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RACRIMOSA ~異世界来る前からチート持ち~  作者: 夜光電卓
第一楽章 異世界来る前からチート持ち
20/49

♯19 奴隷と主人

第十九話です。

今回と次回は申し訳ありませんが、嘘予告はお休みさせて頂きます。

本編があまりにもシリアス展開なので、嘘予告入れると流石に雰囲気ぶち壊しになりそうなのです>>

別に嘘予告ネタが尽きた……という訳では御座いません(たぶん……)

21話には嘘予告を再開いたしますので、ご理解の程よろしくお願いいたします>>

ちなみに今回から少しの間、更新時間を少しずらしてみたいと思います(少々実験をば)

一応前書きの予告通り、その日の内には必ず更新しますのでご容赦いただければと思います>>

毎度のことながら誤字脱字の報告、感想等ありましたらお待ちしております>>

是非お願いいたします(←必死過ぎ?)

次回は土曜に更新したいと思います>>


 思う所はいくつもあった。

 アーニャ・ネイキッドという名前も、どこのビッグボスだよとツッコミたかったし、仕える理由が『一目惚れ』だなんてどこの少女漫画だと言いたかった。

 自分は別に電車で痴漢からアーニャを助けた訳でも、気の好い青鬼のような友人がいる唇の厚い大男でも無い。

 どちらかと言えば童顔だし、彼のように火事から人を助けようとして――結局自分も助からなかった口だ。

 それで、その所為で自分はこの世界にいるのだから。

 だが、そんな事よりもまず聞かなければならない事があった。

 奏吾は冒険者寮の510号室、自分の部屋につくとアーニャをベッドに座らせて問いかけた。


「どういうつもりだ?」


 いつもの口調では無い。奏吾は人によってその言い方をよく変えるタイプだった。

 特にアクアムやワーカーには下手に出るような丁寧な口調になり、ゴブリンやオーク、ドープスや火事場で助けた塾講師など、場合によっては強い口調になる事もある。

 だがそんな中で、アーニャは常なら丁寧な口調になる筈のタイプだった。

 それが強い口調で詰問している。サーストン商会で紹介された時は丁寧口調だったにも関わらずである。

 これは主人と奴隷と言う契約が成立したからでは無かった。

 最大の問題はその契約中、最後に起こった出来事だ。


「どういうつもりとおっしゃいますと?」


「何故、契約に自分の命を賭けた――?」


 奏吾の詰問にアーニャの目は揺らがなかった。当たり前の事、当然の事をしたまでだと言いたげな自負が目に映っているかのようだ。


「自分が何をしたのか、解っているんだろう?」


「勿論で御座います。ご主人様が死ぬ時は私が死ぬ時。ご主人様のお命を守れないという事は、仕える者にとってあってはならない事――、その咎として己が命を賭けるのも当然でございます」


「くっ――、そのご主人様というのを辞めろ」


「それが御命令とあらば――ならばソーゴ様と呼んで宜しゅうございますか?」


 アーニャの表情は変わらない。その様子に奏吾は苛々とする。


「――、勝手にしろ」


「かしこまりました」


「あの後アクアムさんも言ってたな。普通はそこまでの契約を奴隷に課さないと。少なくともサーストン商会では行わないと――」


「存じております」


「主人が死ねば、契約は解除される。遺言で遺産として継がせる場合もあるらしいが、それにしたって、主人が死んだら奴隷も死ぬなんて契約は交わさない。死んでしまったら継ぐことも出来ないからな」


「当然でございます」


「俺は冒険者だ――命の危険が常に隣り合わせの生業だ。それで俺が死ねばアンタも死ぬ――それが解っててあんなことやったんだよな」


「大丈夫でございます。ソーゴ様は私が守ります――」


「ハハ――どこのファーストチルドレンだよ――笑えねぇよ――」


 奏吾の目は暗く冷たかった。この世界に来てからのどの時よりも。一番近いので言えばあの似非医者と話していた時か。

 深く冷たい。氷の目をしていた。


「なんであんなことした! 奴隷から解放されたく無いのか! 俺の何処に命を賭ける価値がある――!」


「ソーゴ様は私にとって生きる意味です。そして死ぬ意味です。私が存在する全ての価値です」


「なんだよそれ、訳わかんねえよ。そもそもサーストンさんの契約魔法に干渉できるって事は凄い魔術師か魔導士って事だよな? それが俺みたいなルーキーに? なんの得がある? なんの意味がある? そう言えばアンタ言ってたな俺に向かって『久し振り』って――、それは俺がこの世界に来る前に聞いたセリフだ! アンタいったい何もんなんだ!!」


 奏吾はそう言った瞬間に自分の失態に気付いた。そしてアーニャもまた驚いた顔をしてソーゴを見た。


「ソーゴ様――今『この世界に来る前――』そう仰いましたか?」


 奏吾は黙った。一番しくじってはいけない所でミスをした。あまりにも怒りにとらわれ過ぎて言葉を選ばずに使ってしまった。

 サーストン商会にいる時、一番怖れていたのがこれだった。自分の怒りに制御が利きそうに無いと自覚していた。そうなったらどうなるか解らない。

 契約後アクアムもワーカーも契約のやり直しをすぐに提案した。どうみても理不尽な契約をアーニャが干渉して盛り込んだからだ。

 ただ理不尽な目に遭うのはそのアーニャ本人であり、アーニャは頑として譲らなかった。奏吾は最初はなにも解らなかった。アーニャの最後の言葉まで契約の儀式の一つではないかとさえ思っていた。

 それがアクアムとワーカーがアーニャを説得するのを見て、違うと理解した。そこから段々と事の重大さに気付いて、怒りが増していった。

 しかしそれを必死に堪えた。

自分は怒ると何をしでかすか解らない。それは前の世界で身に染みて解っていた。

 自分はキレると何をするか解らないのだと自分に言い聞かせ、平静を保とうとした。

 どうしても前の世界での二の舞いだけは御免だった。

 それでも、もし何か起こしてしまうなら――被害者が少ない方がいい――。

 それでアーニャを連れてバガボンドまで戻ってきたのだ。

 此処なら、今は自分とアーニャしかいない。

 寮母のアンジーは帰ってくるときに都合よくなのか管理室にいない事を書く二進している。

 それで部屋に戻って、改めてアーニャに問いただしたのだ。そして、予想通りしくじった。あの時みたいな取り返しのつかないモノではないが、ある意味で取り返しがつかない事を……。


「そうなのですね――やっぱり、ソーゴ様は別の世界からいらしのですね」


 アーニャの言葉に、奏吾は背筋に冷たいモノが走った気がした。


「やっぱり――って、アンタは俺が『異世界から来た』って事を知ってたのか?」


 奏吾の質問にアーニャはしまったと唇を噛んだ。それは先ほどまでの奏吾と同じ自分のしくじり気付いた顔だった。


「なんでだ、なんで俺がこの世界の住人じゃないと知ってる!! 何処まで、何をアンタは知ってる? 答えろ――!」


 そう奏吾はアーニャに詰め寄った。


「言えません――」


 アーニャは静かに答える。


「言っても何も変わりません。私がソーゴ様に仕える事、その事に命を賭ける事――私がソーゴ様の側にいる事は何一つ変わりません」


「ふざけるなッ!!」


 奏吾はベッドに座っているアーニャを押し倒すと、その胸倉を掴んだ。


「このまま、アンタを襲う事だってできるんだぞ!!」


「ソーゴ様のお情けを頂けるなら、私にとってこれ以上喜びは御座いません」


 奏吾の啖呵に顔色変えずアーニャは言う。


「アンタを嬲って、痛ぶって――殺す事だって出来る――」


「私を嬲り、痛ぶって、ソーゴ様の気が済むのならご随意に。そしてソーゴ様にこの命を捧げられるのならば、私にとって本望で御座います」


 何も変わらない――彼女の目に、まったく負の鈍い光が過る事は無い。


「出来ないと思ってんのか?」


「いえ、ソーゴ様なら簡単で御座います」


「出来ないと思ってんだろ!?」


 奏吾はアーニャを突き放した。自分は立ち上がり、乱れた服装を直すアーニャから視線をずらす。


「俺は――人を殺したことがある」


「そのような者、さほど珍しい事ではございません。気を咎める必要は――」


「違う! 前の世界でだ!」


「前の世界では、人殺しは無かったのでございますか?」


 奏吾はそこで押し黙る。そんな事は無い。前の世界でも殺人はあった。ただ、前の世界と今の世界。その倫理観の違いを説明しても、きっとアーニャには理解出来ないだろうとも思った。それ程に価値観が違いすぎる。人の生死がこんなにも近いこの世界で、前の世界での殺人と言う罪の重さを理解させるのは途方もない壁のように思えた。

 それでも通じるものがあるとしたら――それは、


――絶対的な恐怖――


「俺は化物だ――」


 唐突に奏吾はそう言った。アーニャも不思議そうに奏吾を見つめている。


「見ろ――、」


 奏吾はそう言って右手に氣を集中させる。段々とその右手は光っていき――そして真っ赤な炎のようにオーラが揺らめく。

 まるで奏吾の怒りの炎の様だった。


「これが、俺が化物だと言われてきた理由――そして人を殺した力――俺は――」


 この世界に来る前から、チート持ちのバケモノだったんだ――そう奏吾は告げた。




次回『異世界来る前からチート持ち ~ Racclimosa ~』

♯20 『久遠奏吾』 是非ご覧ください。


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