どうアーニャに言えばいいのか解らなかった。
でも、それに一番合った、この場で言うのに一番いい台詞を、アーニャが言っていた事を思いだした。
「アーニャに『一目惚れした』これじゃダメかな?」
アーニャの顔がパーッと晴れ渡った。同時に恥ずかしそうに顔を下に向ける。なんか可愛いなと奏吾は思った。
「でも、ほら恋人とかになるには時間が必要……だろ? お互いの事良く知って、時間をかけて育んで……って俺何言ってるの?」
恥ずかしさとの所為か、奏吾は頭が混乱してきていた。
「い、いけません。私と奏吾様は主従の関係です。そ、その“恋人”だ、だとか……そそんな畏れ多い……ましてや、一目惚れだなんて……私はソーゴ様のお側でお仕えさせてもらえればそれだけで……た、たまにお気まぐれに、お情けを頂ければそれで……」
恋人は駄目で、そういう関係はむしろご褒美……いったいこの世界の倫理感はどうなっているのだろうと奏吾は大いに悩む。
「うん、えっとなんか話しが逸れそうだけど、すぐには無理でしょ? 俺もまだアーニャの事なんにも知らないし、アーニャも主従関係があるから、すぐに打ち解けて、『はい、恋人』ってなりにくい。だから二人ともいつかそんなの気にしない関係になれればなって。それが『嘘つかれても信じられる関係?』ってイメージなんだけど。どうかな?」
奏吾はそう言うと物凄い後悔の念が頭を過った。どこの中学生だ、告白の仕方としてももっと他の方法あっただろう。
それも会って間もない女性に対して、自分は何を言ってるのだろうか――と。
文化の違い、感覚の違い――流石に三日じゃまったく慣れない。
これは恋愛観もおおいにこの世界では違うだろう。
異世界モノでありがちな一夫多妻制? ハーレムもの? そういうのもあるかもしれない。自分がそれほどにモテるとは思えないけど、それでももしそんな事になったら?
自分はこの世界に本当に馴染めるのだろうか――そんな事を奏吾は考えていた。
「ソーゴ様、もしソーゴ様の言う、その関係になったとして、その場合私はもうソーゴ様にお仕えしてはいけないのでしょうか?」
「へ? えっとどういう意味?」
「ソーゴ様のいう……その『恋人』というか、そのような関係がソーゴ様のお望みならば、私としては否と言う回答は御座いません。善処させて頂きたいと思います。しかし私にとってソーゴ様にお仕えすることは使命であり、生甲斐であり、至上の慶びなのです。けれどソーゴ様がお望みなのは私がソーゴ様にお仕えする事では無いように聞こえて……」
アーニャは最初こそ恥ずかしそうにモジモジと言っていたが、最後の方になると本当に哀しそうにのの字を床に書き始めた。
奏吾としては対等なパートナーシップを望んでいるのだが、どうやらそれはアーニャの希望には沿わないらしい。
「じゃ、じゃあ仕えるのはいいんだけど。そのもっとフランクに俺に接してもらいたい。って言えばいいのかな?」
仕える事の許可を出してもらいアーニャは喜ぶが、同時にフランクにというのに頭を悩ませているようだった。
「そうだな、まずその喋り方から――もっと砕けた感じにならないかな?」
「喋り方で御座いますか? しかし主にそんな失礼な事を……」
そうだよね、そう返してくるよね――と奏吾は言いながら、ハッと思い出した。
「さっきの、魔法の説明をしてた時の感じ。『~御座います』って使わなかった。せめて、あんな感じにならないかな?」
奏吾が言っているのは、奏吾が自分の過去を語り、アーニャに詰め寄るというシリアスな展開を『あの、ソーゴ様……何か勘違いをなさっているような気がするのですが……』とぶった切った後の事を言っている。
確かにあの辺りから奏吾が眠りにつくまで、アーニャの口調は少し大人しくなっていた。
目が覚めて土下座した辺りからまた『御座います』が戻っていたが、せめてその前までぐらいの口調に善処できないかと奏吾はアーニャに聞いた。
「あっ、あの時は素が出ていたと言いますか、何も考えていなかったと言いますか。今思い出すだけでもなんという失礼を……」
「だから素で居て欲しいんだよ。本当はもっと砕けてタメ口でもいいんだけど」
「なりません!」
「だろ? まぁ、素が丁寧口調でその方が楽だって言う人もいるから無理強いはしないけど、せめてあの時ぐらいにしてくれると俺としては嬉しいな」
と奏吾はそう言ったが、実際は『御座います』口調よりもあの時の感じの方がちょっと大人なお姉さんと言った感じで、奏吾の好みだったというのが一番のポイントだった。
特に最後の『もう大丈夫です。貴方は一人なんかじゃありません』と言うのには、今思い出しても胸キュンの思いである。
アーニャには言わないが――。
自分でもどうもし難いほど奏吾の『お姉さん属性』は恐ろしい呪いとして奏吾の中に癒着しているようだった。むしろ一人っ子なのに『シスコン?』と心の中でツッコミを入れる。
「そ、奏吾様がそう仰るのなら……善処いたします」
直ったのか……? と奏吾は首をひねる。ただまぁ、『善処させて頂きます』じゃないだけマシなのかどうなのか? 奏吾には正解が解らない。
「奏吾様、ならば一つ私からもお願いがあります」
「おっ、いいね。そんな感じで接してくれると嬉しいよ」
思いのほか奏吾の真意が伝わったのか、お願いをしてくるアーニャに奏吾は喜んだが、
「奏吾様も、私の事をアーニャとお呼びください」
その言葉に奏吾は息を飲む。
「えっとアーニャさん。でも俺達知り合ったばかりで……」
「呼び捨てで」
有無を言わせないアーニャの目。折れるのはやはり男の方である。
「わかった。アーニャ、今後ともよろしく」
「はい」とアーニャは契約を交わした後の時のような笑顔を奏吾に向けた。奏吾もアーニャがそれで喜んでくれるのならと善処することにした。
「それじゃあアーニャ。他にも色々話はあるんだけど、取りあえず夕飯を食べに行こうか」
奏吾はそこで朝から何も食べておらず、空腹であったことを思い出してそうアーニャに告げる。アーニャも「ハイ」と答えた。
「あっ、先に言っておくけどご飯も一緒に食べるからね。これ命令」
「えっ、しかし主と奴隷が一緒に食事だなんて――」
「命令!」
「ハイ、かしこま……わかりました」
その答えに奏吾は満足しながら、奏吾は夕食の為に昨日と同じ店に向かうことにした。
これから暫くはアーニャに命令をすることがありそうで、奏吾には肩が重かった。
寮の部屋はどうしよう。またきっと床に寝ると言いだしそうだからベッドを用意しなくては、さすがに部屋は別々で納得してもらって……そこで奏吾はある事に気付いた。
「アーニャは冒険者の登録なんてしてないよね?」
そもそも奏吾が住むのは冒険者の為の『冒険者寮』である。冒険者所有の奴隷なら問題ないのかもしれないが、別々の部屋なんて取れるのだろうか? それにアーニャには今後奏吾についてもらって冒険者の手伝いをしてもらうつもりでいた。
どちらにしろ明日、アーニャの荷物を取りにいくついでに、冒険者ギルドへよって登録を済ましてしまおう思った奏吾だった。が、しかし――。
「登録はしてあります。元々、アクアム様の元へ来る前は冒険者をしていたので……」
「えっ、そうなの? じゃぁ位階制度は?」
「大Ⅱ位です」
「へっ? 大Ⅱ位――?」
ワーカーの大Ⅲ位よりも高い。そしてこの街で大Ⅱ位はリックの話によれば七人しかいない筈だった。その七人の中の一人がアーニャ。それも今日の今日までアーニャはアクアムの所にいた。
アクアム達の話に出てきたキノック三男坊が欲しがったという、この街でも五指に入る美貌の冒険者……。
厭な予感しかしなかった。
「奏吾様大丈夫ですか?」
アーニャは額を抑える奏吾に優しく声をかける。
大Ⅱ位の実力を持つ謎の奴隷メイド、アーニャ・ネイキッド。
この謎の女性の正体。それに奏吾は心当たりが無いわけでは無かった。アーニャが頑なに隠しているので聞きはしないが、奏吾がよく知っている『異世界モノ』やほかのサブカル的物語の知識、そしてシナリオのセオリーとして、奏吾にはアーニャの正体に予測を立てていた。
しかしその予想が見事に外れていると知るのは、まだかなり先の話である。
アーニャを連れ、怒りに任せて冒険者寮へ戻った奏吾。
その勢いに負け、サーストン商会に置いてけ堀を喰らった、冒険者、ワーカー・ビヨンド。
彼と商会代表のアクアムに、嘘予告の魔の手が迫っていた。
「ふっふっふ……お楽しみはこれからなのですよ」
迫りくる妹の影。
二人は無事にキャラクターを維持し続ける事ができるのか、
そして妹が企む『幼女計画』とは――
風雲急を告げる次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』
♭2 『幕間~妹のニヤケ顔』 是非ご覧ください。